デンマーク国立血清学研究所(SSI)からのカンピロバクター関連情報
http://www.ssi.dk


DANMAP 2013:2013年のデンマークにおける抗菌剤の使用量と抗菌剤耐性
DANMAP 2013: Antimicrobial consumption and resistance
EPI-NEWS, No 42-43 - 2014
22 October 2014
http://www.danmap.org/~/media/Projekt%20sites/Danmap/DANMAP%20reports/DANMAP%202013/DANMAP%202013.ashx (DANMAP 2013、報告書全文)
http://www.danmap.org/~/media/Projekt%20sites/Danmap/DANMAP%20reports/DANMAP%202013/DANMAP%202013%20web%20annex.ashx (DANMAP 2013 Web Annex、追加の各種の表)
http://www.danmap.org/~/media/Projekt%20sites/Danmap/DANMAP%20reports/DANMAP%202013/DANMAP%202013%20DADD%20description.ashx (DADD、規定1日動物投与量)
http://www.danmap.org/Downloads/Reports.aspx (DANMAP報告書ダウンロードページ)
http://www.ssi.dk/English/News/EPI-NEWS/2014/No%2042-43%20-%202014.aspx

(食品安全情報2015年1号(2015/01/07)収載)


 デンマーク抗菌剤耐性モニタリングおよびリサーチプログラム(DANMAP: Danish Integrated Antimicrobial Resistance Monitoring and Research Program)の年次報告書は、デンマークの動物およびヒトへの抗菌剤の使用の現状と、動物・食品・ヒトから分離された細菌での抗菌剤耐性の動向について報告している。


[以下にDANMAP 2013から要旨の一部を紹介する。]

 DANMAPは、1995年からデンマークの食料生産動物およびヒトへの抗菌剤の使用と抗菌剤耐性についてモニタリングを行ってきた。本報告書には2013年の状況と変化が報告されている。


動物への抗菌剤の使用

 デンマークでは公的なVetStatプログラムにより、2001年以降、獣医師が処方したすべての薬剤のデータが農場および動物種別に記録されている。

 2013年の抗菌剤の総使用量は有効成分として116.3トンで、2012年より4%増加した。動物種別では、ブタが約78%、ウシが約10%、毛皮動物が4%、水棲養殖動物が3%、家禽が1%を占めた。残りの3%はペット動物、ウマなどに使用された。

 動物への総使用量が変化したのは、主にブタ生産での使用量が変化したことによる。ブタは同国の食肉生産の約84%を占めるが、バイオマスとしては約40%を占めるに過ぎない。


○ブタ

 デンマークのブタ生産への動物用抗菌剤の総使用量は約91トンであった。DAPD(Defined animal daily dose (DADD) per 1,000 animals per day、動物1,000頭・1日あたりに使用された薬剤の量を規定1日投与量を単位として数値化したもの)ベースで、2012年から2013年にかけて5%の増加であった。その前の2010および2011年は減少しており、これはブタ生産への抗菌剤の過剰使用を抑えるために規制が導入された結果と考えられる。抗菌剤の総使用量は2013年に増加したが、それでも2009年より約12%少なく、2008年と同程度であった。

 2013年に総使用量が増加した(DAPDベースで)のは、主にプリューロムチリンおよびテトラサイクリン、またこれらより寄与は小さいがペニシリン、スルホンアミド−トリメトプリムの使用量が増えたことが原因である。プリューロムチリンおよびテトラサイクリンは、主に胃腸疾患の治療薬として飼料または飲み水に混ぜて使用される。フルオロキノロン系および第三・第四世代セファロスポリン系などの一部の抗菌剤は、重症のヒト感染症の治療に極めて重要であると考えられている。2010年に同国のブタ生産業界によりセファロスポリン系薬剤の使用の自主規制が導入された結果、2013年の第三・第四世代セファロスポリン系薬剤のブタ生産への使用量は引き続き非常に少なかった(3kg)。フルオロキノロン系薬剤の使用量は、2003年に法的規制が施行されて以来低レベルが続いている。


