本制度の実施に当たっては、モニター病院として皮膚科領域(慶應義塾大学病院、堺市立堺病院、信州大学医学部附属病院、東京医科大学附属病院、東京慈恵会医科大学附属病院、東邦大学医学部附属大森病院、名古屋大学医学部附属病院分院及び日本赤十字社医療センター)と小児科領域(伊丹市立伊丹病院、川崎市立川崎病院、医療法人財団薫仙会恵寿総合病院、社会保険埼玉中央病院、東京医科大学附属病院、東京都立墨東病院、東邦大学医学部附属大森病院及び名古屋第一赤十字病院)の各8病院の協力を得ている。
また、平成8年度からは、(財)日本中毒情報センターの協力を得、主に吸入事故に関して当センターで収集した情報も加えることとした。
今般、平成8年度の報告を家庭用品専門家会議(危害情報部門)(座長:新村 眞人 東京慈恵会医科大学皮膚科教授)において検討し、その結果を以下のとおりとりまとめた。
そのうち皮膚科領域の報告は274件であり、報告件数は前年度(242件)より増加した。皮膚科領域においては、複数の家庭用品が原因と考えられた報告が含まれており、家庭用品の種類別の集計では、おのおの別個に計上しているため、のべ報告件数は318件となった。
小児科領域の報告は823件であり、報告件数は前年度(803件)より増加した。
また、平成8年度から新たに加えた家庭用品等に係る吸入等による健康被害の報告件数は374件であった。
なお、これらの健康被害は、患者主訴、症状、その経過及び発現部位等により家庭用品によるものであると推定されたものであるが、因果関係が明白でないものも含まれている。
@ 原因と推定された家庭用品をカテゴリー別に見ると、前年度同様、装飾品等の「身の回り品」の報告件数が最も多く110件であり、次いで、洗剤等の「家庭用化学用品」が95件であった(表1)。
なお、「衣料品」の割合は、昭和62年度から平成元年度にかけて18%〜20%で推移していたが、その当時に比べると、近年はその割合が低下している。
A 家庭用品の種類別では「洗剤*」が65件(20%)で最も多く、次いで「装飾品」が56件(18%)、「ゴム手袋・ビニール手袋」が32件(10%)、「洗浄剤**」が17件(5.3%)、「めがね」が14件(4.4%)の順であった(表3)。
B 平成8年度の報告件数上位10品目については、[洗剤」、「装飾品」、「ゴム手袋・ビニール手袋」、「洗浄剤」等に関する報告が、前年度より全報告件数に占める割合が増加している。
一方、昨年度多かった「スポーツ用品」に関する報告は、その割合が減少している(表3)。
* :「洗 剤」:野菜、食器等を洗う台所用及び洗濯用洗剤 **:「洗浄剤」:トイレ、風呂等の住居用洗浄剤C 上位10品目の全報告件数に占める割合について、長期的な傾向をみると、変動はあるものの「洗剤」と「装飾品」の割合が常に上位を占めている(図1)。
@ 患者の性別では女性が212件(77%)と大半を占め、特に20代の女性が75件と全体の27%を占めた。
A 障害の種類としては、「アレルギー性接触皮膚炎」が132件(48%)と最も多く、次いで「刺激性皮膚炎」53件(19%)、「湿潤型の手の湿疹」40件(15%)、「KTPP*型の手の湿疹」39件(14%)の順であった。
*:KTPP(keratodermia tylodes palmaris progressiva:進行性指掌角皮症) 皮膚疾患の1種で、水等の外的刺激により、まず、利き手から始まる。 皮面乾燥し、落屑、小亀裂を生じ、手掌に及ぶ。程度が進むにつれて 角質の肥厚を伴う。 (出典:医学大事典〔南山堂〕)B 症状の転帰については、「全治」と「軽快」を合計すると189件(69%)であった。なお、「不明」が66件(24%)あったが、このように「不明」が多い理由としては、症状が軽快した場合、患者自身の判断で受診を打ち切り、途中から受診しなくなることがあるためと考えられる。
1)洗剤
平成8年度における洗剤に関する報告件数は65件(20%)であり、前年度48件(18%)より増加している(表3)。
原因製品が判明しているもののうち、原因製品別の内訳は、台所用洗剤が22件、洗濯用洗剤が8件であった。
障害の種類は、KTPP型の手の湿疹が25件(38%)、湿潤型の手の湿疹が23件(35%)を占めている。KTPP型手の湿疹は、前年度13件(27%)より増加している。
症状の発現には、洗剤成分以外にも皮膚の状態、たわしの使用等による物理的刺激、洗剤の使用濃度、季節、水仕事の頻度等、様々な要因が複合的に関与しているものと考えられる。
防止策としては、使用上の注意・表示をよく読み、希釈倍率に注意する等、正しい使用方法を守ることが必要である。また、使用に際しては、保護手袋を着用することや、使用後保護クリームを塗ることなどの工夫も必要と思われる。
