Eurosurveillanceのカンピロバクター関連情報
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欧州の食品・水由来疾患に関する事例ベースのサーベイランス:2008〜2013年に発信された緊急問い合わせ(アウトブレイク警報)
Event-based Surveillance of Food- and Waterborne Diseases in Europe:’Urgent Inquiries’ (Outbreak Alerts) During 2008 to 2013
Eurosurveillance, Volume 20, Issue 25
25 June 2015
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=21166

(食品安全情報2015年24号(2015/11/25)収載)


要旨

 2008年から2013年の間に、食品および水由来疾患関連のアウトブレイク警報(緊急問い合わせ(Urgent Inquiries:UI))計215報が欧州で発信された。その大多数(135報、63%)がサルモネラ症関連であった。215報のうち110報(51%)について可能性のある原因食品が特定され、最も多い原因食品のカテゴリーは野菜類(34報、31%)であった。報告されたアウトブレイクのうち28%(60件)が2カ国以上(範囲:2〜14カ国、平均:4カ国、標準偏差:2カ国)にわたる国際的なものであった。ネットワーク参加国はUIに関連して計2,343件のメッセージ(初発のUIと返信を含み、更新を含まない)を発信した。UI1報あたりのメッセージ件数の中央値は11件(範囲:1〜28件)であった。複数国に関連する60報のUIのうち、50報は2〜4カ国に関連していた。UIは、多国間アウトブレイクの早期の探知を可能にし、また疑いのある原因食品の特定を促進することで、アウトブレイク管理対策の時宜を得た実施に貢献している。2010年の欧州疫学情報共有システム(EPIS)プラットフォームの導入によって、参加国の公衆衛生当局間での時宜を得た情報交換における「食品および水由来疾患と人獣共通感染症(FWD)ネットワーク」の役割が増している。


背景および目的

 欧州連合(EU)域内では、複数国にわたるアウトブレイクの検出および対応のため、検査機関ベースの食品由来病原体サーベイランスデータが以前から収集されている。1994年、サルモネラサーベイランスのための欧州で初めてのネットワークとしてSalm-Netが創設された。これは1997年にEnter-netに引き継がれてサルモネラに加え志賀毒素産生性大腸菌(STEC)O157が対象となり、その後2004年にはカンピロバクターが追加された。Enter-net はEU域外の国々にも注目し、EUの現在の加盟国(クロアチアを除く)に加え、オーストラリア、カナダ、アイスランド、日本、ニュージーランド、ノルウェー、南アフリカ共和国およびスイスの専門家もネットワークに参加するようになった。2007年、Enter-netの活動は欧州疾病予防管理センター(ECDC)に移管され、食品および水由来疾患と人獣共通感染症(FWD)ネットワークと名称が変更された。同時に対象疾患が拡大され、優先度の高い疾患であるサルモネラ症、カンピロバクター症、STEC感染症、リステリア症、細菌性赤痢およびエルシニア症の6種類をカバーすることになった。また、参加国にリヒテンシュタイン、トルコおよび米国が加わり、その結果、2008〜2013年の参加国は5大陸の38カ国に及んだ。

 Enter-netから引き継いだ重要な活動の一つとして、ネットワーク参加国の間でアウトブレイク警報を共有するための緊急問い合わせ(Urgent Inquiry:UI)と呼ばれる活動がある。UIは、国際的に拡散する可能性のある食品・水由来疾患の患者数に異常な増加が認められた際に、参加国またはECDCによって発信される。UIの主な目的は、複数国にわたるアウトブレイクの探知を可能にし、その後の調査を推進することである。当初、UIはファックスおよび電子メールを使用していたが、2010年3月にECDCはアクセス制限のあるWebベースのコミュニケーションプラットフォームとして「食品および水由来疾患と人獣共通感染症のための欧州疫学情報共有システム(EPIS-FWD)」を立ち上げた。これにより、公衆衛生当局により指名された担当者が、規定のフォーマットで情報を送受信できるようになった。

 本研究の目的は、2008〜2013年に発信されたUIの詳細を記述し、多国間アウトブレイクを探知するための事例ベースサーベイランスシステムとしてのUIの実績を評価し、他の報告システムとの関連に注目しつつグローバルなEU/EEA(欧州経済領域)サーベイランスシステムとしての立場からUIを分析することである。


方法

 2008年1月〜2013年12月にファックス、電子メールおよびEPIS-FWDを介して送受信されたUIの詳細を入手し、各UIのスプレッドシートに記入された項目(疾患名、病原体、UIの発信日と発信国、患者数および原因食品)を調べた。また、疫学情報(人、場所、時間)および微生物学的情報(検査結果)により、当該アウトブレイクが複数国にわたるものであったか否かを判断した。


結果

 ○UIの概要

 2008年1月〜2013年12月に参加国が発信したUIは計215報であった(図2)。発信数は年によって変動し、2008年は32報、2009年は27報、2010年は33報、2011年は49報、2012年は32報、2013年は42報であった。


図2:北半球の参加国により発信された月ごとのUI発信数および5カ月間移動平均値(2008〜2013年、n=214)


 移動平均値から、北半球では春から夏にピークを示すある程度の季節性が存在することが明らかである。

 参加38カ国のうち、EU/EEA加盟の20カ国、EU/EEA非加盟の4カ国、およびECDCが初発のUIを発信した。南半球から発信されたUIは1カ国の1報のみであった。発信されたUIの多くは北欧および西欧諸国からのもので、それぞれ117報(54%)および54報(25%)を占めた(図3)。これらのうち、複数国に関連したUIは北欧および西欧諸国でそれぞれ31報および13報であった。