○ウシ

 全体として、ウシへの抗菌剤の使用量は2005年以降14トン前後であったが、2013年には約12トンに減少した。規定1日投与量(DADD)を単位として計算すると、乾燥療法(drying-off treatment)での使用量は7%増加したが、臨床型乳房炎の治療への使用量は2012年より9%減少した。使用量の大部分をβラクタマーゼ感受性のペニシリンが占める。ヒトの臨床上極めて重要な抗菌剤については、フルオロキノロン系薬剤の使用量は2003年以降ほぼゼロである。全身投与のための第三・第四世代セファロスポリン系薬剤の使用量は2012年に比べ14%減少した。


○家禽

 2013年、家禽への抗菌剤の総使用量は有効成分として約1,270kgで、2012年より57%増加した。この増加の主な原因は、2013年初期に七面鳥群で呼吸器疾患が流行したことと、ブロイラー群で下痢症が多発したことであると考えられる。家禽生産へのフルオロキノロン系薬剤の使用量は2006年以降低レベルで、2013年には全く使用されなかった。また、セファロスポリン系薬剤の国内の家禽生産における使用は過去10年間以上報告されていない。


○養殖水棲動物

 2013年の養殖水棲動物への抗菌剤の総使用量は3,582kgで、2012年に比べ23%の増加であった。2013年の使用量が比較的大幅に増加した主な原因は、2013年7〜8月の気温の異常上昇によって水温が上昇し、養殖水棲動物の細菌感染例が増えたことである。しかし養殖水棲動物業界は、抗生物質による治療を必要とする疾患のリスクを減らすため、引き続きワクチン予防に注目している。


◆動物への抗菌剤の総使用量は2013年も増加が続いた。ブタへの使用量(有効成分、kg)は2013年に6%(DAPDベースでは5%)増加した。ヒトの治療に極めて重要な抗菌剤のブタ生産への使用は依然として少ない。同薬剤のペット動物への使用量はこれまで通り他の動物種に比べて多いが、2012年に比べると2013年は使用量が減少した。


人獣共通感染症細菌における抗菌剤耐性

 サルモネラやカンピロバクターなどの人獣共通感染症細菌はそれらの保菌動物の体内で抗菌剤耐性を獲得することがある。これらの耐性菌は、食品を介してヒトに感染し疾患を誘発した場合、抗菌剤の治療効果を減弱させる可能性がある。


Salmonella Typhimurium

 Salmonella Typhimuriumは、デンマークのブタ、豚肉およびヒトが感染または汚染する頻度が最も高いサルモネラ血清型の1つである。ブタ由来のS. Typhimurium分離株では、61%がアンピシリンに、66%がストレプトマイシンに、同じく66%がスルホンアミドに、70%がテトラサイクリンに耐性であった。これら4種類の抗菌剤への耐性率は過去5年間にいずれも上昇している。これは、多剤耐性の傾向が強い単相性S. Typhimuriumの割合の上昇が主な原因である。2013年、ブタ由来のS. Typhimurium分離株の52%が単相性株であった。S. Typhimuriumの4種類の抗菌剤に対する高い耐性率は、デンマーク産の豚肉由来の分離株でも認められた。同国のブタおよび同国産の豚肉に由来するS. Typhimurium分離株(単相性株を含む)の多剤耐性率(それぞれ64%、71%)は、同様の由来のサルモネラ属菌分離株の多剤耐性率(それぞれ37%、36%)より高かった。DANMAP検体の耐性率および全国コントロールプログラムで得られたサルモネラ陽性率より、同国のブタの9%とブタとたいの0.5%が多剤耐性サルモネラに陽性であると推定された。前年までと同様、同国のブタまたは同国産の豚肉に由来するサルモネラ分離株に、セファロスポリン系薬剤(セフチオフル、セフォタキシム)およびキノロン系薬剤(シプロフロキサシン、ナリジクス酸)への耐性は認められなかった。

