Eurosurveillanceのカンピロバクター関連情報
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1990年代にデンマークでみられたカンピロバクター感染確定患者の増加はサーベイランスにおける人為的結果か?
Was the Increase in Culture-confirmed Campylobacter Infections in Denmark during the 1990s a Surveillance Artefact?
Eurosurveillance, Volume 20, Issue 41
15 October 2015
http://www.eurosurveillance.org/images/dynamic/EE/V20N41/V20N41.pdf
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=21277

(食品安全情報2016年9号(2016/04/27)収載)


要旨

 1991、1999および2006年に、デンマーク国民登録(Danish Central Personal Register)より無作為抽出された個人から血清検体が採取された。30歳以上の人から得られた各年500検体について、直接的ELISA法により抗カンピロバクターIgG、IgAおよびIgM抗体が分析された。デンマーク人におけるカンピロバクターに対する各年の血清学的罹患率を数学的演算により推定するため、欧州疾病予防管理センター(ECDC)から入手可能な血清学的罹患率算出ツールを適用した。培養により確定した30歳以上のカンピロバクター感染報告患者数は1993〜1999年に2.5倍に増加したが、3つの調査年(1991、1999、2006年)のカンピロバクター血清学的罹患率の推定値に有意な差は見られなかった。これは、当該年齢層で1993〜2001年に観察された家禽肉関連のカンピロバクター感染臨床例の増加の前に、カンピロバクターがデンマーク国民に広く蔓延していたことを示唆している。


序論

 デンマークでは、1990年代にカンピロバクター感染症の年間報告数が増加し、30歳以上の年齢層では1993〜1999年に感染者数が2.5倍に増加した(図)。本研究では、過去に採取されたデンマークの成人の血清検体を用い、1991、1999および2006の各年のカンピロバクター感染症の血清学的罹患率を推定することを目的とした。


図: 30歳以上の人口10万人あたりのカンピロバクター感染確定患者数(デンマーク、1993〜2011年)


方法

○ 調査対象

 コペンハーゲン郡に居住するデンマーク人の成人(デンマークで生まれ、デンマークの市民権を持つ)に対し、総合的な健康調査に参加するよう要請が行われた。調査対象は、デンマーク国民登録に登録されている19歳以上の人から無作為抽出された。
 血液検体は以下の3つの時期のいずれかに採取された。i)1991年2月〜1992年5月、2,017検体、ii)1999年3月〜2001年1月、3,501検体、iii)2006年6月〜2008年6月、3,471検体。これら3時期に行われた横断的調査は、それぞれ、1991年調査、1999年調査、2006年調査と称された。
 本研究においては、各横断的調査より血清500検体が無作為抽出された。この500検体には、30-39、40-49、50-59、60-69歳の調査参加者由来の各125検体が含まれている。

○ 血清学的方法

 すべての血清検体(計1,500検体)は、デンマーク国立血清学研究所(SSI)の血清学研究室で、カンピロバクター(Campylobacter jejuni )のO:1,44およびO:53抗原の等量混合物にもとづく直接的ELISA法を用いて、抗カンピロバクターIgG、IgM、IgA抗体の検査が行われた。

○ 血清学的罹患率の推定

 数学的モデルをもとに、統計解析用ソフトウェア「R」を用いた血清学的罹患率算出ツールが開発され、このツールは2015年3月よりECDCから無条件で入手できる。


結果

 異なる2つの打ち止めレベル(censoring level)を用いて推定した1991、1999および2006の各年のカンピロバクター血清学的罹患率が表1および表2に示されている。血清学的罹患率の推定値は打ち止めレベルによって異なり、レベルが高いと推定罹患率は低くなった。1人が1年間に1回以上感染するリスクは、打ち止めレベルが低レベルでは約70%、高レベルでは約50%と推定された。打ち止めレベルが異なっていても血清学的罹患率の時間的変動は同様のパターンを示し、どちらの打ち止めレベルでも血清学的罹患率は1991、1999、および2006年調査の間で有意な差がみられなかった。


表1:低い打ち止めレベルを用いて推定したカンピロバクター血清学的罹患率、および推定罹患率間の対比較a(デンマーク、1991、1999および2006年調査)

aIgG、IgM、IgAすべてについてOD値の打ち止めレベルを0.25とした。


表2:高い打ち止めレベルを用いて推定したカンピロバクター血清学的罹患率、および推定罹患率間の対比較a(デンマーク、1991、1999および2006年調査)

aIgG、IgM、IgA OD値の打ち止めレベルをそれぞれ1.0、0.4、および0.2とした。


考察

 結論として、培養により確定したカンピロバクター感染患者数の増加に関連する住民レベルでの血清学的罹患率の同様の上昇は観察することができなかった。これにより、家禽肉関連のヒトカンピロバクター臨床患者数が増加する前にカンピロバクターはデンマーク国民に広く蔓延していたこと、および家禽肉以外の感染源が複数存在していたことが示唆される。これらの知見から、カンピロバクターの曝露源はこれまで考えられていた以上に多様である可能性がある。しかし、臨床症状の発症は各人が曝露するカンピロバクターの量に関連している可能性もある。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部