米国食品医薬品局(US FDA)からのカンピロバクター関連情報
http://www.fda.gov/


FDAが2012年〜2013年の全米抗菌剤耐性モニタリングシステム(NARMS)統合年次報告書を発表
FDA Releases 2012 and 2013 NARMS Integrated Annual Report; Finds Some Improvement in Antibiotic Resistance Trends in Recent Years
August 11, 2015
http://www.fda.gov/AnimalVeterinary/SafetyHealth/AntimicrobialResistance/NationalAntimicrobialResistanceMonitoringSystem/ucm059103.htm (結果の概要とデータ)
http://www.fda.gov/downloads/AnimalVeterinary/SafetyHealth/AntimicrobialResistance/NationalAntimicrobialResistanceMonitoringSystem/UCM453398.pdf (報告書全文PDF)
https://wayback.archive-it.org/7993/20171102181807/https://www.fda.gov/AnimalVeterinary/NewsEvents/CVMUpdates/ucm457825.htm

(食品安全情報2015年20号(2015/09/30)収載)


 米国食品医薬品局(US FDA)が、2012〜2013年の全米抗菌剤耐性モニタリングシステム(NARMS)統合年次報告書を発表した。本報告書は、FDAのNARMS年次要約報告書(annual NARMS Executive Summary report)に代わるもので、ヒト、小売り食肉およびとさつ時の動物から分離された細菌の抗菌剤耐性パターンを明らかにしている。本報告書は特に、ヒトの治療に重要と考えられる抗生物質に耐性を示す主要な食品由来病原菌、および多剤耐性病原菌(3種類以上のクラスの抗生物質に耐性)に重点を置いている。

 NARMSは、具体的には以下の細菌をモニターしている。

  • 非チフス性サルモネラ
  • カンピロバクター
  • 大腸菌(Escherichia coli
  • 腸球菌(Enterococcus
 サルモネラおよびカンピロバクターは食品由来疾患の原因細菌として最も多く見られるものである。大腸菌および腸球菌は食品由来疾患を引き起こす場合もあるが、NARMSは主に耐性の発生およびその伝播の追跡のために、これらの細菌をモニタリングの対象にしている。


検査方法の変更

  • 本報告書には、NARMSによる検査におけるいくつかの改善点が反映されている。動物個体の検査として、とちく場に運搬された食料生産動物の、とさつ工程開始前の盲腸(腸内)検査が行われることになり、これにより農場での動物の微生物学的状況がより正確に示されるようになった。また、新規のとちく場内サンプリングにより、出荷用のブタの検体について雄ブタ(hogs)と雌ブタ(sows)の検体を、ウシの検体について乳牛(dairy)と肉牛(beef)の検体を区別することが可能になった。

  • またNARMSは、カンピロバクターサーベイランスの方法の世界的な統一の動きに合わせ、抗菌剤感受性データの解釈に疫学的カットオフ値を使用することとした。

  • NARMSはさらに、臨床・検査標準協会(Clinical and Laboratory Standards Institute)による国際的な検査最良実施規範の変更を踏まえ、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生のスクリーニングに用いられる抗菌剤であるセフェピム(cefepime)について、その感受性の測定方法を更新した。

報告書のフォーマットの変更

 今回の報告書はこれまでと異なって複数年(2012〜2013年)を対象としており、複雑な情報をより効果的に伝達するために新しいフォーマットを使用している。これまでの報告書でデータのまとめに使用された表およびグラフは、今回の報告書でも使用されている。しかし、これらは、抗菌剤耐性の最新の動向を容易に視覚化できるようにデザインされた双方向性の新しいグラフに置き換えられている。具体的には、本報告書には10枚の双方向性グラフが含まれており、ヒト、小売り食肉および食料生産動物由来のサルモネラおよびカンピロバクターについて、検査実施初年〜2013年までの年ごとの抗菌剤耐性率が視覚化できるようになっている。視覚的な情報は、最も重要な結果を強調し最新データの最重要点を示す記述的・口述的な要約により補足されている。


結果の概要

 今回の報告書は、米国内の抗菌剤耐性の状況にあまり変化はないが、好ましくない傾向に比べ好ましい傾向の方がやや多く見られることを示している。ヒト由来の細菌の全体的な耐性率は、多くの場合、依然として低く、ヒト以外に由来するその他の重要な細菌でも耐性レベルの有意な改善がみられている。以下は、耐性率に関する最も重要な傾向の概要である。