 ブタおよび豚肉由来分離株の場合と同じく、ヒト由来のS. Typhimurium分離株に占める単相性株の割合は、国内感染の散発性患者およびアウトブレイク患者の双方で過去5年間に上昇している。2013年、国内感染の散発性患者の54%から多剤耐性株が分離されたが、これらの患者由来の分離株の個々の抗菌剤に対する耐性率は概して2012年と同程度であった。試験を行った16種類の抗菌剤のうちフルオロキノロン系薬剤(シプロフロキサシン)を含む4種類への耐性率は、国内感染のヒト患者由来の分離株より国外旅行関連の患者由来の分離株の方が高かった。フルオロキノロン系は、サルモネラおよびカンピロバクターによる成人における重症の細菌性胃腸疾患の経験的治療に使用される薬剤である。2013年には、国外旅行関連の患者由来の分離株の多剤耐性率は、国内感染の散発性患者由来の分離株と同程度にまで低下した。


◆ブタ、豚肉およびヒト患者由来のS. Typhimurium分離株で、多剤耐性を示すことの多い単相性株の占める割合が過去5年間に増加している。試験を行った16種類の抗菌剤のうちフルオロキノロン系薬剤を含む4種類に対し、国内感染患者より国外旅行関連患者由来の分離株の方が耐性率が高かった。抗菌剤耐性率は概して国外旅行関連患者由来の分離株において最も高かったが、多剤耐性率は2013年に国内感染の散発性患者由来の分離株と同程度にまで低下した。


Campylobacter jejuni

 2013年にデンマークのブロイラーおよびウシから分離されたカンピロバクター(Campylobacter jejuni)分離株の抗菌剤耐性率は2011年と同程度で、2012年よりわずかに上昇した。テトラサイクリン耐性率に変化が認められたが、統計学的に有意ではなかった。しかし、この変化はブロイラー生産へのテトラサイクリンの使用量の変化によく呼応していた。

 同国のブロイラーおよびブロイラー肉由来のC. jejuni分離株、およびブタ由来のC. coli分離株の抗菌剤耐性率は、欧州で最も低いとされている。

 過去数年間にわたり、C. jejuniのフルオロキノロン耐性率は、輸入ブロイラー肉由来の分離株(2013年は53%)の方がデンマーク産ブロイラー肉由来の分離株(2013年は20%)より高く推移している。

 前年までと同様、国外旅行関連患者由来のC. jejuni分離株のフルオロキノロン耐性率(92%)は、国内感染患者由来の分離株(24%)に比べ非常に高かった。


C. jejuniのフルオロキノロン(シプロフロキサシン)耐性率は、デンマーク産ブロイラー肉由来の分離株に比べ輸入ブロイラー肉由来の分離株の方が、また、国内感染患者由来の分離株に比べ国外旅行関連患者由来の分離株の方が依然として高かった。これらの差は2012年から2013年にかけてさらに顕著になっていた。


指標菌における抗菌剤耐性

 健康な食料生産動物および食肉における細菌の抗菌剤耐性の概要を知るために、DANMAPでは指標菌としての腸球菌(enterococci)および大腸菌が調査対象に含まれている。

 デンマークのブロイラー由来のフェカリス菌(Enterococcus faecalis)では、テトラサイクリンへの耐性率が最も高く(38%)、エリスロマイシンおよびサリノマイシンがそれに続いていた。

 フェカリス菌の抗菌剤耐性率はブロイラー由来分離株よりブタ由来分離株で高く、これらの動物種での抗菌剤使用パターンを反映していた。ブタ由来のフェカリス菌分離株で耐性率が最も高かったのはテトラサイクリンに対してであった(91%)。テトラサイクリンは、同国のブタ生産に10年以上にわたり最も広く使用されてきた抗菌剤で、主に大腸菌感染の治療に用いられてきた。ブタ由来のフェカリス菌分離株のエリスロマイシン耐性率は2012年に比べ低下し45%となった。耐性率は輸入豚肉由来分離株の方がデンマーク産豚肉由来分離株より概して高かった。

 ブロイラー肉由来フェカリス菌のいくつかの抗菌剤に対する耐性率は、前年までと同様、輸入ブロイラー肉由来分離株で最も高かった。また多剤耐性率も、輸入ブロイラー肉由来分離株(フェカリス菌では39%、エンテロコッカス・フェシウム菌(E. faecium)では34%)の方が、デンマーク産ブロイラー肉由来分離株(両菌とも5%)より高かった。輸入ブロイラー肉由来のフェカリス菌多剤耐性株では、その72%が同一の耐性プロフィール(エリスロマイシン・カナマイシン・ストレプトマイシン・テトラサイクリン耐性)を有していた。ヒト患者の治療に極めて重要な抗菌剤への耐性率は概して低かったが、ブタ由来のフェカリス菌分離株の1株がフルオロキノロン系薬剤(シプロフロキサシン)に耐性であった。