図3:発信国の地域および関連した国の数(1カ国または複数国)ごとの初発UI発信数(2008〜2013年、n=215)


 初発UIの発信数が多かったのは英国(n=27)、フランス(n=21)およびデンマーク(n=20)であった。EU/EEA非加盟の参加国では、米国が多かった(n=18)。UIのうち1報はECDCがイスラエルに代わって発信したものであった。

 参加国が発信した総メッセージ数は2,343件で(初発と返信を含み、更新を含まない)、UI1報当たりのメッセージ数の中央値は11件であった(範囲:1〜28件)。2010年のEPIS-FWDの立ち上げ以降メッセージ数が増加し、2008年および2009年はそれぞれ272件と235件であったが、その後2010年は315件、2011年は582件、2012年は450件、2013年は485件に増加した。


 ○病原体および原因食品

 計15種類の疾患および食中毒症候群についてUIが発信された(表2)。サルモネラ症およびSTEC感染症に関するUIがそれぞれ全体の63%(n=135)と15%(n=32)を占めた。サルモネラ血清型としては計50種類が報告され、このうち最も多かった2種類はSalmonella Typhimurium(n=34(単相性変異株1,4,[5],12:i:-を含む))およびS. Enteritidis(n=22)であった。STEC血清群は7種類が報告され、O157が最も多かった(n=20/32)。その他はO26、O27、O104、O121、O145およびO177であった。


表2:疾患または食中毒症候群別のUI発信数(2008〜2013年、n=215)


 110報(51%)のUIについて、記述疫学的/分析疫学的調査によって原因食品が推定または確定された。この割合は2008〜2013年の間、比較的安定していた(範囲36〜67%)。93報のUIについては、原因食品または感染源が不明であった。7報は動物との直接接触による感染、4報は水由来感染、1報は検査機関での感染に関するものであった。

 水由来疾患アウトブレイクに関連した4報のUIのうち3報はEU以外の国で発生したコレラに関するもので、残りの1報は飲用水の汚染を原因とするEU内でのクリプトスポリジウム症アウトブレイクに関するものであった。

 報告された原因食品としては野菜(n=34)が最も多く、次いで豚肉(n=14)、牛肉(n=12)、卵(n=7)、シリアル製品(n=7)および果物(n=7)であった(図6)。野菜に関連したUIの発信数は2011年に大幅に増加したが、2012年および2013年には減少した。豚肉に関連したUIの発信数は2008〜11年(豚肉に関連したUIが発信されなかった2009年を除く)に比べ2012〜13年の方が少なかった。


図6:原因食品のカテゴリー別のUI発信数(2008〜2013年、n=110)


 ○患者発生国数および原因食品

 UIの多く(155報、72%)は1カ国のみで患者が発生した事例に関連していた。すなわちこれらの場合、ECDCの調査で他国では関連する患者が特定されなかった。複数国に関連したUIの場合、患者発生国の数は平均4カ国であった(標準偏差:2カ国、範囲:2〜14カ国)。複数国に関連した60報のUIのうち、50報では患者発生国が2〜4カ国であった。残りの10報ではそれぞれのUIに5カ国以上が関連していた。例としては、2012年にEU域内で発生したサルモネラ(S. Stanley)感染アウトブレイクと、2013年にエジプト旅行に関連して発生したA型肝炎アウトブレイクが挙げられる。複数国に関連した60件のアウトブレイクは、主に、汚染製品の複数国への出荷(35件)と共通の感染国/場所への旅行(19件)を原因とするものであった。その他、感染動物の輸出入を原因とするアウトブレイクが2件報告された。また4件のアウトブレイクでは情報不足により原因食品が特定できなかった。

 北欧諸国が発信した117報のUIのうち31報(26%)が複数国にわたるアウトブレイクであった(図3)。西欧諸国(13/54)およびEU/EEA以外の諸国(5/21)でも、複数国にわたるアウトブレイクが同程度の割合でみられた。


 ○UIを発信する契機となった患者数

 76報(35%)のUIでは、発信する契機となった患者数は10人未満で、19報(9%)ではこれが100人を超えていた(中央値:15人、範囲:0〜8,138人)。汚染食品は特定されたが患者の発生はまだ報告されていない段階で発信されたUIが6報あった。発信時に患者数が最も多かった(8,138人)UIは2010年にハイチで発生した大規模なコレラアウトブレイクに関するもので、これは例外と考えられる。

 契機となった患者数が10人未満の76報のUIのうち、42報を北欧諸国が、16報を西欧諸国が発信した。

 契機となった患者数の中央値は年ごとに次のように減少している。すなわち、2008年は29人(範囲:3〜1,375人)、2009年は18人(0〜600人)、2010年は20人(2〜8,138人)、2011年は9人(0〜250人)、2012年は12人(1〜267人)、2013年は11人(0〜391人)であった。契機となった患者数が10人未満であった76報のUIのうちの19報、および100人を超えた19報のうちの6報が複数国にわたるアウトブレイクであった。UI発信の契機となった患者数の平均値は疾患によって異なり、たとえばリステリア症、サルモネラ症およびSTEC感染症ではそれぞれ14人(標準偏差:16人)、59人(標準偏差:170人)、21人(標準偏差:46人)であった。


結論(抜粋)

 UIとして発信される事例のうちのどの事例が複数国に関連したアウトブレイクに発展するかを特定する基準の設定は不可能であるので、UI発信に関するガイドラインは厳しいものにすべきではなく、各国は、食品・水由来疾患と人獣共通感染症に関連して少しでも異常な事態を探知した場合は速やかにUIを発信することが推奨される。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部