(食品安全情報2008年23号(2010/11/05)収載)
2008年9月中旬から10月19日の間に、オランダ、アイルランド、イタリアおよびフランスからノロウイルス感染患者の9クラスター(集団: cluster)が確認された。一次感染者は約90人、二次感染者は100人以上で、フランスのルルドへの巡礼と関連していた。
2008年10月20日、ヨーロッパ食品媒介ウイルス(Food-borne Viruses in Europe: FBVE)ネットワークに、オランダの高齢者向けメンタルヘルスケア施設でノロウイルス感染アウトブレイクが発生したことが報告された。患者2人からノロウイルスが確認された。
当該施設の入所者10人と介護士14人がオランダ人の巡礼者グループ1,025人の一員として、9月26日から10月1日にかけてフランスのルルドを訪れていた。9月29日、介護士1人が急性胃腸炎(AGE: Acute Gastroenteritis)の症状を示した。症状は24時間持続し、その間ホテルの部屋にいた。10月1日に鉄道で帰国する際、入所者1人が症状を示して治療を受けた。グループの帰国後、ウイルスが施設内に拡散した。
入所者と介護士550人のうち119人(22%)がAGE症状を呈した。当該患者グループは管理規則の遵守(コンプライアンス: Compliance)が困難であることから、本報告公表時にもアウトブレイクは継続している。4人(3%)が死亡し、ノロウイルスが寄与因子であるとされた。1人が危篤状態で入院中である。
オランダでは、施設でのアウトブレイク以外のノロウイルス感染に届出義務はない。旅行を準備したオランダの団体からの情報によると、他にも多くの巡礼者がAGE症状を呈してルルドから帰国しており、オランダ国立公衆衛生環境研究所の感染症管理センター(RIVM/CIb)は、ルルドへの巡礼に関連するノロウイルス感染事例を報告するよう地域保健所と微生物学担当者に要請した。その結果、さらに3件が報告された。9月16日〜23日にルルドを訪れたオランダ人巡礼の2つのクラスター(うち1つのクラスターでは患者の家族に二次感染者が発生した)と、もう1件はノロウイルス感染が確認された高齢巡礼患者1人である。後者は10月18日にルルドから帰国して32時間後に入院した。この患者から分離したウイルスのポリメラーゼ(領域A)およびVP1カプシド(領域D)の塩基配列解析を行ったところ、よく検出されるII.4 2006b遺伝子型であることが判明した。
FBVEネットワークへの警告(アラート)により、ルルドへの巡礼に関連するAGEのアウトブレイクが他にも報告されていたことがわかった。アイルランドからは次の3つのクラスターが報告された。
・9月下旬にルルドで感染した患者40人を含むクラスター
・10月1日〜15日にルルドで感染した患者20人を含むクラスター
・10月1日〜15日にルルドで感染した患者2人を含むクラスター。うち1人は入院し、病院内で二次感染者11人が発生した。
フランスの国立衛生監視研究所(InVS)の調査により、オランダ、フランスおよびイタリアからの客が宿泊した少なくとも6軒のホテルで9月28日から10月16日にAGE患者が発生し、これには巡礼に参加したオランダの2つのクラスターとアイルランドの1つのクラスターが含まれると考えられることがわかった。フランスの検査機関での検査では3人からノロウイルスが確認され、この3人はアウトブレイクが発生したホテル3軒にそれぞれ別に宿泊していた。2人のオランダ人患者からの検体、1人のフランス人患者からの検体はすべてII.4 2006b遺伝子型であり、領域Aおよびカプシドの塩基配列は上述のオランダ人患者の株と一致していたが、ルルドに関連のないアウトブレイクで見つかった分離株とも一致した。
これらのグループは9月中旬から10月16日の間にルルドのホテル6軒に宿泊した。ルルドの医師と薬剤師が9月22日〜26日に下痢の相談が多かったことを報告していた。フランスの地域保健所はルルドの水道水と泉水の水質を定期的に調査しているが、両者とも規準を満たしていた。