欧州疾病予防管理センター(ECDC)からのカンピロバクター関連情報
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欧州における食品・水由来疾患および人獣共通感染症の状況
Trends in Europe for food- and waterborne diseases and zoonoses
20 Nov 2014
http://ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/food-waterborne-diseases-annual-epidemiological-report-2014.pdf (報告書PDF)
http://ecdc.europa.eu/en/publications/_layouts/forms/Publication_DispForm.aspx?List=4f55ad51-4aed-4d32-b960-af70113dbb90&ID=1210 (報告書本文および各データファイルダウンロードページ)
http://ecdc.europa.eu/en/press/news/_layouts/forms/News_DispForm.aspx?List=8db7286c-fe2d-476c-9133-18ff4cb1b568&ID=1119

(食品安全情報2015年4号(2015/02/18)収載)


 欧州疾病予防管理センター(ECDC)は、欧州の食品・水由来疾患および人獣共通感染症の疫学的状況をまとめた感染症年次報告書(2014年)(Annual epidemiological report 2014: Food- and waterborne diseases and zoonoses)を発行した。本報告書は2012年のデータを中心に分析し、疾患ごとの疫学状況を概説している。報告書本文の抜粋を以下に疾患別に紹介する。


炭疽

 炭疽は、2012年に欧州連合・欧州経済領域(EU/EEA)加盟29カ国からデータが提出された。全部で20人の散発患者が報告され、国別の患者数は、英国が6人、ドイツおよびギリシャが各4人、ブルガリアおよびデンマークが各2人、フランスおよびスペインが各1人であった。これらの患者のうち14人が確定患者であった。

 確定患者のうち13人がヘロインの使用に関連し、そのうち2人はデンマーク、1人はフランス、4人はドイツ、6人は英国からの報告であった。これら13人のうち5人が死亡したため、ヘロインの使用に関連した炭疽患者での2012年の致死率は38%となった。


ボツリヌス症

 ボツリヌス症はEU域内ではまれな疾患である。2012年は確定患者72人が報告され、EU/EEA域内の人口10万人あたりの発生率は0.01であった。2012年の発生率は2008〜2011年に比べ低下した。最も被害が大きかった人口集団は0〜4歳の女児で、このグループの2012年の発生率は人口10万人あたり0.09であった。


ブルセラ症

 ブルセラ症は、2012年に確定患者計376人が報告され、EU/EEA全体の発生率は2008〜2011年よりわずかに低下して人口10万人あたり0.08となった。報告患者の3分の2が男性で、ギリシャ(123人)、スペイン(62)、イタリア(53)およびポルトガル(37)の4カ国の患者が全確定患者の73%を占めた。


カンピロバクター症

 カンピロバクター症は2008〜2011年に患者数が増加したが、2012年はわずかに減少し(報告された確定患者数は217,261人)、EU/EEA域内の発生率は人口10万人あたり68であった。カンピロバクター症は5歳未満の小児で多く、2012年の発生率はすべての年齢層で女性より男性の方が高かった。カンピロバクター症は通常6〜8月に発生率が最も高くなるという季節性がある。


コレラ

 コレラは、2012年(18人)は2011年(35人)に比べEU/EEA域内の報告患者数が大幅に減少した。2006〜2012年に欧州で発生したコレラ患者はすべて国外感染で、特定の年齢層への偏りは認められなかった。患者の大多数は10〜11月に報告された。欧州のコレラ患者の約70%が英国からの報告であった。


クリプトスポリジウム症

 クリプトスポリジウム症は、2012年にEU加盟数カ国で報告患者数が増加した。罹患リスクが最も高かったグループは5歳未満の小児で、このグループの男児および女児10万人あたりの発生率はそれぞれ13.8および10.5であった。2012年下半期に患者数の異常な増加が数カ国から報告されたが、共通した疫学的関連は特定できなかった。発展途上国でクリプトスポリジウム症が重要な問題となっていることから、EU/EEA加盟国でも検査および確認の強化が必要である。


エキノコックス症

 エキノコックス症の2012年のEU/EEA域内の発生率は人口10万人あたり0.19であった。発生率が最も高かったのはブルガリアの4.37で、同国の報告患者(確定患者320人)がEU/EEA全体の39%を占めた。エキノコックス症のEU/EEA全体の発生率は2011年までとほぼ同じレベルであったが、多包性エキノコックス症の報告患者数が増加しており、宿主動物における原因寄生虫(Echinococcus multilocularis)の分布の拡大を反映していると考えられる。


ジアルジア症

 ジアルジア症のEU/EEA加盟国での確定患者の発生率は2008〜2012年にわたり比較的一定である。2012年の人口10万人あたりの発生率は5.43であった。ヒトのジアルジア症は5歳未満の小児で最も多く診断され、2012年の場合、0〜4歳の男児では確定患者の発生率が10万人あたり11.6で、他のどの人口集団よりも高かった。


A型肝炎

 2012年のA型肝炎確定患者のEU/EEA全体の発生率は人口10万人あたり2.60であった。A型肝炎確定患者の発生率はEU/EEA加盟国によって大きく異なり、EU域内の東部で被害が大きかった。2012年は5〜14歳の年齢層で確定患者の発生率が最も高く、人口10万人あたり5.45であった。EU/EEA域内では2013年に3件の大規模な食品由来A型肝炎アウトブレイクが報告された。これらすべてのアウトブレイクに、冷凍および生鮮のベリー類が原因食品として関連していた。


