ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)からのカンピロバクター関連情報
http://www.bfr.bund.de/


家禽肉の病原体汚染の化学的除染に関するQ&A
Questions and Answers on Chemical Decontamination of Poultry Meat
BfR FAQ
21 March 2017
http://www.bfr.bund.de/cm/349/questions-and-nswers-on-chemical-decontamination-of-poultry-meat.pdf (PDF版)
http://www.bfr.bund.de/en/questions_and_answers_on_chemical_decontamination_of_poultry_meat-200429.html

(食品安全情報2017年13号(2017/06/21)収載)


 家禽肉は他の食品と比較して、ヒトに胃腸疾患を引き起こすカンピロバクターやサルモネラなどの病原体に高頻度に汚染されている。これらの病原体は生きた家禽の体内に頻繁に定着しており、さらに、食鳥処理、脱骨、とたい処理などの際に交差汚染により食肉に移行することもある。

 汚染食品によって起こり得る感染を避けるためには、家禽の飼育から食鳥処理そして販売に至るまで、包括的な衛生概念に従うことが必要である。これらの予防戦略だけでは不十分な場合は、除染手段が補助的に使用される。

 以下は、ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)が本件に関するQ&Aをまとめたものである。


ドイツでは、家禽肉中の病原体によるヒト感染はどの程度重要なのか

 サルモネラやカンピロバクター属菌のような病原体の存在は消費者への健康リスクとなっている。例えば、ロベルト・コッホ研究所(RKI)はドイツにおけるカンピロバクター症患者数の近年の増加を発表している。2013年には63,500人以上のカンピロバクター症患者がRKIに報告され、2014年は71,000人以上、そして2015年はおよそ70,000人であった(下記URL参照)。
https://www.rki.de/DE/Content/Infekt/EpidBull/Archiv/2016/Ausgaben/03_16.pdf

 多くの場合、カンピロバクター感染は汚染された家禽肉の喫食に起因する。過去の調査結果にもとづき欧州食品安全機関(EFSA)が算出したところ、2010年ではカンピロバクター症患者の20〜30%が家禽肉の喫食によるものであり、また調査対象の全期間ではカンピロバクター症患者の約50〜80%が家禽関連であった。


欧州委員会は現在までに、家禽肉の病原体汚染を減らすためにどのような法規制を導入しているか

 食品の微生物規格基準を定めているEC規則No. 2073/2005の各数値は家禽にも適用される。この規則ではSalmonella EnteritidisおよびS. Typhimuriumを対象とした食品安全基準が定められており、これらのサルモネラ血清型は25g食肉検体(n = 5)から検出されてはならないとされている。

 さらに、カンピロバクター属菌を原因とする疾患の患者数を減らすために、工程衛生規格基準の導入に関する議論が欧州連合(EU)全域で進められている。この規格基準導入の狙いは、高菌量のカンピロバクターで汚染された家禽肉が市販されることを防ぐことにある。それでも高菌量のカンピロバクターが検出される場合は、食品事業者は衛生状態を改善しなければならない。


食品事業者には家禽肉の衛生状態を改善するためにどのような選択肢があるのか

 EC規則No. 2073/2005の各基準値の遵守およびカンピロバクター属菌を対象とした工程衛生規格基準の導入と並行して、家禽肉の衛生に関する効果的な追加対策について何年間にもわたり議論が続けられている。その結果、食品事業者は既に、食鳥処理工程を考えうる限り最良の衛生条件下で行うことが義務付けられている。

 現在までに、家禽肉内部および表面に存在する病原微生物に対して以下のようないくつかの戦略がとられてきた。

  • 家禽の繁殖および肥育の際に高度の注意を払う
  • 輸送、スタニング、湯漬け、脱羽、内臓摘出、およびその他の食鳥処理工程における衛生
  • 迅速で効果的な冷却
  • 家禽肉製品が直接接触する食鳥処理機および器具の重点的な洗浄と消毒
 BfRも参加している共同研究プロジェクトEsRAM(肥育家禽中の抗菌剤耐性病原菌に対する包括的な低減策の開発)において、包括的な衛生概念に沿ったどのような対策が細菌汚染の大幅な減少につながるかについて現在研究が行なわれている。