  1. ヒト由来のサルモネラ分離株の約80%が検査を行った抗生物質のすべてに感受性であった。この状況は過去10年間ほとんど変わっていない。また、ヒト由来の非チフス性サルモネラ分離株では、医療に極めて重要な3種類の抗菌剤(セフトリアキソン、アジスロマイシン、シプロフロキサシン)への耐性率が引き続き3%未満にとどまっていた。

  2. ヒト由来サルモネラ分離株、および米国農務省(USDA)の病原体低減/危害分析重要管理点方式(PR/HACCP)プログラムが収集したウシおよび鶏由来サルモネラ分離株では、多剤耐性率が過去10年間にわたりほぼ一定であった(それぞれ〜10%、〜20%)。小売り鶏肉由来のサルモネラ株の多剤耐性率は2008〜2012年の平均より低下していた。

  3. サルモネラ分離株のシプロフロキサシン耐性率は、由来に関係なく全体的に低かった。同様に、小売り食肉、PR/HACCPの鶏、および盲腸検体由来の指標大腸菌株のシプロフロキサシン耐性率も非常に低かった(0〜1.7%)。

  4. セフトリアキソン耐性率は、ヒト(3.4%から2.5%に)および小売り鶏肉(38%から20%に)由来のサルモネラ分離株で2009年以降低下しており、小売り鶏肉由来の指標大腸菌株でも並行して低下している(12.4%から4.4%に)。2013年、ヒト由来Salmonella Heidelberg分離株のセフトリアキソン耐性率は、最も高かった2010年の24%から低下し15%であった。小売り鶏肉由来のS. Heidelberg分離株のセフトリアキソン耐性率は、最も高かった2009年の32%から低下し、2011年以降0%を維持している。

  5. ヒト由来S. Typhimurium分離株では、重要な抗菌剤耐性パターンであるACSSuT(アンピシリン/クロラムフェニコール/ストレプトマイシン/スルホンアミド/テトラサイクリン)耐性を示す株の割合が低下し続けている。

  6. ヒトのカンピロバクター症は、約90%がCampylobacter jejuni、約10%がC. coliが原因で発症する。小売り鶏肉由来のC. jejuni株のシプロフロキサシン耐性率はこれまでで最も低かったが(11%)、食鳥処理時の鶏とたいに由来するC. jejuni株では耐性率の低下がみられなかった(2013年は22%)。小売り鶏肉検体のカンピロバクター汚染率は過去9年にわたり徐々に低下している。

  7. ヒトおよび鶏由来のC. jejuni分離株のエリスロマイシン耐性率は依然として低く(<3%)、ヒトおよび食品由来のC. coli分離株のゲンタマイシン耐性率は、一過的な高レベルが最近数年間続いた後、急激に低下した。

  8. 指標腸球菌の3種類の重要な抗菌剤(ダプトマイシン、リネゾリド、バンコマイシン)への耐性は、過去10年間で5株しか検出されていない。

 以上のように今回の報告書の多くの結果は好ましい傾向を示しているが、以下のような懸念される結果もいくつか見られる。

  1. ヒト由来非チフス性サルモネラ分離株のシプロフロキサシン耐性率は1996年以降上昇している。

  2. ヒト由来C. jejuni分離株ではシプロフロキサシン耐性率は変化がなく22%であったが、ヒト由来C. coli分離株では2005年の25%から2013年は35%に上昇した。上述したように、小売り鶏肉由来のC. jejuni分離株はシプロフロキサシン耐性率の低下を示したが、これに対し、食鳥処理時の鶏とたい由来(PR/HACCP)のC. jejuni分離株は低下を示さなかった。

  3. ヒト由来C. coli分離株ではマクロライド系抗生物質耐性率が2012年の9%から2013年は18%と倍になり、同様に、PR/HACCPの鶏由来のC. coli分離株では2011年は3.4%と低レベルであったが2013年は11%に上昇した。

  4. ヒト由来Salmonella l 4,[5],12:i:-分離株の多剤耐性率は2011年の18%から2013年は46%と2倍以上になった。ウシおよびヒト由来のS. Dublin分離株も多剤耐性率およびセフトリアキソン耐性率の上昇を示した。ヒトでのS. Dublin感染症の発生率は比較的低いが、この血清型は重度の症状を示す侵襲性疾患を引き起こすことがあり、また、小売りの牛ひき肉およびPR/HACCPのウシ検体から分離される上位4位までの血清型のうちの1つである。七面鳥肉製品由来のサルモネラ分離株の多剤耐性率も過去10年間にわたり上昇している。

  5. ほとんどすべてのクラスの抗菌剤に耐性を示すサルモネラ株および指標大腸菌株もまれではあるが存在するので、注意が必要である。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部