デンマーク国立血清学研究所(SSI)からのカンピロバクター関連情報
http://www.ssi.dk


2014〜2015年のデンマークにおける細菌性胃腸感染症:2015年のサルモネラ症患者数は過去30年間で最低となったが、カンピロバクター症患者数は依然として高レベル
Lowest number of Salmonella cases in 30 years, but Campylobacter remains high
23 March 2016
http://www.ssi.dk/English/News/News/2016/2016%20-%2003%20-%20EPI-NEWS%2011%20bacterial.aspx
Bacterial intestinal infections 2014-15
EPI-NEWS No.11 - 2016
16 March 2016
http://www.ssi.dk/English/News/EPI-NEWS/2016/No%2011%20-%202016.aspx

(食品安全情報2016年18号(2016/08/31)収載)


 デンマークで2015年に届け出があったサルモネラ症患者は計925人であった。サルモネラ症の届け出患者数が1,000人を下回ったのは過去30年間で初めてのことであった。過去数年間にわたりサルモネラ症患者数の減少傾向が続いている。サルモネラ症患者の半数以上は国外感染であった。

 対照的に、カンピロバクター症には引き続き多くのデンマーク人が罹患している。デンマークのカンピロバクター症患者数はサルモネラ症患者数の約4倍である。カンピロバクター症患者の約3分の1は国外で感染している。


(以下にEPI-NEWS No.11 - 2016の記事を紹介する。)

「2014〜2015年のデンマークにおける細菌性胃腸感染症」

全般的な傾向

 2015年は、カンピロバクター(Campylobacter)感染とエルシニア・エンテロコリティカ(Yersinia enterocolitica)感染について患者のモニタリングの方法に変更があった。今回初めて、デンマーク臨床微生物データベース(MiBa:Danish Microbiology Database)からデータが直接収集され、臨床微生物検査機関は補足的なデータのみを提出することになった。これによってデータがより迅速に収集されるようになり、また、実際に登録患者数が増加したことから、サーベイランスが強化されたと考えられる。2011〜2014年に腸管病原体登録システム(Enteropathogenic Register)に報告された患者数とMiBaを介して収集された患者数データとの比較分析から、カンピロバクター症患者の10〜25%(年により異なる)が報告されていないことが明らかになった。従って、MiBaを介した自動的なデータ収集への移行が2015年の登録患者数に増加をもたらすと予測された。サルモネラ症のサーベイランスの方法については、2014〜2015年に変更はなかった。

 図1は、1980〜2015年にデンマークで登録されたカンピロバクター属菌、エルシニア・エンテロコリティカ、および非チフス性血清型のサルモネラ(Salmonella enterica)の各患者数である。表1は各菌の2015年の年齢層ごとの罹患率で、2014年(データ非掲載)も同様のパターンが観察されている。詳細情報はデンマーク国立血清学研究所(SSI)の以下のWebサイトから入手できる。
http://www.ssi.dk/Smitteberedskab/Sygdomsovervaagning.aspx (デンマーク語のみ)


図1:サルモネラ、カンピロバクターおよびエルシニア・エンテロコリティカ感染の登録患者数(デンマーク、1980〜2015年)


表1:人獣共通腸管感染症の年齢層別人口10万人あたりの罹患率(デンマーク、2015年)

単相性S. Typhimuriumを含む


サルモネラ

 サルモネラ感染は血清型の特定によって主な特徴付けが行われる。大多数の血清型は人獣共通感染性で、食品を介して伝播する。多数の血清型が存在するが、デンマークではS. EnteritidisおよびS. Typhimuriumの2種類がサルモネラ感染事例全体の約3分の2を占めている。2014年に登録された非チフス性サルモネラ感染患者は1,124人(人口10万人あたり19.7人)で、2012年および2013年の登録数とほぼ同じであった(EPI-NEWS No.11-2014)。2015年はこの数が925人(人口10万人あたり16.2人)となり、2014年に比べ18%減少した。表1は2015年の年齢層別罹患率を示している。前年までと同様、5歳未満の患者がサルモネラ感染確定患者全体に占める割合が比較的高かった。これはまた、5歳未満の患者グループでは他のグループに比べサルモネラ感染の検査頻度が高いことを反映している。

