(食品安全情報2007年25号(2007/12/05)収載)
C-EnterNet年次報告書2006年は、初のセンチネルサイト であるワーテルロ地域のヒト、市販の食肉、水および農場の4つのcomponent(構成要素)から収集された1年分のサーベイランスデータを収載したものである。この情報はヒトの胃腸疾患や曝露源における病原体検出についての傾向を把握するのに利用され、将来における知見と比較する際のベースラインとなる。この報告書には上記4構成要素の結果と組み合わせることが必須である分子サブタイピングデータが含まれている。センチネルサイトが追加されて対象人口がカナダの人口の約10%に達すると、同国の胃腸疾患の全体像を表わすものになると考えられている。現在はパイロット段階であるが、C-EnterNetの統合されたサーベイランスプログラムは公衆衛生や食品と水の安全問題の関係者にとって関心のある重要な結果を提供している。
ヒトの患者数
パイロット版センチネルサイトでは、病原菌、ウイルス及び寄生虫10種による胃腸疾患患者420人が報告された。患者の1%(4人)がアウトブレイク由来、31%(131人)は旅行由来、68%(285人)は地域由来(endemic)であった。最も多かった4つの疾患はサルモネラ症、カンピロバクター症、ジアルジア症及びベロ毒素産生性E. coli(VTEC)感染症であり、患者の82%を占めた。
C-EnterNetの強化サーベイランスデータをセンチネルサイトにおける過去のデータと比較すると、急性胃腸疾患全体の発生率は過去10年間比較的安定しているようである。カンピロバクター症とジアルジア症はやや減少し、サルモネラ症はあまり変化がない。エルシニア症はこれらより少ないが徐々に増加しており、VTEC感染、クリプトスポリジウム症およびA型肝炎の発生率は10年前に比べここ数年多かった。
旅行による疾患
旅行由来の胃腸疾患の発症は継続しており、センチネルサイトでの胃腸疾患患者の31%は外国旅行によるものであった。旅行由来の患者の比率はA型肝炎(67%)、細菌性赤痢(50%)、ジアルジア症(48%)及びサルモネラ症(44%)で高かった。一方、E. coli O157:H7感染およびエルシニア症は主に国内感染と考えられた。旅行由来の患者のサブタイピング結果にはいくつかのパターンが認められた。たとえば、Salmonella Enteritidis患者では58%が旅行由来であったが、S. Typhimurium及びS. Heidelberg患者では旅行由来の患者は報告されなかった。C. jejuni患者の大多数は地域由来であったが、C. coli患者の大多数は外国旅行が原因であった。また、Campylobacter分離株の抗菌薬耐性プロファイルは多剤耐性を示した。
また、C-EnterNetは2005年6月〜2006年12月のデータにより、旅行者(海外旅行)と旅行者以外(地域由来およびアウトブレイク)の胃腸疾患を比較する解析を行った。サルモネラ症患者の旅行先はメキシコとカリブ海地域が多く(30/64)、A型肝炎とアメーバ症はアジア(両者とも7/9)、ジアルジア症はアジア、メキシコ及びカリブ海地域が多かった。一方、E. coli O157:H7は国内感染が多く、旅行由来が1人、旅行以外が59人であった。
リスク因子
サーベイランスプログラムの基礎となる標準質問票から、さらに調査を行う必要のあるリスク因子が明らかになった。たとえば、は虫類とイヌがそれぞれサルモネラ症とカンピロバクター症のリスク因子であると考えられた。
ジアルジア症については、センチネルサイトでは私設水道の飲料水、プールでの遊泳、動物飼育農場への訪問が重要なリスク因子と考えられた。
食品の検査
