(食品安全情報2008年2号(2008/01/16)収載)
全機関(EFSA:European Food Safety Authority)の要請を受け、2005 年のEU 域内における人獣共通感染症の病原体および抗菌薬耐性の傾向と感染源に関するEC 要約報告書をレビューし、科学的意見を発表した。以下に概要を紹介する。
飼料製品に関する信頼性のあるデータは十分ではなかったが、大豆製品などの脂肪種子がフードチェーンへのSalmonellaの侵入のリスク要因であることを示すデータが得られ、動物用飼料からS. Enteritidis、S. Typhimurium、S. InfantisおよびS. Agonaが分離されたことから、動物用飼料がこれらの感染源となりうることが確認された。
2004年と同様に、EC域内における人獣共通感染症としてはカンピロバクター症が最も多く報告され、総患者数は197,363人であった。報告された発生率は2004年から7.8%増加したが、加盟国内で共通した傾向は見られなかった。種別では引き続きC. jejuniが最も多かった。
リステリア症の患者は、EUの23加盟国および2非加盟国で1,439人が報告された。全体の発生率は10万人当たり0.3人(昨年と同等)で、範囲は0.1人以下〜0.9人であった。罹患率が低い割に通常は致死率が高いため、死亡者数に関するデータは重要であるが、報告書には含まれていなかった。サンプリングおよび検査スキームが統一されていないため、年度ごとおよび加盟国ごとのデータの比較はできない。現行のサンプリング法では、食品中のListeria monocytogenesの汚染率は低かった。
2005年のヒト、食品および生きた動物におけるベロ毒素産生Escherichia coli (VTEC)の感染状況は2004年から改善され、100万人当たりおよそ12人であった。しかし、2003〜2005年の年ごとの報告をした10加盟国では100万人当たり12人から16人へと報告患者数の増加が認められた。重度の腸管出血性大腸菌(EHEC)および溶血性尿毒症症候群(HUS)などの続発症の感染患者は、そのリスクが高い小児および乳幼児(0〜4歳)が3分の1を占めた。
EU域内で報告されたエルシニア症の確定患者は9,533人(10万人当たり平均2.6人)で、報告された人獣共通感染症のなかでは3番目に多かった。報告された発生率は2001年以降大きく変化していないが、オーストリア、チェコ、リトアニアでは増加傾向が認められた。
トキソプラズマ症は、2004年には18加盟国から1,736人の患者が報告され、そのほとんどが検査機関で確認されたが、2005年はヒトの患者に関するデータが提出されていない。トキソプラズマ症の主なリスク要因は、感染組織内にシスト(ブラディゾイド:bradyzoites)を含んだ十分に加熱していない肉の喫食およびネコが環境中に排出した感染性のオーシスト(スポロゾイト:sporozoites)の摂取である。また、感染性のオーシストを含む水もヒトへの感染の伝播経路となりうる。
2005年のトリヒナ症患者は全部で175人が報告され、23人の海外由来患者を含む86人が検査で確認された。2004年には数件のアウトブレイクが発生し261人の患者が報告されたが、2005年は患者数が減少した。トリヒナ症は依然として公衆衛生対策上の優先順位が高い。過去の例からも、トリヒナ症のリスクがほとんどない国々でも海外由来患者(旅行、移民、貿易規模の拡大等)によるトリヒナ症患者が発生する可能性がある。
全加盟国内で発生した5,000件以上の食品由来アウトブレイクと47,000人以上の患者および24人の死者についてデータが提出され、ドイツ、スロバキア、フランスからの報告がアウトブレイク件数全体の50%を占めた。最も多く報告された原因物質はSalmonella(64%)で、続いてCampylobacter(9%)であった。Salmonella血清型の中ではS. Enteritidis(全アウトブレイクの36%、全患者の49%)、S. Typhimurium(同じく3%、5%)が最も多かった。食品由来ウイルス(特にノロウイルス、ロタウイルス)は重要な食品由来感染症の原因であり、全加盟国を通じて診断および報告数がかなり過少に申告されている可能性が高い。
感染予防の主な対策は、最も多く報告された病原菌(Salmonella(特にS. Enteritidis)、Campylobacter、食品由来ウイルス等)の生の食材および食用動物における発生率を低減させることである。最も多い発生場所は一般家庭およびレストランであるため、ヒト−ヒト感染および交差汚染の予防とともに、適切な調理および保存方法に関する食品取扱者(職業および家庭内)への教育による管理が最も効果的な公衆衛生対策であると考えられる。
結論および勧告の概要は以下の通りである。
● 飼料中の人獣共通感染症の病原菌の発生に関する信頼できるデータは十分ではなく、提出されたデータは全国的な発生率を代表しているデータとみなすことはできなかった。
● 飼料およびフードチェーンの全域にわたって食品由来病原菌の侵入を防ぐため、バイオセキュリティの原則にもとづく適切な対策を講じるべきである。
● フードチェーンおよび飼料チェーンに沿ってGMPおよびGHPにもとづいた適正規範を維持する重要性をフードおよび飼料チェーンの各段階で強調すべきである。
● 生産、加工、ケータリングの各段階における生鮮野菜製品の汚染を防止するため、リスクコミュニケーションおよび教育戦略が用いられるべきである。特に高齢者および免疫低下症状がある消費者に対し、分かり易い情報を提供することが推奨される。
● 食品(特に調理済み(RTE: Ready to Eat)食品)の加工段階における衛生規範および冷蔵方法の改善を引き続き推進すべきである。
● Salmonellaの例に従い、必要に応じて報告書がカバーしているその他の人獣共通感染症の病原菌について、統一されたベースライン研究の実施を検討するべきである。それによりEU全体の実態をより完璧かつ正確に把握することが可能となる。
● 患者の絶対数とともに年齢別の発生率の報告が推奨される。
● 疾患による実被害を推定するため、食品由来人獣共通感染症の最も重要な続発症に関するデータを可能な限り収集するべきである。
● 新しい加盟国による影響を考慮するため、EU域内の加盟国数の違いを踏まえて2004年と2005年のデータを比較する必要がある。
● 加盟国およびECレベルでの特定の疾患に関する対策の優先順位を設定する際に、アウトブレイクおよび散発例の両方による全体的な実被害に関するデータの検討を可能とするモニタリングプログラムの構築が推奨される。
● 正確で、加盟国間の比較が可能なデータを全加盟国から得るよう、努力すべきである。
● アウトブレイクの明確な定義・分類がより詳細になされるべきで、サーベイランスシステムの特性に差異がある場合には、ECレベルで対応すべきである。このような進展が見られなければ、加盟国間のリスクの比較を正確に行うことはできない。
● 食品由来病原菌の感染性と疫学に関する知見を深めるため、公衆衛生部門および動物衛生部門間のネットワークが強化されるべきである。