Morbidity and Mortality Weekly Report(CDC MMWR)からのカンピロバクター関連情報
http://www.cdc.gov/mmwr/


主に食品を介して伝播する病原体による感染症の罹患率と動向、および培養非依存的診断検査例の増加のサーベイランスへの影響 − 食品由来疾患アクティブサーベイランスネットワーク(FoodNet)の米国内10カ所のサイトでのデータ(2013〜2016年)
Incidence and Trends of Infections with Pathogens Transmitted Commonly Through Food and the Effect of Increasing Use of Culture-Independent Diagnostic Tests on Surveillance - Foodborne Diseases Active Surveillance Network, 10 U.S. Sites, 2013-2016
Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR), Vol.66/No.15;397-403
April 21, 2017
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/66/wr/mm6615a1.htm?s_cid=mm6615a1_w (論文本文)

(食品安全情報2017年15号(2017/07/19)収載)


【米国疾病予防センター(US CDC)紹介記事】
2016年の食品由来細菌性疾患の主要な原因菌はカンピロバクターおよびサルモネラ
Campylobacter, Salmonella led bacterial foodborne illnesses in 2016: Data from rapid diagnostic tests included in total infections for the first time
April 20, 2017
https://www.cdc.gov/media/releases/2017/p0420-campylobacter-salmonella.html

(論文紹介記事より一部抜粋)

 米国疾病予防管理センター(US CDC)のMorbidity and Mortality Weekly Report誌に発表された論文の暫定データによると、2016年に発生した食品由来細菌性疾患で最も多く報告された原因菌はカンピロバクターおよびサルモネラであった。CDCの食品由来疾患アクティブサーベイランスネットワーク(FoodNet)によるこの論文は、米国内の食品由来疾患に関する最新のデータを提供している。

 今回の新しいデータは、培養非依存的診断検査(CIDT:culture-independent diagnostic test)として知られる迅速検査の実施例の増加を反映している。これらの迅速検査では治療への直接的な利益が得られることがあるが、他方、感染の抗生物質耐性やアウトブレイクとの関連などを特定するために必要な情報の収集はできない。迅速検査での陽性例は、詳細データを得るために培養にもとづく方法による再検査が可能であるが、本論文によるとこれが行われることは少ない。

 食品由来疾患は、依然として、米国内で公衆衛生上の大きな懸念となっている。これまでの分析により実際の感染患者数は診断陽性数をはるかに上回ることが示されており、CIDTによってこれらの感染例がより効率的に捕捉される可能性がある。しかし、新規感染報告数の変化は感染患者数の真の変化ではなく検査方法の変化を反映している可能性があるため、CIDTへの移行は食品由来疾患の動向モニタリングに課題を提起する。したがって、2016年のデータとそれ以前の年のデータとの比較は感染患者数の動向を正確に反映しているとは限らない。2016年およびそれ以前の年の推定感染患者数は正確であるが、2016年のデータにはCIDTによる結果が含まれているため、両者の直接比較は不可能である。FoodNetは、食品由来疾患低減策の継続した進化を可能にする新たなツールを開発中である。


(MMWR論文抄訳)

背景および方法

 食品由来疾患アクティブサーベイランスネットワーク(FoodNet)は、米国疾病予防管理センター(US CDC)、10州の保健局、米国農務省食品安全検査局(USDA FSIS)および米国食品医薬品局(US FDA)による協力事業である。FoodNetは、カンピロバクター、クリプトスポリジウム、サイクロスポラ、リステリア、サルモネラ、志賀毒素産生性大腸菌(STEC)、赤痢菌、ビブリオおよびエルシニアの検査機関診断感染例について、合計で全米人口の約15%(2015年では推定4,900万人)をカバーする国内10カ所のサイトで住民ベースのアクティブサーベイランスを実施している。

 本論文において細菌の確定感染は、臨床検体から培養によって細菌が分離されることと定義される。また寄生虫の確定感染は、直接蛍光抗体法、PCR法、酵素免疫学的測定、または光学顕微鏡検査により臨床検体から寄生虫が検出されることと定義される。培養非依存的診断検査(CIDT)においては、便検体や増菌培養液から細菌性病原体に固有の抗原や核酸配列が、またSTECについては志賀毒素またはその遺伝子が検出される。「CIDTのみ陽性の細菌感染」は、培養により確認されなかったCIDT陽性結果を示している。

 検体採取後7日以内の入院例が抽出された。また、患者の退院時(非入院患者の場合は検体採取7日後)の生死情報についても調査が行われた。検体採取後7日以内の入院および死亡は当該の感染に起因するものとした。

 FoodNetはまた、医師が診断した下痢症後の溶血性尿毒症症候群(HUS)に関するサーベイランスも実施している。HUSはSTEC感染の合併症の可能性があり、本サーベイランスは腎臓専門医や感染症予防専門医のネットワークによる退院データの調査にもとづいている。本論文には、直近のデータとして、2015年の18歳未満のHUS患者数のデータが収載されている。


