米国疾病予防管理センター(US CDC)からのノロウイルス関連情報
http://www.cdc.gov/


散発性胃腸炎におけるノロウイルスの影響に関する研究論文の体系的レビュー
Systematic Literature Review of Role of Noroviruses in Sporadic Gastroenteritis
Emerging Infectious Diseases, Volume 14, Number 8-August 2008
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/14/8/pdfs/07-1114.pdf(PDF)
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/14/8/07-1114_article.htm

(食品安全情報2008年18号(2008/08/27)収載)

 軽度または中程度(外来患者)、重度(入院患者)の下痢を伴うノロウイルス(NoV)感染患者について、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法による診断を行った研究論文の体系的レビューを行った。

 MEDLINE、EMBASEおよびGoogle Scholarを利用して、1990年1月〜2008年2月に発行された論文からキーワードでNoV関連の論文を抽出した。合計235報の研究のうち、継続期間が1年以上の研究、およびRT-PCR法で下痢症患者からのカリシウイルス(NoVおよびサポウイルス)あるいはNoVの診断を行った31報の研究を使用した。世界銀行の経済分類によると、31報のうち20報は高所得国、2報は高中所得国、5報は低中所得国、4報は低所得国の研究であり、研究期間は1年間〜5年間であった。NoVのみの研究が14報、NoVおよびサポウイルスの研究が17報であった。カリシウイルス属2種の検出率を示した17報のうち13報において、コミュニティベースおよび病院ベースの研究でのNoV検出率はそれぞれ84.5%および88.5%であった。この13報では、カリシウイルス属に感染した外来患者の69%〜90%、入院患者の61%〜100%がNoV感染と確認された。

コミュニティベースまたは外来診療ベースの患者(軽度および中程度の下痢)

 コミュニティベースまたは外来診療ベースの下痢症患者に関する13報では、下痢症患者の5%〜36%からNoVが検出された。調査した研究全体(Pooled)でのこの比率は12%であった(95% CI 9%〜15%; Cochran Q 335; df 12)。5報が成人および小児を対象とし、8報が小児のみで、年齢範囲は様々であった(全体の年齢範囲は0〜13歳)。混合感染を評価した8報では、胃腸炎患者の0.4%〜6.5%(中央値1.1%)が同時に別のウイルスまたは菌に陽性であった。

入院(重度の下痢)

 23報(病院が21報、救急診療部が1報、両方が1報)が下痢で入院した患者におけるNoV感染を評価しており、その比率は3%〜31%であった。調査した研究全体でのこの患者の比率は11%であった(95% CI 8%〜14%)。重度の下痢患者を対象としたこの23報のうち19報は5歳以下の小児に重点を置いており、この19報における下痢症患者中のNoV患者の比率は12%であった(95% CI 10%〜15%)。複数の病原体感染を評価した5報によると、胃腸炎患者の0%〜24%(中央値3.7%)が混合感染であった。

 世界全体での下痢による死亡の95%以上は、中低所得および低所得の国で発生している。今回のレビューにおいて、5歳以下の小児の重度のNoV感染の発症率を評価している19報のうち7報は、これらの国の研究であった。調査した研究全体の入院した小児下痢症患者のNoV患者の比率は、中低所得および低所得の国では12%(95% CI 8%〜17%)、高所得および高中所得の国では12%(95% CI 9%〜16%)であった。

同時に行った対照研究

 31報のうち9報で、対照に関して同時に行った研究で、対照の0%〜16%(中央値4%)からNoVが検出された。これらの研究における患者と対照との検出率の差から、NoV感染患者の比率は、軽度および中程度の下痢では4%〜20%(中央値12%)、重度の下痢では2%〜26%(中央値11%)であると推定した。

分離株の特性解析

 塩基配列決定法を用いてNoV株の特性解析を行っていた研究論文は19報であった。NoV GIIに属する株が最も多く(範囲75%〜100%)、2報を除き大部分の株がGII.4であった。マラウイ(本レビューにおける低所得国4カ国のうちの1国)では、配列決定した検体の69%からGII.3株が検出された。同様に2006年に日本の外来診療ベースの研究で、検体の44%から新型のGII.3株が検出された。遺伝子解析により、これらのGII.3株が4カ月間にわたって出現した遺伝子組み換え株である可能性が高いとされた。

小児におけるNoVの推定発症率

 高所得国では、医療機関の受診を要するNoV感染胃腸炎患者は年間90万人程度、5歳以下の入院患者は6万4千人程度であると推定した。小児における重度の下痢症患者中のNoV感染患者の比率が今回のレビューの全体における比率(12.1%)に近いと仮定すると、発展途上国での下痢症による小児の年間の入院患者(1億2400万人程度)および死者(180万人程度)から換算して、発展途上国の小児のNoV感染による入院患者は年間110万人、死亡は21万8千人であると推定される。

 95%以上の死因が下痢である発展途上国の小児におけるNoV感染を予防し、ワクチンの効果を実証するには、ワクチン接種も含む標的を絞った戦略の作成に重点を置いて取り組むべきであるとしている。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部