(食品安全情報2007年1号(2007/01/05)収載)
1994 年から2005 年にかけてオランダで発生したノロウイルスによる胃腸炎のアウトブレイクは、総じて増加傾向にあり、新種のGGII.4 を原因とする3 回の流行期があった。これらの流行期間中に増加したGGII.4 株の割合が、その後絶対数・相対数共に激減したことから、免疫が確立されたことが示唆される。(下図参照)
ノロウイルス分子検出技術は1990 年代半ばになってようやく利用可能となったため、ノロウイルスのアウトブレイクに関する長期間のサーベイランスによる詳細な分子疫学的データは稀少である。12 年間にわたるサーベイランス研究では、ノロウイルス感染の冬期毎のピークには大きな差異が認められた。流行のピークはすべてGGII.4 株が原因であった。この知見は短期間の調査で観察されたが、ここ数年は特に医療・保険福祉施設においてGGII.4 感染の増加が示唆されている。しかし、医療環境では症例報告が義務付けられているため、報告数が過剰である可能性が高い(下表RI:社会福祉施設の列参照)。アウトブレイク数の実増は受動的サーベイランスデータの結果のみで証明できないが、過去数年のGGII.4 の有病率の増加及び多くのアウトブレイクに関連する主要なGGII.4 変異株の報告の推移によって裏付けられている。
MW:主に水、F:食品由来、PTP:ヒトーヒト、U/O:不明又はその他、T:海外旅行による、S/D:学校又はデイケアーセンター、R/C/C:レストラン、カンテーン、又はケーターリング、H:病院、PH:個人宅、RI:社会福祉施設
GGII.4 の総体的優勢として、不特定多数との密接な接触によってヒト−ヒト感染が生じやすい医療・社会保健施設の環境において、この遺伝子型が他と比較して高い伝染性を持つことを示唆している。伝染性は衛生環境の劣悪さまたは感染に対する感受性によっても左右される。GGII.4 の排菌レベルの増加または他遺伝子型と比較し宿主外に放出されたウイルス粒子の安定性が増したことで、伝染性が増加したとも考えられる。また、流行ウイルスの変化によって宿主細胞との結合能または免疫認識に差異が生じる可能性があり、その結果感染動態あるいは曝露集団の規模に変化が生じた可能性を指摘している。
1995 年〜1996 年、2002 年、及び2004 年に識別可能なGGII.4 系の出現が報告され、GGII.4 株の表現型の変化によってアウトブレイクの発生数が増加したことが示唆された。観察された疫学パターンに関与する分子機序を特定するために、GGII.4 株の詳細な特性の解明が継続中である。大流行のシーズンの後のシーズンにGGII.4 株の割合が顕著に減少したことは、集団がこれらの優勢株に対する免疫を獲得したことを示唆している。このサーベイランスのデータセットは継続すること及びヨーロッパサーベイランスネットワーク(www.eufoodborneviruses.co.uk)の一部として拡大することによって、その価値及び重要度が増すと考えられる。今後は、観察されたノロウイルスの疫学的変化及びその拡大のコントロールのための分子学的基礎を理解することが必要であるとしている。