 表2は、2015年にデンマークで患者から最も多く検出された上位10位までのサルモネラ血清型を示しており、さらにそれらの血清型の2014年の検出数も示している。両年とも、S. Enteritidis、S. Typhimuriumおよび単相性S. Typhimuriumの検出数の合計が全検出数の過半数を占めた(2014年は全体の62%、2015年は54%)。これらの血清型に次いで高頻度に検出された血清型(表2の4〜10位の血清型)は、それぞれは検出数が少ないが、過去数年で比較的検出頻度が高い血清型の一つでもある。2014年は全部で94種類、2015年は99種類の血清型が報告された。従って両年とも、表2の「その他の血清型」グループには検出頻度が極めて低いさまざまな血清型が含まれている。これらの血清型の多くには国外旅行中に感染する。2014年、2015年とも、抗原型1,4,[5],12:i:-を示す株を含むS. Typhimurium単相性変異株が従来のS. Typhimurium株より高頻度に検出された。


表2:血清型別のサルモネラ患者(症例)数(デンマーク、2014〜2015年)


 サルモネラ分離株はSSIに提出され、血清学的検査、DNA検査、および最近は全ゲノムシークエンシング(WGS)解析によってタイピングが常時行われている。これは主にアウトブレイクの探知を促進するために行われる。2014年は、同じタイプの菌に感染した患者のクラスターが頻繁に探知され検査が行われた。これらのうち12クラスターがアウトブレイクと考えられ疫学調査が実施された。2015年は患者クラスターがごくわずかしか探知されず、そのうちアウトブレイクとして登録されたのは3件であった。3件のうち1件はその後、国際的なアウトブレイクの一部であることが明らかになった。デンマーク国内でこの国際的アウトブレイクに含まれる患者は14人で、S. Oranienburgを病因物質とするものであった。このアウトブレイクについては欧州疾病予防管理センター(ECDC)の協力のもとに現在も調査が続いている。

 患者数が15人以上の2014〜15年の6件のアウトブレイクのうち、5件はMLVA法(multi-locus variable number of tandem repeats analysis)により探知された(表3)。それらのうち4件はS. Typhimurium単相性変異株を病因物質とするアウトブレイクであった。以下に記載するこれらのアウトブレイクは、デンマーク工科大学食品研究所(DTU-FOOD)およびデンマーク獣医食品局(DVFA)の協力のもとに SSIにより調査が行われた。


表3:患者数が15人以上のサルモネラアウトブレイク(デンマーク、2014〜2015年)

デンマーク食品データベース(FUD)を参照


  • S. Agonaによるアウトブレイクは2013年8月〜2014年4月の9カ月間続いた。患者21人のうち半数以上は5歳未満の小児で、残りは20代男性および高齢者であった。疫学調査の結果にもとづき、感染源は、乳幼児用調製乳またはベビーフード、筋力トレーニング用プロテインパウダー、入院中の高齢者向けのタンパク質補給飲料などに原材料として使用されたホエイ粉末であるという仮説が立てられた。しかし、この仮説は追跡調査および微生物学的検査により検証できなかった。

  • 2014年春に、患者数が22人に上るアウトブレイクが発生した。患者の大多数はユトランド半島の居住者で、調査により、感染源は地元の精肉店およびスーパーマーケットチェーンの店舗で販売されたデンマーク産豚肉であることが示された。

  • 2014年夏には、患者数が25人に上るアウトブレイクが発生した。アウトブレイク株は特定のMLVAパターンおよび薬剤耐性プロファイルを共有していた。はじめにアウトブレイク株が食肉処理場および食肉加工施設で採取された検体からDTU-FOODにより検出され、その後、患者が報告された。感染源はデンマーク産豚肉であった。

  • 2014年夏にはさらに2件のアウトブレイクが発生した。両アウトブレイクともそれぞれ特定のMLVAパターンおよび抗生物質耐性プロファイルを示す株を病因物質とするものであった。1件目のアウトブレイクは患者数が19人で、デンマーク産の牛ひき肉が感染源であった。2件目は確定患者数が15人であった。このアウトブレイクはサマーキャンプで発生し、感染源は特定されなかった。

  • 2014年は秋にもアウトブレイク1件が発生し、患者18人が報告された。このアウトブレイクは特定のMLVAパターンを示すS. Enteritidisによるものであった。このアウトブレイクでは、デンマークの1カ所の産卵鶏飼育場で重度の疾患が確認された後に調査が開始された。この飼育場由来の鶏卵は直ちに市場から回収され、当該鶏群は殺処分された。しかし、当該飼育場由来の鶏卵の喫食により患者13人が既に発生していた。別の患者5人は当該飼育場由来の鶏卵を喫食しておらず、このうち3人は当該飼育場と近接した別の飼育場由来の卵を喫食していた。


