(食品安全情報2007年13号(2007/06/20)収載)
欧州疾病予防管理センター(ECDC: European Centre for Disease Prevention and Control)が第1回伝染病報告書を発表した(The First European Communicable Disease Epidemiological Report)。49の伝染病について、EUの加盟25カ国、ノルウェー及びアイスランドの2005年の疫学データが収載されている。EUにおける伝染病の主要な決定因子(determinants)とその結果に関する考察、必要な対応を提案している。また、EU内でモニターされた伝染病に関する年次報告も含まれている。
報告書は、Dedicated Surveillance Networks(DSN), DG-SANCO, 欧州委員会統計局(Eurostat)の伝染病のデータセット、2005年の人獣共通感染症のデータセットなどを使用している。
既存のデータセットには一部問題もあるが、この報告書にまとめられた疫学に関する結論の多くは有用である。ヨーロッパでは伝染病の発生率は全体に低く、過去10年間に着実に減少している疾患もあれば(はしかなど)、比較的変化のない疾患もあった(侵襲性肺炎球菌感染症など)。また、一部の胃腸感染症(カンピロバクター症など)や性感染症(HIV、クラミジアなど)は全体に増加しているため、国内の予防及びコントロールプログラムを継続するため、ハイレベルのコミットメントを維持する必要性が強調された。さらに再興(reemerging)疾患(男性とsexをする若い男性のHIV感染など)による影響に対する備えの必要性も指摘した。報告書の結論の多くは、地域、国内および国際レベルの健康政策決定者に対し、伝染病問題に対する最適な取り組みを計画する際の基本と提供している。
食品及び水由来の疾患のサーベイランス
食品及び水由来の疾患のサーベイランスは、過去10年間に大幅に改善され、発生率の増加が真の増加であるか、検出能力の向上によるものか判断するのは困難である。しかし、重要な二つの感染症、サルモネラ症(チフス性及びパラチフス性)と赤痢は減少傾向にあると考えられる。Campylobacterは、EUでは最も多い食品由来菌であり、徐々に増加している。水由来のCryptosporidium感染のアウトブレイクが発生している加盟国もある。
このような重要な感染症のほか、地域特有の感染症(ブルセラ病、エキノコックス症、トリヒナ症、レプトスピラ症)、免疫障害者や胎児、年少者に特に問題となる食品または水由来の感染症(リステリア症、トキソプラズマ症)がある。リステリア症は増加しているが、トキソプラズマ症についてはデータの信頼性が低い。
A型肝炎は減少しているが、このウイルスに感受性があるヒトは増加しており、一部の国で小規模なアウトブレイクが発生している。
コレラはEUではもっぱら輸入疾患であり、最近は二次感染者もほとんどない。
ノロウイルス及びロタウイルスの感染症は、EUでは報告義務はないが、EU全体で重要な胃腸炎の原因である。学校、病院、クルーズ船などの閉鎖的な場所でのノロウイルス感染アウトブレイクが増加傾向にあると考えられるが、検査機関に診断法が導入されて間もないことを考慮すべきである。
食品及び水由来の感染症では、医療機関を受診する患者が少ないため、最良のサーベイランスを行っても、問題の真の規模を正確に把握することは困難である。サーベイランスは、アウトブレイクの発見と阻止のためのみでなく、食品及び水の処理や取り扱いにおける弱点を特定する上でも重要である。このため、あらゆる食品由来疾患に対する強化サーベイランス(抗生物質耐性に関する情報を含む)の構築が最優先であり、そのシステムでは、検査機関のデータ(特に分子サブタイピングなど)を統合するべきである。