◆「One Health」の観点から考察すると、ブロイラー生産への抗菌剤の使用量とブロイラー由来フェカリス菌分離株の抗菌剤耐性レベルとの間には直接的な関連があると考えられる。デンマーク産の豚肉由来の分離株とブタ由来分離株との間にはそのような直接的な関連が認められない。豚肉由来フェカリス菌分離株はブタ由来分離株に比べ抗菌剤に対してより感受性であった。また、デンマーク産の豚肉由来のフェカリス菌分離株の耐性率は低下してきているが、同国のブタ由来の分離株には低下傾向がみられない。


○指標大腸菌における抗菌剤耐性

 ブロイラー由来の指標大腸菌ではスルホンアミドおよびアンピシリンへの耐性率が他の抗菌剤に比べ高かったが(共に26%)、これは両薬剤の使用パターンにより説明可能である。ブロイラー由来の大腸菌分離株では、6%にフルオロキノロン系薬剤耐性が、2株にセフチオフル(第三世代セファロスポリン)耐性が認められた。デンマーク産ブロイラー肉由来分離株の耐性率はブロイラー由来分離株の結果と類似していた。ウシおよび牛肉に由来する分離株の耐性率は概して低かった。食料生産動物の中で耐性率が最も高かったのはブタで、その耐性率は2012年と同程度であった。

 食肉由来分離株では、輸入ブロイラー肉由来の分離株が、ヒトの治療に極めて重要な抗菌剤を含む種々の抗菌剤に最も高い耐性率を示した。輸入ブロイラー肉由来の分離株は、デンマーク産ブロイラー肉由来の分離株と比較して、試験を行った抗菌剤16種類のうち14種類に対する耐性率が高かった。デンマーク産豚肉由来の大腸菌分離株のキノロン系薬剤(シプロフロキサシンおよびナリジクス酸)への耐性率は、輸入豚肉由来の分離株に比べ大幅に低かった。


○基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌

 基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌は、世界中で最も急速に顕在化しつつある抗菌剤耐性関連の問題の一つである。近年の複数の研究により、動物由来と感染患者由来の大腸菌分離株に同じESBL遺伝子、プラスミドおよびクローン株が見つかり、人獣共通感染が示唆された。カルバペネムはヒトでの多剤耐性グラム陰性細菌感染の最終治療薬であるため、カルバペネム耐性腸内細菌の出現はヒトの医療にとって今後ますます脅威となると考えられる。

 2013年にはブタの6%がとさつ時にESBL産生大腸菌陽性であり、この陽性率は2012、2010および2009年より低かった。食肉検体では、ESBL産生大腸菌の陽性率が最も高かったのは輸入ブロイラー肉で(52%)、2010〜2012年と同レベルであった。デンマーク産ブロイラー肉のESBL産生大腸菌陽性率(25%)は2012年(36%)よりかなり低かった。輸入ブロイラー肉のESBL産生大腸菌陽性率は、デンマーク産ブロイラー肉より大幅に高かった。これは、国外の親鶏供給会社が第三世代セファロスポリン系薬剤の使用を自主的に中止したため、輸入親鶏からデンマーク産のブロイラーへのESBL産生大腸菌の伝播が減少した結果であると考えられる。2012年と同様、カルバペネマーゼ産生大腸菌は検出されなかった。


◆デンマークのブタ生産でセファロスポリン系薬剤の使用が自主的に中止されたことにより、ブタのとさつ時のESBL産生大腸菌陽性率は低い値が続いている。また、デンマーク産ブロイラー肉のESBL産生大腸菌陽性率が大幅に低下したが、これは国外の親鶏供給会社がセファロスポリン系薬剤の使用を自主的に中止した結果であると考えられる。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部