(食品安全情報2008年4号(2008/02/13)収載)
2007年7月にノロウイルス感染の今季の流行が始まって以来、英国健康保護庁(HPA: Health Protection Agency)感染症センターには検査機関から3,534人の患者が報告された。これは7月〜1月の患者数としては最多記録である(表1参照)。増加の一因は、通常より早期(2007年10月)に確定患者数が増加したこと、最近数週間の報告数が多かったことである。ピークは2008年第2週で報告数は334人に達し、1週間の報告数としては最多記録であった。以上のデータの解釈には、多くの理由、特に下記の2つの理由により注意が必要である。
1)一部の地域検査機関で、これまでの検査より感受性の高い新しい分子生物学検査(RT-PCR)が導入され、検出率が上昇した可能性がある。
2) メディアのノロウイルス報道が増えたことにより、一般の人々や医師の意識が高まったと考えられる。しかし、報道では典型的なノロウイルス感染症状を呈する場合は一般開業医(GP: General Practitioner)ではなく専門機関で受診するよう助言されたため、医師による検体採集が通常よりも多かったか否かは不明である。
しかし、増加の理由は、地域検査機関の分子生物学的な検査の使用が増えたことのみではないと考えられ、患者が真に増加していることを示す証拠もある。数年前にスコットランドおよびイングランド南西部でノロウイルスの分子生物学的検査が導入されたが、スコットランド保健保護局では最近数年間に比べて今季に患者報告が増加し、またイングランド南西部でも同じ状況であった。欧州他国においても今季初めに患者数が増加した。
患者が減少し始めたか否かを判断するには時期が尚早である。最近のHPAとノッティンガム(Nottingham)大学 の一次医療部による一次医療のサーベイランスシステム週報によると、嘔吐や胃腸炎による一般開業医の受診率は1月最終週に低下したが、下痢による受診は変わっていない。
表1:1998-2008年に、イングランドおよびウェールズで検査室に報告されたノロウイルス患者数