(食品安全情報2009年3号(2009/01/28)収載)
フードチェーンにおける病原体の検出は主に細菌に限られているが、食品産業のグローバル化によりウイルスに起因する食品由来国際アウトブレイクが発生するようになった。2002〜2006年に欧州のノロウイルスサーベイランスデータベースに記録されたアウトブレイクについて、感染源が食品であることを示すウイルス学的および疫学的指標を検討した。
欧州のウイルス性胃腸炎アウトブレイクのサーベイランスネットワーク(FBVEネットワーク)に参加している13カ国のうち、その11カ国のサーベイランスシステムがウイルス学的および疫学的ノロウイルスアウトブレイク統合データについてのFBVEネットワーク報告規準を満たしていた。このうちデンマーク、フィンランド、フランス、ハンガリー、イタリア、オランダ、スロベニア、スペインおよびスウェーデンの9カ国からのデータを対象として、食品由来アウトブレイクとヒト−ヒト感染アウトブレイクとを区別するパラメータの解析を行った。法制化により、9カ国のうち4カ国のサーベイランスシステムが食品由来アウトブレイクに焦点をあてていた。9カ国のうち6カ国では1年間に人口100万人当たり少なくとも1つ、形式の整ったアウトブレイク報告がされていた(集中サーベイランス)。サーベイランスシステムは、1) 食品中心の集中サーベイランス、2) 食品中心ではない集中サーベイランス、および3) 集中サーベイランス以外のサーベイランスの3種類に分類された。
2002年1月1日〜2006年12月31日に対象9カ国で報告されたノロウイルス感染アウトブレイクは1,639件であった。最終データセットとしてこのうち1,254件(77%)のデータを選別し、残り23%は検査機関でノロウイルスが確認されていなかったため除外した(図1)。
図1:2002年1月〜2006年12月にFBVEネットワークに報告されたアウトブレイク。アウトブレイクの発生年月、原因微生物、塩基配列情報の有無、および感染経路による分類。他の原因微生物にはロタウイルス、A型肝炎ウイルスや様々な細菌を含む。
表1:食品由来(ウイルス性)アウトブレイクの報告の際に最適と考えられる、専門家の間で意見が一致したパラメータのリスト。およびFBVEサーベイランスデータベースに登録されたアウトブレイクデータにおける各パラメータの報告充足度。
表1にモデル構築に用いたパラメータのリストと、解析したアウトブレイクデータセットにおいて何件がそれぞれのパラメータについて報告をしているか(充足度)を示した。食品由来に区分されたアウトブレイク224件中24件(11%)では食品との関連性が確認され、200件(89%)では食品由来の可能性があると考えられた。アウトブレイクの原因となった食品は貝類、果実、ケーキ、ビュッフェ料理、サンドイッチ、サラダなど30種類であった。寄与因子として個人的な非衛生が挙げられた食品由来アウトブレイクが1件あった。食品取り扱い者が感染していたアウトブレイクが16件あり、そのうち1人の調理人は2件のアウトブレイクに関与していた。調理または喫食以外の衛生問題によるアウトブレイクが2件あった。FBVEのアウトブレイクデータにおける各データ項目の充足度は項目間、また、食品由来アウトブレイクとヒト−ヒト感染アウトブレイクとの間で異なっており(表1)、2%(他のアウトブレイクとの関連)から100%(アウトブレイクの種類、発生場所、病原体、原因株)と多様であった。入院患者数、発症率、流行曲線、潜伏期間および他のアウトブレイクとの関連についてのデータは食品由来アウトブレイクの方がより高頻度で報告された。一方、季節性と寄与因子に関するデータはヒト−ヒト感染アウトブレイクの方で報告の頻度がより高かった。
表1のイタリック体で示した項目は食品由来の場合のみに関連する項目であるか、またはEBVEサーベイランスシステムで要求されていないデータであったことから、単変量解析には含めなかった。単変量解析により、食品由来アウトブレイクは医療介護施設より家庭やレストランでより高頻度に発生し、GGII.4以外の遺伝子型の株による感染が比較的多いことがわかった。さらに、10月〜4月より5月〜9月において発生しやすく、ヒト−ヒト感染アウトブレイクの場合より届出の時点で患者数が多いことが判明した(表2)。
表2:食品由来アウトブレイク(group 1)と他の感染経路によるアウトブレイク(group 2)との比較のために、各データセットの50%をランダム抽出して行った単変量ロジスティック回帰分析において、棄却限界近くで有意であった因子群(17因子のうちの8因子)。
解析対象としたアウトブレイクの半分の件数からなるトレーニングサンプル(training sample)と残りの半分からなる評価サンプルに対するROC(Receiving Operator Characteristics)曲線の曲線下面積(AUC: Area Under Curve)はそれぞれ0.92と0.90であり、食品由来アウトブレイクとヒト−ヒト感染アウトブレイクとの区別においてモデルが非常に有効であることを示している。評価サンプルに対して最適なカットオフ値(左上角に最も近づいた時のROC曲線の値)を選ぶと、この時感度は0.72、特異度は0.92、陽性的中率(PPV: Positive Predictive Value)は0.64となった。この場合、アウトブレイクの継続調査は報告されたアウトブレイク総数の24%について行えばよいはずであった。878件のデータセットについて、各国のサーベイランスシステムの特徴の補正項を含む最終モデルを用いてアウトブレイクの原因が食品であるという確率を算出した。
この最終モデル(感度(sensitivity):0.80、特異度(specificity):0.86、PPV:0.65)はノロウイルス感染アウトブレイクにおいて食品が原因である可能性の算出に将来適用可能であり、また、これにより継続調査すべきアウトブレイクの数は報告された全アウトブレイクの31%に減少した。最終モデルに基づく実用的なウェブベースのツールは”Technical Appendix”から入手可能である。
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/15/1/08-0673-techapp1.pdf(ウェブベースのツール)
遺伝子型タイピングを行っていない国がこのツールを使用する場合、集中サーベイランスとは1年間に人口100万人当たり少なくとも2つのアウトブレイクが報告されている場合である。遺伝子型が不明であるとした場合のモデルでは、感度のわずかな低下(0.78)、不変の特異度およびPPV(それぞれ0.86および0.65)、および30%の継続調査必要性に伴って、見過ごされる食品由来アウトブレイクが5件増加した。
伝播様式が不明のアウトブレイク376件のうち352件(94%)には食品由来である確率を算出できるだけの充分なデータがあった。この352件のうち食品由来の可能性があるのは100件(29%)となり、最終データセットのアウトブレイク1,254件のうち食品由来の可能性があるのは280件(22%)と推定された。