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(食品安全情報2008年01号(2008/01/07)収載)
報告書の一部を紹介する。
3) 腸内感染症
Salmonella
Salmonella患者は2006年に2,573人、2005年には2,483人報告され、患者数は2年連続して前年より多くなっていた。患者の45%が男性で、全国の年間発生率は人口10万人当たり47人であった。年齢層別の発生率は20〜54歳で最も高く(10万人当たり70人)、75歳を超える年齢層で最も低かった(10万人当たり10人)。
多く検出されたSalmonellaの血清型は、Enteritidis(1,012人)、Typhimurium(333人)、Stanley(131人)、Virchow (100人)およびNewport(77人)であり、2種類以上の血清型が検出された患者は20人を上回った。
腸チフスの原因となるS. Typhi患者は5人、パラチフスの原因となるS. Paratyphi Aの患者は3人で、S. Paratyphi Bは1人であった。S. Typhi患者およびS. Paratyphi患者のうちそれぞれ3人ずつは旅行歴があり、全員がインドで感染していた。
患者のうち432人(18%)はフィンランド国内で、2,025人(82%)は国外で感染し、152人(6%)については感染した国が特定できなかった。国内で感染した患者総数は2005年(442人)とほぼ同数で、発生率は人口10万人当たり7.5人であった。国内での感染患者の多く(170人43%)はS. Typhimuriumに感染し、優勢なファージタイプはFT 1(53%)、FT NST(not specific type、14%)およびFT 104(5%)であった。国内感染患者で2番目に多く見られた血清型はS. Enteritidisで、69人が確認された。なお、フィンランドの家畜がS. Enteritidisのレゼルボアであるとは確認されていない。
国外でSalmonellaに感染した患者総数は2,025人で、発生率は人口10万人当たり38人であった。国外由来のS. Enteritidis患者は879人(43%)で、優勢なファージタイプはFT 4(23%)、FT 1(25%)およびFT 21(14%)であった。国外由来の血清型では、S. Typhimurium (140人)、S. Stanley (116人)、S. Virchow (80人)およびS. Newport (66人) が続いて多かった。国外由来のS. Typhimuriumで優勢なファージタイプはFT NST(26%)およびFT 104(11%)であった。感染者が多く発生した渡航先はタイ(21%)、スペイン(7%)、ブルガリア(6%)、インド(4%)、ギリシャ(4%)およびブラジル(3%)であった。
Campylobacter
2006年にNational Infectious Diseases Register(NIDR)に報告されたCampylobacter患者は3,439人で、2004年より500人(14%)以上減少した。Campylobacter jejuniが明らかに大勢を占め(2,871人)、C. coliおよび菌種が同定されないCampylobacterがそれぞれ132人および432人報告された。総人口における発生率は10万人当たり65人で、患者の54%は男性であった。報告患者の多くは20〜39歳で、この年齢層における発生率は10万人当たり119人であった。季節としては、Campylobacter患者の7〜8月の発生率が顕著に高いという特徴が見られた。
2,554人(74%)から国外への渡航歴に関するデータが得られ、このうち80%が発症直前に渡航していた。感染者が多く発生した渡航先はタイ(213人)、スペイン(210人)、ブルガリア(192人)、インド(154人)およびトルコ(112人)であった。
図4:サルモネラおよびカンピロバクターの月別発症者数、1995〜2006年
Yersinia enterocolitica
Yersinia enterocoliticaの患者数は2005年(543人)と比べ、2006年(533人)はほぼ同じであったが、1995年(873人)から見ると、長期的には徐々に減少している(図5)。これは、主に小児の患者数が減少したことによる。2006年の全国の発生率は10万人当たり10人であったが、発生率には大きな地域差があった。
1995年以降の発生率は、5歳未満の乳幼児では大幅に低下したが、75歳を超える年齢層では上昇している。
図5:Yersinia enterocolitica 確定患者数、1995〜2006年
Yersinia pseudotuberculosis
