英国食品基準庁(UK FSA)からのカンピロバクター関連情報
https://www.food.gov.uk


英国食品基準庁(UK FSA)が2018/19年次報告書および決算報告書を発表
FSA publishes its Annual Report and Accounts for 2018/19
19 July 2019
https://www.food.gov.uk/sites/default/files/media/document/fsa-annual-report-accounts-2018-19-consolidated.pdf(2018/19総合年次報告書および決算報告書「Consolidated Annual Report and Accounts 2018/19」)
https://www.food.gov.uk/sites/default/files/media/document/fsa-annual-report-accounts-2018-19-westminster.pdf(ウエストミンスター2018/19年次報告書および決算報告書「Westminster Annual Report and Accounts 2018/19」)
https://www.food.gov.uk/sites/default/files/media/document/fsa-in-wales-annual-report-and-accounts-2018-19-accessible-version.pdf(FSAウェールズ2018/19年次報告書および決算報告書「FSA in Wales Annual Report and Accounts 2018/19」)
https://www.food.gov.uk/sites/default/files/media/document/10879-fsa-ar2018-19-accounts-n-ireland_web.pdf(FSA北アイルランド2018/19年次報告書および決算報告書「FSA in Northern Ireland Annual Report and Accounts 2018/19」)
https://www.food.gov.uk/news-alerts/news/fsa-publishes-its-annual-report-and-accounts-for-201819

(食品安全情報2019年21号(2019/10/16)収載)


 英国食品基準庁(UK FSA)は、2018/19会計年度の年次報告書および決算報告書を発表した。この報告書は、FSAが2018/19年度に総額9,870万ポンドをかけて実施したイングランド、ウェールズおよび北アイルランドでの活動の内容と実績を紹介している。

 報告書から、食品由来疾患、食品衛生ランク付け方式(FHRS)および食品関連インシデントに関する活動内容を以下に紹介する。


食品由来疾患

 食品の安全性および信頼性の確保は、食品の製造者および供給者の責務である。英国では毎年100万人が食品由来疾患に罹患すると推定され、その経済的損失は10億ポンドを上回る。図1は、2000〜2018年に英国で報告された4大病原菌感染の検査機関確定患者数を示している。報告される患者および検査機関で分析される検体は全体のごく一部に過ぎない。

図1


 FSAは食品由来疾患から国民を保護するために存在する。毎年3月に更新されるこれらの統計データ(Q4 statistics)は、FSAが実施するすべての対策を反映している。

 食品由来疾患の罹患数には多少の年変動が予想されるが、これは必ずしも懸念材料となるわけではない。この年変動を考慮し、FSA理事会は活動開始の判断基準となるベースラインレベルを設定している。2018年に4種類の病原菌感染の罹患数は前年に比べすべて増加したが、いずれも現行の閾値には達していない。

 しかし、これら4種類の病原菌のすべてで罹患数の増加が認められたため、FSAは、国のサーベイランス機関およびその他の関係当局と協力し、あらゆる潜在的な問題を把握するために、すべての入手可能なデータを十分に分析できるよう取り組みを強化する予定である。必要に応じて、補足的な調査を委託実施するなどの追加的な措置を講じる予定である。


〇 小売調査およびオープンデータ共有イニシアティブ

 鶏皮のカンピロバクター汚染は皮1グラムあたりの生菌数(cfu/g)で計測される。特に注目される汚染は1,000 cfu/g超の高レベル汚染である。

 FSAの構想について業界と協議した結果、小売シェアが上位の9社は2017年9月21日から各社の消費者向けWebサイトで自社の鶏肉製品のカンピロバクター汚染に関する検査結果を公表することに同意した。これらの小売業者によるサンプリングおよび分析は、FSAが作成した確かなプロトコルに準拠して行われる。この協定の結果、上述の大規模小売業者9社はFSAによる年次小売調査の対象から除外されたが、これら9社によるカンピロバクター汚染低減への取り組みについては消費者が今後も把握することが可能である。図2は、これら9社がこれまでに公表した検査結果の一部である。