感染患者数、罹患率および動向

 2016年にFoodNetは、確定感染または「CIDTのみ陽性の感染」の患者計24,029人、入院患者計5,512人、および死亡者98人を確認した(表1)。2016年に確定感染または「CIDT のみ陽性の感染」の患者数が最も多かった病原体はカンピロバクター(8,547人)で、次いでサルモネラ(8,172)、赤痢菌(2,913)、STEC(1,845)、クリプトスポリジウム(1,816)、エルシニア(302)、ビブリオ(252)、リステリア(127)、サイクロスポラ(55)の順であった。2016年に感染に占める「CIDTのみ陽性の感染」の割合が最も高かった病原菌はカンピロバクターおよびエルシニア(ともに32%)で、次いでSTEC(24%)、赤痢菌(23%)、ビブリオ(13%)、サルモネラ(8%)の順であった。これら6種類の病原菌の2016年の「CIDTのみ陽性の感染」例は、2013〜2015年の平均に比べ全体で114%(個々の菌種では85〜1,432%)増加した。2016年のCIDT陽性例のうち約60%について、臨床検査機関または州の公衆衛生検査機関で追加培養(reflex culture)が試みられた。追加培養の実施率は、カンピロバクターの45%からSTECの86%やビブリオの88%まで、病原菌によって異なっていた。追加培養が実施されたCIDT陽性例に占める培養陽性例の割合が最も高かった病原菌はサルモネラ(88%)およびSTEC(87%)で、次いで赤痢菌(64%)、エルシニア(59%)、カンピロバクター(52%)、ビブリオ(46%)の順であった。


表1:細菌の確定感染および「CIDTのみ陽性の感染」、および寄生虫の確定感染の患者数、入院患者数、死亡者数(FoodNet、米国内10カ所のサイト、2016年)

 CIDT=培養非依存的診断検査、STEC=志賀毒素産生性大腸菌
 *リステリア、クリプトスポリジウム、サイクロスポラの場合、感染はすべて確定感染である
 **CIDTでは血清群の特定ができないので、STECにはすべての血清群が含まれる


 確定感染の人口10万人あたりの罹患率(a)、および確定感染または「CIDTのみ陽性の感染」の人口10万人あたりの罹患率(b)は、カンピロバクター(a=11.79、b=17.43)およびサルモネラ(15.40、16.66)が最も高く、次いで赤痢菌(4.60、5.94)、クリプトスポリジウム(3.64、該当せず)、STEC(2.85、3.76)、エルシニア(0.42、0.62)の順で、ビブリオ(0.45、0.51)、リステリア(0.26、該当せず)、およびサイクロスポラ(0.11、該当せず)が最も低かった(表2)。2016年を2013〜2015年の平均と比較すると、カンピロバクター感染の罹患率は、確定感染のみの場合は有意に低下した(11%低下)が、確定感染または「CIDTのみ陽性の感染」の場合は有意な違いが見られなかった。STEC感染の罹患率は、確定感染のみの場合(21%)も、確定感染または「CIDTのみ陽性の感染」の場合(43%)も有意に上昇した。同様に、エルシニア感染の罹患率は、確定感染のみ(29%)および確定感染または「CIDTのみ陽性の感染」(91%)のいずれでも有意に上昇した。クリプトスポリジウム確定感染の罹患率も2013〜2015年の平均と比較して2016年は有意に(45%)上昇した。


表2:細菌の確定感染および「CIDTのみ陽性の感染」、および寄生虫の確定感染の2016年の罹患率*の2013〜2015年の平均と比較した時の変動%(病原体別、FoodNet、米国内10カ所のサイト、2013〜2016年)

 *人口10万人あたり


 2016年のサルモネラ確定感染患者7,554人のうち、血清型に関する情報が得られたのは6,583人(87%)であった。最も多かった血清型は、Enteritidis(1,320人、17%)、Newport(797人、11%)、Typhimurium(704人、9%)の順であった。2013〜2015年の平均と比べ2016年の罹患率が有意に低かった血清型はTyphimurium(18%低下、信頼区間(CI)= 7%〜21%)で、EnteritidisおよびNewportについては変化が認められなかった。種名が特定されたビブリオ属菌208 分離株(95%)のうち、103株(50%)が腸炎ビブリオ(V. parahaemolyticus)、35株(17%)がV. alginolyticus、26株(13%)がV. vulnificusであった。血清群が特定されたSTEC確定感染患者1,394人のうち、503人(36%)がSTEC O157で、891人(64%)がO157以外のSTEC(STEC non-O157)であった。STEC non-O157の586株(70%)では、O26(190株、21%)、O103(178株、20%)およびO111(106株、12%)が最も多い血清群であった。2013〜2015年の平均と比較して2016年はSTEC non-O157感染の罹患率が有意に上昇(26%、CI = 9%〜46%)したが、STEC O157感染の罹患率には変化がみられなかった。

 2015年にFoodNetは、下痢症後のHUS患者を18歳未満の小児で62人(人口10万人あたり0.56人)、5歳未満の小児で33人(56%、人口10万人あたり1.18人)特定した。2012〜2014年の平均と比較すると、2015年はどちらの罹患率においても有意な変化は認められなかった。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部