(食品安全情報2007年9号(2007/04/25)収載)
2006年7月末、イタリアのApulia州Tarantoで多数の急性下痢患者が報告され、以下の調査が行われた。
フィールド調査 7月〜10月まで、Taranto州内のすべての病院において、主に次の事項に関してアウトブレイク調査を行った。
・患者の確認及び記述疫学。症例は、下痢(1日3回以上の軟便または液状便)を呈し、38℃以上の熱、頭痛、嘔吐、腹痛、悪心のうち1つ以上の症状のある者と定義した。Tarantoの病院6箇所中5箇所からの患者の情報、2006年5月〜7月までの後ろ向きデータ、8月〜9月までの前向きのデータ、及びTarantoの旅行者用に夏季限定(6月〜8月)で開設されている医療施設の患者の報告を収集した。
・入院患者の検便の微生物学検査
・環境検体の微生物検査(水道水、海水及び貝類)
・感染源を特定するため8月1日〜9月15日までに行われた症例対照研究
アウトブレイク
2006年5月1日〜9月30日までに患者2,860人が治療を受けたことが報告され、前年同時期に治療を受けた患者586人をはるかに超えていた。最初のピークは6月末で、2度目は7月末、その後減少し、9月中旬までに1週間当たりの患者数が2005年同時期と同じ程度になった。平均年齢は25歳、患者の19%が5歳以下、16%が5〜15歳、65%が15歳以上であった。曝露した時期が不明であったため、潜伏期間は算出されなかった。住民の発生率はTaranto市が1,000人当たり9.5人で最も高かった。旅行者用医療施設の急性胃腸炎患者数は361人で、昨年よりかなり多かった。
微生物学検査
患者の検便70検体の検査を行ったところ、菌及び寄生虫は検出されず、現在、遺伝子タイピングを行っている。環境検体としては、アウトブレイク発生地域の給水システムの水道水、海水および貝類の検体を採集した。水検体は、給水所、水道管と井戸、パブの水道水から採集した。水道水からは指標大腸菌群もエンドトキシンも検出されなかった。検査を行った44検体のうち、4検体(9%)がノロウイルス陽性、11検体(25%)がロタウイルス陽性であった。分子生物学的プロファイルは一部の患者の検便検体から検出されたものと同じで、ノロウイルス株は新しいGGII.4 2006a、ロタウイルスはG9であった。調査は続行中で、この先さらに検査結果が判明する予定である。海水検体12検体は、4検体(33%)がノロウイルス陽性、1検体(8.3%)がロタウイルス陽性であった。貝類からは菌もウイルスも検出されなかった。
症例対照研究
症例は8月1日〜9月15日までの間に治療を受けた患者のうちの166人とし、対照群は研究期間中に症例と同じ地域に住み、年齢を一致させた健常者146人とした。標準的な質問票による聞き取り調査を行い、発症と有意な関連性が認められたリスク要因は水道水の使用(オッズ比=2、95% CI[1.23〜3.36])と、発症前72時間以内の水源不明の水の使用((オッズ比=3.9、95% CI[1.41〜10.54])であった。
結論及び対策
疫学調査と検査機関の検査結果は、少なくともロタウイルスとノロウイルスに汚染された水道水が感染源である可能性が高いことを示唆していた。このため、第34週から家庭用給水への特別な塩素消毒を開始したところ、患者発生は収まった。水道管と井戸の調査からは汚染源は判明しなかったが、塩素消毒設備の技術上の問題は除外できなかった。今回のウイルス性胃腸炎アウトブレイクはイタリアの飲料水によるアウトブレイクとして最大と考えられる。