(食品安全情報2007年15号(2007/07/18)収載)
ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)が2006年度報告書を発表した。微生物分野に関する記述を以下に紹介する。
アウトブレイク関連食品の全国的な登録システム
Nationwide recording system for foods involved in outbreaks
2006年に実施されたアウトブレイクの調査において最も高頻度に分離された病原菌はSalmonella Enteritidisであった。原因食品として顕著だったものはパン製品で、そのほとんどのケースで原因は加熱不十分であり、高頻度でアウトブレイクの原因となっていた。また、詰め物や生地として使うための生卵の加工および夏季におけるパン製品の不十分な冷却も発生要因と考えられた。また、製造工場または養護施設のスタッフへの感染も稀ではなく、食品が後の段階で汚染された可能性も除外できないとしている。複数の幼稚園で感染が発生し、120人を超える患者を出した1件の大規模なアウトブレイクでは、デザートの保存検体およびヨーグルトを使用した魚の冷ソースからSalmonella Enteritidisが検出された。しかし、アウトブレイクの調査中には、主たる汚染源は特定できなかった。
2006年の食品由来疾患のアウトブレイク登録システムには、家族パーティーの残品から黄色ブドウ球菌エンテロトキシン、セレウス菌およびノロウイルスが検出されたアウトブレイクに関する情報も含まれていた。
人獣共通感染症の病原体の抗生物質耐性モニタリング
Monitoring of antibiotic resistance in zoonotic agents
Salmonella、Campylobacter、Listeriaなどの人獣共通感染症の病原体のヒトへの感染は、ヒトの健康にとってハザードとなる。さらに耐性菌の感染では、症状が長期間に及ぶ、重篤性が増す、死につながるという問題が新たに加わる。
2006年11月、公衆衛生にとって脅威となる人獣共通感染症およびその他の病原体の抗生物質耐性に関する比較可能なデータを収集することがBfR国立抗生物質耐性リファレンス研究所(BfR National Reference Laboratory for Antibiotic Resistance)の主要な業務の1つとなった。それらの結果は、科学的な裏付けのあるリスク評価および耐性獲得とそれによるヒトの健康へのリスク評価のための基礎データとなり、適切なリスク管理を行うための勧告がこれらデータにもとづいて作成できることになる。
2006年に動物、食品、動物用飼料、および環境から採集したSalmonella株(3,610株)検体の検査において、耐性株の割合が46%(1,658株)とわずかに減少した。17種の異なる抗生物質に対する感受性の検査が行われ、多剤耐性株の割合は36%(1,299株)で2005年と同じレベルであった。主要な感染源は豚由来株であり、その71%が多剤耐性を示した。七面鳥由来株では、多剤耐性株が65%を占め、豚および牛由来株では53%、家禽肉由来株では44%であった。
多数の研究により、マクロライド、フルオロキノロン等の特定の抗生物質に対するCampylobacterの耐性が増加した例が報告され、これらは新しい公衆衛生上の問題である。ドイツではこのような耐性菌が、産卵鶏および家畜ブタから分離されたCampylobacterのモニタリングプログラムでも検出された。
耐性の増加、細菌種内での局在および多種の細菌群での拡大に関する知見は耐性菌の現状分析のために重要である。そのため、Salmonella、Campylobacter、Escherichia coliおよびYersiniaにおける耐性の遺伝子構造を調べた。それら耐性遺伝子はゲノム(染色体)内および/またはプラスミド等の可動性移動因子(mobile elements)上に存在しており、これまでに30を超える異なる耐性遺伝子とその遺伝子構造が確認されている。BfRにおいて特別に重点的に行われている研究の1つとして、欧州ネットワークの枠組み内で実施されたフルオロキノロン系(シプロフロキサシン等)およびβラクタム抗生物質(セフタジジム、セフォタキシム等)耐性の拡大および分子生物学的性質に関する調査がある。これらの調査で対象としている抗生物質は、ヒトの感染症の治療にとって特に重要なものである。