 届け出に国外旅行関連の感染に関する情報が含まれていなかった患者については、これらの情報は患者への電話による聞き取り調査を通じて收集された。患者には発症日はいつか、および発症前7日以内に国外旅行をしたかについて質問が行われた。感染国に関する情報が得られたサルモネラ症患者の割合は、2014年は71%、2015年は82%であった。感染国が明らかになった患者での国外感染の割合は、2014年が46%、2015年が57%であった。これらの値は血清型ごとのばらつきを含んでいる。血清型別の国外感染の割合は、S. Enteritidisでは78%、S. Typhimuriumでは32%、単相性S. Typhimuriumでは20%、その他のすべての血清型では55%であった。国外感染者のうち最も多くが感染した国はトルコ(139人)で、次いでタイ(132)、スペイン(56)、スリランカ(43)、エジプト(42)、インドネシア(33)の順であった。


カンピロバクター

 2014年に報告されたカンピロバクター属菌感染患者は計3,797人(人口10万人あたり67人)で、2013年とほぼ同数であった。これとは対照的に、2015年は2014年に比べて12%増の計4,348人(10万人あたり77人)が報告された。年齢層別の罹患率(表1)は、20代のグループで若干高いことを除き、疾患による被害がすべての年齢層にほぼ均等に分布していることを示しており、カンピロバクター感染の特徴が現れている。

 カンピロバクター分離株の場合、通常はサブタイピングのためにSSIに提出されることはない。種が特定されたカンピロバクター株の内訳は、約93%がC. jejuni、約6%がC. coliであった。カンピロバクターによるアウトブレイクは比較的まれである。2014〜2015年に水由来カンピロバクターアウトブレイクの報告はなかった。2015年に2件の食品由来カンピロバクターアウトブレイクが報告された。1件目は5月にコペンハーゲン地域の複数の会社で、昼食に特定のケータリング業者を利用した従業員に発生した。全部で110人が発症したが感染源は特定されなかった。2件目はユトランド半島でのスカウトキャンプに関連して発生し、25人が発症した。調査の結果、感染源はキャンプファイアーで調理された加熱不十分なローストチキンである可能性が示された。

 2014年は、患者が感染した国に関する情報が、OdenseおよびAalborgの臨床微生物検査機関より届け出があった患者への継続的な電話聞き取り調査により積極的に収集された。2014年は、これら2つの管轄地域から届け出があった患者の73%(計562人のカンピロバクター感染患者)について国外旅行関連の情報が得られた。このうち173人(31%)が国外感染であった。この電話調査は、MiBaからのデータ収集への移行により2015年に中止された。2015年は、登録患者の43%(計1,858人)について国外旅行関連の情報が得られ、このうち659人(36%)が国外で感染したと報告されていた。2年分のすべての国外旅行関連情報を集約すると、最も多くの患者が感染した国はトルコ(183人)で、次いでスペイン(147)、タイ(115)、ギリシャ(56)およびフランス(51)の順であった。


エルシニア(Yersinia enterocolitica

 エルシニア(Yersinia enterocolitica)症の届け出患者数は過去5年間にわたり連続的に増加している(図1)。2014年は計415人の患者が報告され、2013年から20%の増加であった。2015年は計539人(人口10万人あたり9.5人)が報告され、2014年から30%の増加となった。罹患率は乳幼児で最も高いが、成人患者も発生している(表1)。エルシニア分離株は通常、生物型(biotype)の特定のためにSSIに提出される。表4は2014〜2015年の分離株における生物型および血清型の分布である。提出された分離株(確定患者の約75%について分離株がタイピングのために提出される)のうち、半数以上(61%)が生物型1Aであった。


表4:エルシニア(Yersinia enterocolitica)分離株の生物型および血清型分布(2014〜2015年)

*生物型1Bは生物型2に含まれる


 2014年の初めに、生物型4(血清型3)のエルシニアによるアウトブレイクが発生した。このアウトブレイクの患者は24人に上り、うち11人が5歳未満であった。患者への聞き取り調査から共通の感染源は特定されなかった。2015年8〜9月に、主にユトランド半島の中部で上記と同じ生物型のエルシニアに感染した患者が再び増加した。患者14人のうち3人がKoldingで開催されたハンドボール大会に関連していた。しかし、散発患者への聞き取り調査からは感染源として具体的な食品を特定することはできなかった。この生物型と血清型の組み合わせを持つエルシニア株は高頻度に観察されるもので、感染源が共通である患者を特定するために分離株を細かく分類することは不可能であった。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部