C-EnterNetでは、検査を行った3つの食肉製品からヒトの胃腸疾患の病原体が検出され、生の食肉の適切な取り扱いと加熱の必要性が確認された。最確数法による定量的アセスメントによると、検体の大多数は検出限界未満の汚染レベルであった。これらの汚染レベルは増菌培養法では検出可能であるが、菌数測定には不十分(<0.3 MPN/g)で、リスクは比較的低いと考えられた。サブタイピングの結果によると、市販食肉にみられるサブタイプの一部がヒトの疾患の原因となるサブタイプに類似していた。たとえば、Salmonella Enteritidisの場合、市販の鶏肉検体と地域由来の患者の両者においてPFGEパターンはSENXAI.0038が最も多かった。しかし、旅行由来の患者で最も多く検出されたSENXAI.0001は市販の食肉検体からは検出されなかった。Campylobacterでは、生の鶏肉でも患者由来でもC.jejuniが最も多く検出された。一方、あまり懸念する必要のないサブタイプもあり、たとえば、Salmonella Kentuckyは市販の鶏肉検体からは最も多く検出されたが、センチネルサイト内の患者からは検出されなかった。市販の豚肉検体からYersiniaが検出されたが、サブタイピングによると非病原性の株であることが確認された。
季節性に関しては、Salmonella保菌率にパターンは認められなかった。市販の鶏肉のCampirobacter保菌率は2006年の秋に2倍になり、カンピロバクター症患者が夏期に増加した後であったことは興味深かった。
2005年11月〜2006年3月にセンチネルサイトで食品の喫食調査が行われ、健常者の集団における食品の喫食と食品の取扱いに関するベースラインデータが得られた。消費者の76%が大規模なチェーン店で食肉を購入し、チェーンではない店(食肉解体処理店や個人商店)で購入するのは10%未満であった。購入品は牛ひき肉、ポークチョップ及び鶏胸肉が最も多く、小売店レベルでこれらの検体採集を行うことの裏付けが得られた。
動物の検査
センチネルサイトで飼育されている乳牛とブタのサーベイランスにより、ヒトの胃腸疾患の病原体であるサブタイプがいくつか検出された。S. Typhimuriumはヒトとブタの飼育農場で最も多く検出されたが、乳牛の飼育農場では2番目に多く検出された。ブタと乳牛の糞尿肥料のプール検体から、ヒトに病原性であるGiardia Assemblage B及びCryptosporidium parvumが検出された。一方、乳牛の糞尿肥料のプール検体と未殺菌の地表水からE. coliの病原性株が検出されたが、ヒトからの分離株とヒト以外からの分離株のPFGEパターンが同じではなかったため、両者に蔓延しているのは異なる株であると考えられた。2007年、センチネルサイトの農場の調査ではウシと家禽が対象に追加されている。
環境の検査
未殺菌の地表水は一部の腸管病原体の曝露経路として無視できない。たとえば、地表水から分離されたSalmonella 32株のうちヒトの患者にも見つかった血清型は13株であった。VTEC、C. jejuni及びC. coliが検出されたことから、河川や池での遊泳がリスクとなり得ることを示していた。GiardiaとCryptosporidiumが未殺菌の地表水に見つかることが多く、地域由来の患者と未殺菌の地表水中のGiardiaの嚢胞の平均濃度との間に相関関係があると考えられた。ヒトの病原性株に最も多いC. hominis及びC. parvum のウシの遺伝子型が未殺菌の地表水検体から検出されていた。
ウイルス
市販の食肉、ブタと乳牛の飼育農場の糞尿肥料検体におけるノロウイルスとロタウイルスの汚染を把握するために、カナダ保健省微生物学的ハザード局(Bureau of Microbial Hazards of Health Canada)と協力して短期間の調査が行われた。ブタ、乳牛の糞尿肥料およびポークチョップ1検体からヒトのGII.4様ノロウイルスが検出されたが、ヒトへの感染性は不明であった。検査を行ったあらゆる種類の食肉と糞尿肥料から、ヒトに病原性であるA群ロタウイルスが検出された。
2006年のC-EnterNetの活動からはこのサーベイランスシステムから得られた結果のスナップショットが得られた。報告書には2006年中に観察された傾向に関する詳細な追加情報が記載されている。センチネルサイトが増加し、サーベイランスシステムが進化するのに伴い、カナダ全体を代表する情報が得られようになり、カナダの食品安全および水道安全政策の決定する上での直接活用、ひいてはカナダの食品および水道の安全性を維持することを保証するとしている。