2006年のYersinia pseudotuberculosisの患者数(252人)は、2005年(79人)から著しく増加した(図6)。これは、2006年にPohjois-KarjalaおよびKeski-UusimaaでYersinia pseudotuberculosisのアウトブレイクが発生したためであると考えられる。2006年の全国の発生率は、10万人当たり5人未満であった。
図6:Yersinia pseudotuberculosis確定患者数、1995〜2006年
赤痢Shigella
2006年の赤痢の発生率は10万人当たり1.4人であった。報告された患者74人のうち、男性は29人、女性は45人で、最も発生率が高い年齢層は25〜49歳であった。患者のうち67人は国外で、6人はフィンランド国内で感染し、残る1人は感染した国が特定されなかった。優勢だった菌種はShigella sonnei(44人)およびS. flexneri(25人)で、S. dysenteriaeは2人のみであった。最も感染者が多く発生した渡航先はエジプト(20人)およびインド(19人)であった。
Shigella株の約85%が4種以上の抗菌薬に、約30%がナリジクス酸にそれぞれ耐性を示し、約25%でシプロフロキサシンに対する感受性の低下が認められた(MIC≧0.125 mg/L)。エジプト由来の株がシプロフロキサシン感受性を示す一方、インド由来株のほとんどでシプロフロキサシン感受性が低下していた。インド由来のS. flexneri血清型2a株で、最も高いシプロフロキサシン耐性が示された(MIC≧3 mg/L)。
腸管出血性大腸菌(EHEC: enterohaemorrhagic Escherichia coli)
14人の腸管出血性大腸菌(EHEC)確認患者がNIDRに報告された(1年間に10万人当たり0.3人)。これは過去数年間に報告された患者数とほぼ同じであった。患者の内訳は、女性が8人、男性が6人で、9人は15歳未満、4人が0〜4歳であった。小児患者3人が溶血性尿毒症症候群(HUS:haemolytic-uremic syndrome)を発症した。6人は国外で感染していた。
O157株の感染者は8人で、このうち2人(いずれも小児)は珍しいソルビトール陽性非運動性 O157:H-型であった。
EHEC全患者のうち6人は、非O157血清型EHECであり、そのうち5人はフィンランド国内由来であった。国内由来非O157血清型EHEC感染者のうち2人は、O145:H-血清型であった。また、非O157群以外の散発性患者が4人発生し、そのうち1人は海外由来であった。
ノロウイルスNorovirus
2006年に報告されたノロウイルスの患者数は645人で、そのうち410人(64%)が女性であった。発生率は10万人当たり12.3人で、過去3年間と比較して明らかに増加した。患者の報告の半数近くが11月と12月であった。患者の3人に1人が75歳以上のグループで、このグループの発生率は10万人当たり57.8人であったが、感染自体は全ての年齢層で確認された。
特に病院や老人ホームなどの施設内で多数のアウトブレイクが発生した結果、下半期の患者数が増加し、高齢者における高い発生率や、著しい地域差の原因となっている。年末になってアウトブレイクが多数発生した背景には、新種のGII.4ノロウイルス変異株(GII4-2006aおよびGII4-2006b)の出現が考えられた。これらのウイルス型は2006年夏に北大西洋およびバルト海のクルーズ船上で発生したアウトブレイクの原因ウイルスで、2006年秋に多くのヨーロッパ諸国の病院や老人介護施設でアウトブレイクを引き起こした。新種の変異株による類似の大規模なアウトブレイクは、1996年、2002年および2004年にも認められたが、2004年のアウトブレイクはフィンランド国内ではそれほど深刻なものとはならなかった。
Listeria
2006年に報告されたListeria monocytogenes患者は45人、うち死亡した患者は5人(11%)であった。患者のうち49%が男性、64%が65歳以上で、リステリア症の年間発生率は100万人当たり8.5人であった。
リステリア患者は血液検査で38人(84%)、脳脊髄液検査で5人、その他の穿刺吸引により2人が確認された。
18人については素因として重度の基礎疾患が認められた。3人が妊娠しており、子ども1人がリステリア症で死亡した。血清型1/2および4bが全患者の80%および18%をそれぞれ占めていた。2006年末に、遺伝的に類似したListeria monocytogenes血清型による2つの発症のクラスターが確認され、それぞれの患者数は4人と6人であった。感染の拡大を防ぐため、フィンランド食品安全局(Evira:Finnish Food Safety Authority, Finland)および国立公衆衛生研究所は、リステリア症のリスクがある食品に関する情報シートを消費者に配布した。