(食品安全情報2010年1号(2010/01/06)収載)
輸入ラズベリーの喫食に関連する3件のノロウイルスアウトブレイクの追跡調査について記載する。これらのアウトブレイクは2009年9〜10月にフィンランド南部で発生し、合計約200人が発症した。疫学調査がこのうちの1つである保育所でのアウトブレイクについて行われた。
2009年10月2日午後2時から2時30分の間、フィンランド南部の人口100,700人の都市にある保育所で、約90人(ほとんどが7歳未満の小児)が加熱していないラズベリー(冷凍保存されていた)の入ったカッテージチーズ(curd cheese)を喫食した。10月3日の夜、このうちの20人以上が嘔吐と下痢を呈し、10月6日に食品監視当局が報告を受けて疫学調査を開始した。喫食された実際の食品の検体は入手できなかったが、冷凍ラズベリーは残っており、10月7日にこれを細菌検査とウイルス検査のために検査機関に送付した。また、同日、患者から検体を採集し、感染源を特定するため子供の親と職員に質問票を配布した。
保育所関係の69人から質問票の回答が得られた。患者の定義は、2009年10月2日から5日にかけて嘔吐および下痢を呈した当該保育所の職員または入所者とした。
ほとんどの患者(45/46、98%)がラズベリーを喫食していた。流行曲線(epidemic curve)は、若干の二次感染例を伴う単一感染源による発症パターンを示した(図)。潜伏期間は32.5時間(範囲は14〜76時間)、平均症状継続時間は22.4時間(範囲1〜72時間)であった。コホート研究によると、ラズベリーを喫食した者は喫食しなかった者に比べ、発症の相対リスク(relative risk)が3.0倍であった( p≦0.05)。
図:フィンランドの保育所におけるノロウイルスアウトブレイクの流行曲線、2009年10月(n=51)(英語脚注ではn=46となっているが図中合計は51名である)
アウトブレイクが発生した3施設から冷凍ラズベリー3検体、および卸売業者から在庫の冷凍ラズベリー2検体を採集し(当該バッチは総重量20,000 kg)、ノロウイルス検査を行った。
リアルタイムRT-PCR法を行ったラズベリー5検体中3検体からノロウイルスGIが検出された。1検体ではウイルス濃度が十分に高く、正確な遺伝子型タイピングが可能で、従来のRT-PCR法および塩基配列解析によりGI.4と特定された。患者2人の検体からも遺伝子型タイピングによりノロウイルスGI.4が検出された。ラズベリーと患者由来のウイルスは、カプシド蛋白質遺伝子の181塩基の塩基配列が一致した。RNAポリメラーゼ領域に対するRT-PCRの陽性結果は患者由来の検体でのみ得られた。
ここに記載した3件のアウトブレイクの他に、ラズベリー関連の可能性が高い患者数人の小規模なアウトブレイク(パン屋、銀行、他)が9月26日から10月9日の間に数件、地域の食品衛生当局に報告されたが、ウイルス検査のための検体は入手できなかった。これらを含めて、全体で約200人が発症した。
検査機関によりラズベリーと患者由来の検体から同じ遺伝子型のウイルスが検出されたことにより、輸入ラズベリーが感染源であったとする疫学調査の結論が裏付けられた。