研究内容(第1室)

1. アセトアミドのラット肝発がん機序に関する研究

gpt deltaラットを用いた包括的毒性試験により、ラット肝発がん物質であるアセトアミドが肝毒性を有することを明らかにしました。一方、発がん標的臓器である肝臓でレポーター遺伝子突然変異頻度の変化は認められず、肝発がん過程における変異原性の関与は乏しいと考えられました。(Toxicol.Sci., 177:431-440, 2020

アセトアミドがラット肝臓に特異的に染色体異常を誘発することを明らかにしました。また、病理組織学的に細胞質内封入体として捉えられた大型小核では核膜構成タンパクの消失やDNA損傷の蓄積が認められ、クロモスリプシス様の染色体粉砕が生じることが示唆されました。(Arch. Toxicol., 95: 2851-2865, 2021

アセトアミドが誘発するラット肝腫瘍について次世代シーケンサーによる全ゲノム解析を実施し、アセトアミド誘発腫瘍の染色体ではランダムで大型のコピー数変異が生じることを明かにしました。さらに、それに伴うがん遺伝子c-Myc及びMdm2のコピー数増加が確認されました。これらの結果から大型小核によるクロモスリプシス様の染色体再構成がアセトアミドの肝発がんに寄与することが示唆されました。(Cancer. Sci., 2024NEW

アセトアミドと構造が類似したメチルカルバメートがラット肝臓に同様の大型小核を誘発すること、大型小核で生じる核膜構成タンパクの消失やDNA損傷の蓄積がその肝発がん性に寄与することを明らかにしました。(Toxcol. Sci., 198(1): 40-49, 2024NEW

2. アカネ色素の腎発がん機序に関する研究(毒性病理学研究への質量分析イメージングの応用)

レポ―ター遺伝子導入動物を用いたin vivo変異原性試験と網羅的DNA損傷解析により、アカネ色素の発がんの原因が構成成分であるルシジン配糖体から生じるDNA損傷であることを明らかにしました。(Chem. Res. Toxicol., 86:1112-1118, 2012; Anal. Bioanal. Chem., 406:2467-2475, 2014

アカネ色素(Madder color; MC)

アカネ色素の構成成分ルシジン配糖体が肝スルフォトランスフェラーゼにより代謝活性化され、腎臓にDNA損傷、遺伝子突然変異を引き起こすことを明らかにしました。(J. Appl. Toxicol., 39:650-657, 2019

脱離エレクトロスプレーイオン化法を用いたイメージング質量分析(DESI-MSI)により、アカネ色素投与後のラット腎臓においてアントラキノン骨格を有する複数の構成成分が異なる分布パターンを示すことを明らかしました。さらに、変異原性を有するルシジンとルビアジンはアカネ色素の発がん標的部位である髄質外層外帯に特異的に分布することを明らかにしました。(Food Chem. Toxicol., 161: 112851, 2022

アカネ色素の構成成分であるルビアジンをラットに28日間反復投与した腎臓において、ルビアジン及びその代謝物が髄質外帯外層に分布することをDESI-MSIにより明かにしました。また、分布したルビアジン及びその代謝物は部位特異的なDNA損傷及び遺伝子突然変異を誘発することを明かにしました。(Arch. Toxicol., 97(12): 3273-3283, 2023

3. アルケニルベンゼン化合物の肝発がん性に関する研究

香気成分エストラゴールの突然変異誘発には特異的DNA付加体の形成に加えて、セリン/スレオニンフォスファターゼ2A(PP2A)のリン酸化によって生じる細胞増殖活性が重要であることを明らかにしました。(Toxicol. Appl. Phramacol., 336: 75-83, 2017

エストラゴールの突然変異誘発性がフルメキンが引き起こす細胞内微小環境の変化によって増強されることを明らかにしました。(Food Chem. Toxicol., 129:144-152, 2019

アルケニルベンゼン化合物の一つであるエレミシンについて、gpt deltaラットを用いたin vivoにおける遺伝毒性評価を行いました。その結果、雌雄ともにラット肝臓においてDNA付加体の形成及び突然変異頻度の上昇が認められました。さらに、肝前がん病変マーカーであるGST-P陽性細胞巣の増加が認められたことから、エレミシンはラットにおける遺伝毒性肝発がん物質であることが示唆されました。(Food Chem. Toxicol, 179: 113965, 2023.

雄性マウスにおいて肝発がん性を示すイソオイゲノールについて、gpt deltaマウスを用いたin vivoにおける遺伝毒性評価を行いました。その結果、雌雄ともにマウス肝臓においてDNA付加体形成及び突然変異頻度の上昇は認められず、雄性マウスの肝発がんは非遺伝毒性機序によって生じることが示唆されました。(Jpn. J. Food Chem. Safety, 30: 9-22, 2023.

4. 化学発がん過程における遺伝子突然変異誘発機序に関する研究

複製忠実度が低下したDNAポリメラーゼζ(Polζ)を発現するRev3lL2610M gpt delta miceを用いて、Polζがbenzo[a]pyrene誘発DNA損傷の損傷乗り越え複製(TLS)およびミスマッチ伸長反応を行うことを明らかにしました。(Mutagenesis, 47: 44-52, 2021

5. マウス肝増殖性病変の分子病理学的特徴に関する研究

Piperonyl butoxide (PBO)の長期間投与によりマウス肝臓に発生する2つの増殖性病変(結節性肝細胞過形成と肝細胞腺腫)は、それぞれ異なる分子病理学的特徴を有していることを明らかにしました。(Toxicol. Pathol., 47: 44-52, 2019

6. アクリルアミドの発がん機序に関する研究

アクリルアミドのマウス肺発がん過程に、アクリルアミドの代謝物グリシドアミドから生じる7-GA-Guaが脱塩基することで生じる遺伝子突然変異が寄与することを明らかにしました。(Mutagenesis, 30:227-235, 2015