なぜ、家禽肉の除染処理についてEU内で議論されているのか

 今までの衛生対策が、特に家禽肉でのカンピロバクター属菌汚染を減少させるには十分ではなかったからである。消費者は、食品が安全であり健康を脅かさないことを期待している。しかし、食品の微生物汚染は完全には排除することができない。食品由来感染を防ぐにあたり台所での衛生対策が十分には考慮されていない。このことはEFSAおよび欧州疾病予防管理センター(ECDC)の統計資料により示されている。これらの統計によると、例えば2015年には、およそ230,000人のカンピロバクター症患者がEUで報告されている。ほとんどの場合、感染は家庭内で起こっており、報告患者の31%は入院による治療が必要であった(下記報告書参照)。

EFSA and ECDC
The European Union summary report on trends and sources of zoonoses, zoonotic agents and foodborne outbreaks in 2015.
EFSA Journal 2016;14(12): 4634.
http://ecdc.europa.eu/en/publications/publications/zoonoses-trends-sources-eu-summary-report-2014.pdf
(編者注:URLが違っているため、正しいURLを以下に記載する)
https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/4634


家禽肉の「化学的除染」とは何を意味するのか

 食品の「化学的除染」という用語は、サルモネラやカンピロバクター属菌の菌数レベルを減らすことができる二酸化塩素や過酢酸(PAA)のような抗微生物剤を使用することを意味する。


家禽肉の除染は現在EUで承認されているか

 現在のところ、家禽肉の表面汚染の除去には飲用水の使用のみが認められている。除染剤の家禽肉への使用は現在のところ承認されていない。


家禽のとたいや肉の除染について、欧州委員会はどのような提案をしているのか

 家禽肉の衛生の改善を目指して、欧州委員会は、特定の条件下における追加的対策として家禽のとたいおよび家禽肉を除染するために、過酢酸の使用の承認を提案している。

 細菌の薬剤耐性の獲得や除染剤の残留物形成を防ぐために、欧州委員会の提案では、処理時の過酢酸の濃度と曝露時間が規定されている。また、欧州委員会の提案は各種の制御パラメーターを規定しており、これにより、食品事業者はHACCP過程の一環として実施される個々の衛生対策や除染対策をモニターしなければならない。

 欧州委員会の提案では、その詳細説明においても、家禽肉の生産過程における「伝統的な」衛生対策の重要性が強調されている。欧州委員会の提案は、これらの伝統的衛生対策はハードルとして引き続き極めて重要で、除染対策で置き換えることはできないと説明している。置き換えられるのではなく、繁殖、肥育、輸送、および食鳥処理の全工程にわたる伝統的な衛生対策は何らかの追加的な除染工程と組み合わされるべきである。


家禽のとたいに化学的除染物質を使うことで消費者の健康に危険はないのか

 EFSAは2014年に家禽のとたいに対する除染の問題について議論をしている。EFSAは除染物質としての過酢酸の安全性と効果について評価を行い、それによる処理が病原体を減らすための追加的対策として適切であると結論づけた。過酢酸を家禽のとたいや家禽肉での細菌数の低減のために使用しても、毒性学的には消費者への健康リスクにはならないと思われる(下記URL参照)。
http://www.efsa.europa.eu/en/press/news/140326


化学的除染物質を使うことで、細菌が薬剤耐性を獲得することはあるのか

 一般的に、除染工程で使用される活性物質に対する細菌の薬剤耐性の獲得は、消毒工程における活性物質に対するのと同様に起こり得る。当該活性物質に対する耐性の獲得が検討されるべきで、さらに、病原菌が特定の抗生物質に耐性を持つ(交差耐性)可能性もある。

 細菌の過酢酸耐性の獲得を防ぐため、欧州委員会の提案は除染に必要とされる薬剤濃度や曝露時間を規定している。また、食品事業者が社内検査としてモニタリングを実施する際の制御パラメーターを定めている。

 EFSAは本件に関して2014年に科学的意見を発表している(下記URL参照)。
http://www.efsa.europa.eu/en/press/news/140326


BfRは家禽肉への化学的除染物質の使用をどのように評価しているか

 BfRは、食品安全を改善し「低レベルの細菌汚染」食品を実現するためには、化学物質の利用だけでは不十分だと考えている。化学的除染は、病原体汚染を可能な限り低レベルに抑えることを目的として家禽群や食鳥処理場を良好な衛生状態に保つことなど、一連の必須の衛生対策において追加的な1要素に過ぎない。

 除染物質を使うにあたって最も重要な必要条件は、健康リスクにならないことが保証されていることである。BfRはこれに関する研究を実施しており、健康リスクの可能性を検討している。


(食品安全情報(微生物)No.4 / 2017 (2017.02.15) EFSA、No.8 / 2016 (2016.04.13) BfR記事参照)



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部