(食品安全情報2011年7号(2011/04/06)収載)
国際的な食品由来ノロウイルスアウトブレイクは、標準的なアウトブレイク調査では探知が困難な場合がある。今回、新たな手法として、国際流通の食品を共通感染源とするアウトブレイククラスターを識別する段階的な選別基準(図)を提案した。コンピュータによるノロウイルスゲノムの一部領域の配列と疫学データとのリンクにより、1999〜2008年に欧州で報告された個別アウトブレイク事例1,456件から、共通感染源による14の国際的アウトブレイククラスターを抽出し、それらのクラスターに含まれる可能性がある個別アウトブレイク97件を同定した。アウトブレイク株(n = 1,456)のカプシド領域の配列解析から、欧州ウイルス性胃腸炎アウトブレイクサーベイランスネットワーク(FBVE:Foodborne Viruses in Europe)のデータベースに報告されたアウトブレイクの約7%(範囲2%〜9%)が国際的なアウトブレイククラスターの一部であることが示された。これに対し以前の標準的な疫学調査では、0.4%のアウトブレイクが国際的なクラスターに含まれると判定されていた。今回の結果は現行のサーベイランスに重大な欠落部分があることを示している。国際的な協力があれば、複数国にわたる食品由来アウトブレイクとして探知されるアウトブレイクの数は増えていた可能性がある。疫学および分子レベルのデータの逐次の伝達によって、クラスターを形成するとされるアウトブレイクについて速やかに追跡調査をすることにより、今回の新たな手法の検証が可能になるであろう。
結果
アウトブレイク代表株(n=1,504)のうち1,456株がカプシド遺伝子の配列解析により23の遺伝子型に分類された。
株間の配列類似性やクラスターを形成する株の割合は遺伝子型により大きな変動が見られた。相同な(100%の配列類似性)配列を持つアウトブレイク株からなる112のクラスターが識別され、1,456株のうち938株(64%)がいずれかのクラスターに含まれることがわかった(ステップ1)。
その112のクラスターのうち38クラスター(654株よりなる)が少なくとも1例の食品由来アウトブレイクを含んでおり、「食品由来の可能性のあるクラスター」と命名された(ステップ2)。
保守的な推定を目的としたため、今回の解析ではクラスターを形成するアウトブレイクの選別について、100%の配列類似性をカットオフ値として使用した(ステップ3)。
上記38の「食品由来の可能性のあるクラスター」から、食品との関連に関する統計学的基準にもとづいて、29の「食品由来の可能性が高いクラスター」を選別した(ステップ4)。
これら29のクラスターのうち14のクラスターがそれぞれ2カ国以上を含むクラスターであり、これらを「国際流通食品を共通感染源とする可能性の高いアウトブレイククラスター」と命名した(ステップ6)。
標準的な手法による以前の疫学調査では、FBVEに報告された1,456のカプシド配列のうち36(2.5%)のアウトブレイク株の配列が10の共通感染源クラスターを形成していた。これに対し今回の結果では、122(8.4%、範囲51〜166)のアウトブレイク株の配列が29の共通感染源クラスターを形成する可能性を示した。以前に報告された10の共通感染源クラスターのうち8つのクラスターは今回の手法によっても共通感染源クラスターと判定された。
以前の調査では国際流通食品を共通感染源とする複数国にわたるアウトブレイクは6件(1,456件の0.4%)であったが、今回これが97件(6.7%、範囲29〜130件)に増加した。
図:国際流通食品を共通感染源とするアウトブレイククラスターの識別のための選別基準。選別は、疫学および分子レベルでの基準を示した6ステップよりなる。各株は1件のアウトブレイクを代表している。