図2


 直近の結果として、2018年第4四半期(2018年10〜12月)では、検査した鶏肉検体のうち最高レベル(>1,000 cfu/g)のカンピロバクター汚染を示した検体の割合が大規模小売業者9社の平均で3.1%であった。過去の結果として、2018年7〜9月は3.5%、2018年4〜6月は3.7%、2017年7〜9月(第1回目の公表対象期間)は4.6%であったことから、大規模小売業者が販売する英国産の冷蔵丸鶏においてはカンピロバクター汚染レベルが一定の状態に保たれていることが明確である。

 直近の結果は、英国産生鮮丸鶏のカンピロバクター汚染低減策においてさらなる成果があげられていることを示している。

 FSAは、汚染率を合理的に達成可能なレベルにまで低減させるため、小売業者および小規模家禽事業者と緊密に協力しながら、今後もこのような有望な成果を積み重ねていく。図3は、大規模小売業者9社における、検査期間別および汚染レベル別の汚染率の平均値である。

図3


 カンピロバクター汚染対策プログラムは2017年3月末に終了したが、FSAは引き続き小売調査を実施している。

 FSAは現在の戦略として、さらなる改善が期待できる小規模施設に対策の焦点を絞っている。小規模供給業者に焦点を絞ることで、大規模小売りチェーンにおいて実現された改善をサプライチェーン全体に拡大させることが可能と考えられる。小規模小売店、個人経営の商店および露店は、小規模加工業者から製品の供給を受ける可能性が高いため、小売調査の焦点はこれらの小売業者に絞られる予定である。小規模加工施設の市場シェアは比較的小さいが、多くの小規模加工施設が仕出し業者や地元の小売店に製品を供給している。

 FSAはまた、食品検査機関によるカンピロバクターの検出および菌数測定の能力を調査するため、カンピロバクター技能試験制度を導入する予定である。これらの食品検査機関は小売業者や加工業者に代わって検査を実施している。FSAは、引き続きすべての英国産鶏肉のカンピロバクター汚染レベルの低減に注力し、カンピロバクター汚染低減への寄与が確実に継続するよう、オープンデータの公表について大規模小売業者との連携を続けていく。


食品衛生ランク付け方式(FHRS)

 食品衛生ランク付け方式(FHRS)は、各食品事業施設について、地方自治体当局による通常の立ち入り検査の際に認められる衛生水準に関する情報を提供している。この方式の対象としては、レストラン、パブ、カフェ、持ち帰り料理店、病院、介護施設、ホテル、スーパーマーケット、その他の小売店などの、消費者に食品を直接提供する施設が含まれる。ウェールズでは卸売業者もこの対象に含まれる。この方式では、地方自治体当局が実施する立ち入り検査時の衛生水準に関してその評価の透明性が担保される。これにより、消費者は十分な情報を得た上で外食や食品購入時の決定を行うことが可能になる。消費者がこのような権利を持つことは、食品事業者に衛生水準を向上させる動機を与える。FSAが行った分析によると、衛生ランクの高さは食品事業施設で検出される病原菌のレベルの低さと関連しており、結論として、ランクが高い施設の食品を喫食した場合の方が消費者の食品由来疾患リスクは低いと言える。FHRSは、イングランド、ウェールズおよび北アイルランドで、ランク付けの判断基準となる立ち入り検査を実施している各地方自治体当局との連携により実施されている。ランクは5(非常に良好)から0(緊急の改善が必要)までである。

 消費者がFHRSランクを容易に認識できるよう、食品事業者には店頭表示用のステッカーが交付される。このステッカーの表示はウェールズおよび北アイルランドでは法律で義務化されているが、イングランドでは今のところ任意である。