レプトスピラ症

 レプトスピラ症は欧州では依然としてまれな疾患で、ほとんどのEU/EEA加盟国で確定患者数に変動はない。レプトスピラへの感染は成人に多く、女性より男性に多い。感染は散発的に発生し、夏季と秋季に発生率が高くなる明確な季節性がみられる。感染は職業上またはレクリエーション時の曝露でも発生する。アウトブレイクの発生は報告されていない。


リステリア症

 リステリア症は欧州では依然としてまれな疾患で、2012年のEU/EEA域内の確定患者数(1,676人)、人口10万人あたりの発生率(0.39)は2011年までと比べ変化なかった。リステリア症はほとんどが国内感染で、罹患者の致死率が比較的高い。患者の多くは65歳以上の男女である。


サルモネラ症

 サルモネラ症は、EU/EEA域内で2番目に多く報告される胃腸感染症で、食品由来アウトブレイクの重要な原因の1つである。2012年の確定患者の発生率は人口10万人あたり21.9であった。サルモネラ症の発生率は低下が続いており、EU/EEA全体で、またEU/EEA加盟17カ国のそれぞれで、5年間にわたる有意な低下傾向が認められる。この低下は主に、動物(特に家禽類)においてサルモネラコントロールプログラムが成功裏に実施されたことによる。患者の発生率は0〜4歳児が最も高く、2012年は10万人あたり98.15で成人の場合の約5倍であった。2012年に感染患者が最も多く報告された血清型は、Salmonella Enteritidis、S. Typhimurium、単相性S. Typhimurium、S. Infantis、およびS. Stanleyの5種類で、S. Stanley患者の増加は七面鳥肉に関連して複数国にわたり発生したアウトブレイクが原因であった。


赤痢

 赤痢は、EU/EEA域内で5番目に多く診断・報告されている胃腸感染症である。2012年の確定患者発生率は人口10万人あたり1.6であった。赤痢は5歳未満の小児に最も多くみられ、加盟数カ国ではこの年齢層の発生が非常に多い。発生が夏季後半に多いという季節性があり、報告患者の多くは国外旅行関連である。アウトブレイクの発生はまれではないが、2012年は赤痢に関連した公衆衛生上の脅威はEUレベルで報告されなかった。


志賀毒素/ベロ毒素産生性大腸菌(STEC/VTEC)感染症

 EU/EEA域内の志賀毒素/ベロ毒素産生性大腸菌(STEC/VTEC)感染症患者数は、2008〜2012年にわたり増加傾向にある。2012年のEU/EEA全体の確定患者数は5,748人で、発生率は人口10万人あたり1.5であった。2012年の確定患者数は、ドイツで大規模なSTEC/VTEC O104:H4感染アウトブレイクが発生した2011年に比べ66%減少したが、2009年および2010年に比べると36%増加した。発生率は0〜4歳児で最も高く、2012年は男女とも10万人あたり7.6であった。最も多く報告されたO血清群はO157およびO26であった。STEC/VTEC感染症確定患者の7%(382人)が溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した。


先天性トキソプラズマ症

 先天性トキソプラズマ症はEU/EEA域内ではまれな疾患であり、2012年は加盟19カ国から計40人の患者が報告された。先天性トキソプラズマ症のサーベイランスはEU/EEA加盟国ごとに大幅に異なるため、欧州全体の実被害推定は不可能であり、国ごとの発生率の比較は慎重に行うべきである。


トリヒナ症

 トリヒナ症は、EU/EEA加盟国では依然としてまれな疾患である。2012年の確定患者発生率は人口10万人あたり0.06(確定患者301人)で、2008〜2009年より大幅に低く、2010〜2011年と同じレベルであった。2012年の確定患者の約50%がルーマニアからの報告であった。


野兎病

 野兎病(tularaemia)は、2012年にEU/EEA域内で患者1,002人(確定患者991人)が報告され、発生率は人口10万人あたり0.21であった。確定患者数は2011年に比べ37%増加した。発生率は中高年の男性が最も高かった。2012年にEU/EEA域内で報告された患者の半数以上がスウェーデンからの報告であった。


腸チフス/パラチフス

 腸チフス/パラチフスは、2011年に比べ21%減少して、2012年にEU/EEA加盟各国から計948人の確定患者が報告された。2011年までと同様、患者の90%が国外感染で、多くはインド亜大陸で感染した。2012年は25〜44歳の発生率が最も高く、全報告患者の約55%が腸チフス、35%がパラチフス(A菌)によるものであった。2013年1〜9月、カンボジアから帰国したEU/EEAの旅行者で計35人のパラチフス(A菌)患者が報告された。


変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)

 変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)は、まれであるが致死的な神経変性疾患である。2012年にEU/EEA域内で患者1人が報告された。vCJDの段階的な撲滅およびEU/EEAレベルでの管理対策の効果を注意深く監視するため、継続的なサーベイランスが極めて重要である。


エルシニア症

 エルシニア症の確定患者数は、2008〜2012年にEU/EEA域内で減少傾向にある。2012年に報告されたヒトのエルシニア症確定患者は計6,548人(2011年の7,062人より8%減少)で、EU/EEA域内の2012年の確定患者発生率は人口10万人あたり1.96であった。発生率は0〜4歳児グループが最も高く(10万人あたり9.8)、成人の場合の10倍以上であった。


(食品安全情報(微生物)No. 3 / 2014 (2014.02.05) ECDC記事参照)



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部