(食品安全情報2009年20号(2009/09/24)収載)
2008年は、サルモネラ属菌、好熱性カンピロバクター属菌、Listeria monocytogenesおよびベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)汚染に関する食品検査を行なった。2006年以降は、Cronobacter spp.(Enterobacter sakazakii)などその他の病原体や、ヒスタミン、ブドウ球菌エンテロトキシンなどの毒物汚染も人獣共通感染症報告システムの対象となっている。現時点では、人獣共通感染症データは抗菌剤耐性に関する情報を含んでいない。2008年は、食品における人獣共通感染症病原体の汚染検査を合計で135,645件実施しており、件数は2007年と比べると5%増加した。検体としては、製造過程もしくは小売店(ケータリングを含む)のレベルで採集した生の食品およびそのまま喫食可能な調理済み食品を含んでいた。
検査件数が最も多かったのはサルモネラ属菌についてであり(120,467件)、サルモネラ属菌は検査した検体の0.5%に検出された。この汚染率は2007年の値と同じであり、2006年の値(0.2%)と比べると少し高かった。2008年に調理済み赤身肉検体で汚染検体数が比較的多かったのは、食品加工施設で発生したS. Agonaアウトブレイクと関連している可能性がある。血清型が決定されたサルモネラ菌597株のうち、192株(32%)はS. Kentucky、151株(25.2%)はS. Typhimurium、67株(11.2%)はS. Agona、27株(4.52%)はS. Derby、4株(0.67%)はS. Enteritidisであった。アイルランドのサルモネラ症は、通常、S. TyphimuriumおよびS. Enteritidisによるものが大部分を占めていた。過去数年と同様、2008年の食品検体のサルモネラ汚染検査の大部分(88%)は企業によって行われた。
食品中のカンピロバクター属菌の検出率は大幅に低下しており、検査した食品検体の汚染率は2007年の6.9%から2008年は1,249検体中1検体(0.08%)へと低下した。2008年の低下は、加工レベルで採集される生の鶏肉の検体数の減少と関連している可能性がある。この検体は、過去数年間、比較的高いカンピロバクター汚染率を示していた。
Listeria monocytogenesの食品検体での陽性率は0.81%で、2007年の1.5%から低下した。検査した12,540検体のうち、8,675検体については定量的分析を行った。5検体の菌数が調理済み食品に対する法的規制値(100 cfu/g)を超えていた。
VTECは、2006年および2007年には検査した食品のいずれからも検出されなかったが、2008年は検査した115検体のうち1検体でVTEC O157 PT32が確認された。検体はすべて小売店レベルで採集されたものであった。
Cronobacter spp.(Enterobacter sakazakii)は検査数(350件)が比較的少なく、検出できなかったが、ブドウ球菌エンテロトキシンは検査した56検体のうち8検体で検出された。ヒスタミンは89検体の検査を実施したが検出されなかった。
アイルランドでのヒト感染性疾患の伝播媒体としての食品
保健サーベイランスセンター(HPSC: Health Protection Surveillance Centre)が集計した2008年の暫定データでは、届け出伝染病のうちで、急性感染性胃腸炎(AIG:acute infectious gastroenteritis)が患者数において最も多く(4,186人)、ノロウイルス(1,776人)およびカンピロバクター症(1,752人)の患者数の2倍以上であった。AIGの症例定義は、ロタウイルスおよびClostridium difficileによる疾患、および原因不明の感染性胃腸炎疾患である。
いくつかの届け出義務のある感染性胃腸疾患は、それらが脊椎動物からヒトへ自然感染するので、人獣共通感染症として分類されている。アイルランドおよび欧州連合(EU)全体で最も多く報告される人獣共通感染症はカンピロバクター症で、2番目に多いのがサルモネラ症である。腸管出血性大腸菌(EHEC)(VTECの一部で出血性下痢を起こす)およびリステリア菌の感染症など、その他の人獣共通感染症は、件数は多くはないが重大な健康被害をもたらす可能性があるため、厳密なモニタリングが行われている。
ヒトへの感染経路は常に特定できるわけではないが、アウトブレイクの場合は、その感染源を特定することができる可能性が高い。HPSCによる2008年暫定アウトブレイクデータによると、食品はサルモネラ症の伝播において、カンピロバクター症やEHEC感染症と比べて、より大きな役割を担っていることがわかる(図)。
図:アイルランド(2008年)での人獣共通感染症アウトブレイクにおける感染源(HPSCの暫定データによる)。アウトブレイク件数と症例数は、サルモネラ症(22件、78症例)、カンピロバクター症(7件、14症例)、EHEC感染症(41件、117症例)であった。図中の”Foodborne”が食品由来感染の割合を示す。
左から、サルモネラ症 / カンピロバクター症 / EHEC感染症
アイルランドではサルモネラ症の発生数がここ数年徐々に減少しており、HPSCによる2008年暫定アウトブレイクデータは、これらの患者のかなりの割合が汚染食品の喫食に関連していることを示唆している。一方で同データは、食品はカンピロバクター、EHECなどその他の重要な人獣共通感染症病原体の伝播においては、あまり大きな役割を担っていないことも示している。これらのデータは暫定的なものであり、アウトブレイク関連の症例数は全報告症例数の一部にすぎないことを考慮しなければならない。未報告の症例数は明らかになっていない。2008年のアイルランドではEHEC症例のおよそ半数がアウトブレイク関連であるため、2008年の暫定EHECアウトブレイクデータは全体を代表するデータと見なすことができる。また、アウトブレイクデータによって示された感染源の傾向は、カンピロバクター属菌およびEHECと比べサルモネラ属菌による汚染率が高いことを示す食品検体データと概ね一致する。