 2019年3月31日までに、イングランド、ウェールズおよび北アイルランド全体で計434,124店の食品提供施設にFHRSランクが発行されている。

 図4は、時期(2013年9月〜2019年3月)別および地域(イングランド、北アイルランド、ウェールズ)別のFHRSランク百分率分布を示す。

図4


 FHRSに関する調査(FHRS Tracker)から、イングランド、ウェールズおよび北アイルランドの消費者のFHRSについての認識、意見および利用の概略を知ることができる。

 図5は、ウェールズ、北アイルランドおよびイングランドの各地域で報告されたFHRSステッカーの認知度の経時変化を示す。

図5


 ウェールズおよび北アイルランドにおける衛生ランク表示の義務化は、任意での表示による成果を踏まえて実施され、ウェールズでは2013年に表示義務が導入されて以降、ランク5の施設が23%増加した。FHRSランクの表示義務化は消費者および高い衛生水準を実現している施設にとって有益であるため、FSAは引き続きイングランドでの表示義務化に取り組んでいく。表示義務化はまた、衛生水準が低い施設が改善への意欲を高めるさらなる動機にもなる。

 2018年9月に行われた業務監査で、食品提供施設におけるFHRSランクの店頭表示率は、表示が義務化されているウェールズおよび北アイルランドではそれぞれ87%および84%であるのに対し、表示が任意のイングランドでは52%であることが指摘された。一方、任意表示が始まった直後の2011/12年の各地域の店頭表示率は、イングランドでは32%、ウェールズでは21%、および北アイルランドでは38%であった。


食品関連インシデント

 購入および喫食する食品を選択する際に十分な情報を持っていることは消費者の基本的な権利である。これは、食品が正確かつ的確に特定され、かつ表示が適切な場合にのみ可能である。

 FSAは、食品の製造・供給業者がそれぞれの責任を果たしていること、すなわち、食品の安全性および信頼性を保証していることを確認する上で重要かつ指導的な役割を担っている。EC規則178/2002第19条にもとづき、食品事業者は、輸入・生産・製造・販売を行った食品が食品安全の要件を満たしていないことを確信する根拠がある場合、関連当局に届け出を行う義務がある。このような届け出はインシデントと呼ばれ対応策が取られる。

 英国における食品関連インシデントの担当機関はFSAおよび地域・港湾の各保健所である。食品安全に関する情報は、欧州委員会(EC)と加盟各国との間で「欧州の食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF)」を用いて共有される場合がある。

 FSAの定義によると、食品関連インシデントとは、入手可能な情報にもとづき、食品および飼料の安全性、品質または健全性について実際の脅威またはその疑いに関する懸念が存在し、消費者の利益を保護するために介入の必要性が考えられるすべての事例とされる。

 2018/19年に英国ではFSAに計2,321件の食品・飼料・環境汚染インシデントが報告され、それらについて調査が行われた。2018/19年の届出件数は2017/18年の件数と比べ0.21%の減少であった。

 各年に記録されるインシデントおよび警報の件数は、消費傾向、技術革新、法改正、検査の実施件数、天候などの多くの要因の影響を受ける可能性がある。FSAが受け付けたインシデント届出の件数およびFSAが発出した警報の件数は、FSAがどの程度の割合のインシデントを認識しているかを示しているに過ぎない。FSAは、量的・質的能力を継続的に見直すことにより、このような件数の変化への対応を続けて行く。

 2018/19年にイングランド、ウェールズおよび北アイルランドでFSAが発出したアレルギー警報(AAs)および製品回収情報通知(PRINs)の件数は、2017/18年と比べ36.7%増加した。警報件数の増加は、英国の食品安全状況の変化を示すものではなく、近年のアレルギー関連のリスク報告の増加を反映している。

 図6は、2014/15〜2018/19年の四半期ごとのインシデント届出受付件数(上)および警報発出件数(下)の推移を示す。

図6


 食品関連インシデントについては詳細情報がFSAの以下のWebサイトから入手可能である。
https://www.food.gov.uk/sites/default/files/media/document/fsa-18-09-06-incidents-and-resilience-report.pdf



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部