(食品安全情報2010年27号(2010/12/27)収載)
食品由来疾患患者の総数の推定は、食品安全対策等を立案する際の予算・人員の配分や対策の優先順位決定に役立つ。しかしながら、その推定は困難な作業である。その理由は、食品は多くの病因物質(細菌、ウイルス、寄生虫、化学物質など)に汚染される可能性がある、食品以外の経路(動物との接触、汚染水の喫飲など)で伝播される可能性がある、食品由来疾患の割合が病因物質や宿主因子(年齢、免疫状態など)によって異なる、検査機関で確認され公衆衛生機関に報告されるのはごく一部であることなどである。
検査機関にもとづくサーベイランスにより食品由来疾患の傾向を把握するための情報は得られているが、診断と届け出が行われる患者はごく一部であるため、患者の総数を定期的に調査する必要がある。CDCは1999年に、既知および未知の病因物質によって米国全体で発生した食品由来疾患の患者数、入院患者数および死亡者数の推定を行った。これにより、不足している多くのデータと方法論的限界が特定され、その後は新しいデータと方法が使用できるようになった。本報は、米国における食品由来疾患患者の新しい推定値に関する報告2報のうちの1報である。本報は主要な既知の病因物質に関する推定値を、もう1報は病因物質が特定されなかった急性胃腸炎に関する推定値を収載している。(本号CDC記事を参照)
米国疾病予防管理センター(US CDC: Centers for Disease Control and Prevention)は、能動的サーベイランス、受動的サーベイランスおよびその他のデータから、米国では毎年主要な31種類の病因物質に感染した食品由来疾患患者が940万人(90%信用区間(90% CrI)[660〜1270万人])、入院患者55,961人(90% CrI [39,534〜75,741])および死亡者1,351人(90% CrI [712〜2,268])が発生していると推定した。最も多い病因物質はノロウイルスで(58%)、次いで非チフス性サルモネラ属菌(11%)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)(10%)、カンピロバクター属菌(9%)であった。入院患者では多い順に、非チフス性サルモネラ属菌(35%)、ノロウイルス(26%)、カンピロバクター属菌(15%)およびトキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)(8%)であった。死亡者では多い順に非チフス性サルモネラ属菌(28%)、T. gondii(24%)、リステリア(Listeria monocytogenes)(19%)およびノロウイルス(11%)であった。
用いた方法が異なるため、今回の推定値を1999年の推定値と比較することはできない。