症状が発現した場合には、原因と思われる製品の使用を中止し、専門医を受診することが必要と思われる。
<報告事例>2)装飾品◎事例1【原因物質:洗濯用洗剤】 患者 22歳 女性
症状 子供の頃からアトピー性皮膚炎があり、夏に増悪傾向 受診5ヶ月前から手に湿疹が出現 障害の種類 刺激性皮膚炎 推定原因物質 洗濯用洗剤(パッチテスト:使用中の洗剤(++)) 治療・処置 抗アレルギー薬の内服、ステロイド剤外用 ◎事例2【原因物質:台所用洗剤】 患者 23歳 女性 症状 受診の4ヶ月前よりそう痒感を伴う皮疹出現 他院にて加療するも、軽快・悪化を繰り返す 障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎 推定原因物質 台所用洗剤(パッチテスト:使用中の洗剤(++)) 治療・処置 抗アレルギー薬の内服、ステロイド剤外用、原因と推定される洗剤の使用中止
平成8年度における装飾品に関する報告件数は56件(18%)であり、前年度56件(20%)と同様であった(表3)。
性別・年齢別の報告件数では、20代女性が30件(54%)と最も多く、前年度31件(55%)とほぼ同様であった。また、10代女性に関する報告件数も3件(5.3%)と、前年度3件(5.3%)と同様であった。
原因製品別の内訳は、ピアスが17件、イアリングが14件、ネックレスが13件、指輪が7件、これらの複数が原因と考えられるものが4件であり、不明が1件あった。
障害の種類は、アレルギー性接触皮膚炎が45件(80%)と大半を占めた。原因となった素材は、すべて金属であった。
パッチテストを行っているものが25件報告されており、その中では、前年度同様、ニッケルが原因と考えられるものが最も多かった(表2)。
金属が汗に溶けて症状が発現すると考えられるので、防止策としては、汗を大量にかくような運動をする際には装飾品類をはずすことが望ましい。特に、ピアスは耳たぶ等に穴を開けて装着するなど、装着方法が他の製品と異なり、表皮より深部と接触する可能性が高いため、アレルギー症状の発現などに対して、より一層注意が必要である。また、症状が発現した場合には、専門医の診療を受けるとともに、原因製品の装着を避けることや、別の素材のものに変更することなどが必要である。
<報告事例> ◎事例1【原因製品:ピアス】 患者 21歳 女性 症状 ピアスをつけたままにしていたところ、3日目頃から左耳腫脹し、右耳にも波及 障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎 推定原因物質 ニッケル(パッチテスト結果:ニッケル(+)、コバルト(+)、銅(+)) 治療・処置 抗アレルギー薬内服、抗炎症剤外用 ◎事例2【原因製品:ネックレス】 患者 20歳 女性 症状 受診の5日前に金メッキのネックレスを着用したところ、頸部に皮疹が出現した 障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎 推定原因物質 ニッケル、金(パッチテスト結果:ニッケル(+)、金(+)、鉄(+)、パラジウム(+)) 治療・処置 ステロイド剤外用3)時計バンド
平成8年度における時計バンドに関する報告件数は11件(3.5%)であり、前年度27件(9.9%)より減少している(表3)。
原因となった素材別の内訳は、金属バンド7件、革バンド1件、ビニールバンド1件、材質不明2件であった。 障害の種類は、全てアレルギー性接触皮膚炎であった。
防止策としては、症状が発現した場合には、別の素材のものに変更することなどが必要である。また、金属バンド等でアレルギー症状が発現した場合には、イヤリング、ピアス、ネックレス等の他の金属製品についても注意することが必要である。
<報告事例> ◎事例1【原因製品:腕時計バンド(革製)】 患者 76歳 男性 症状 数年前より汗をかく季節のなると左手関節部にそう痒性皮疹が出現する 今回は受診4〜5日前より紅斑を伴う皮疹が出現した 障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎 推定原因物質 腕時計バンド(パッチテストは行っていない) 治療・処置 抗アレルギー薬の内服、ステロイド剤外用 ◎事例2【原因製品:腕時計バンド(ビニール製)】 患者 24歳 女性 症状 受診の3週間前にビニールのバンドの時計に変えた ところ、左手首関節部に皮疹が出現した 障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎 推定原因物質 腕時計バンド(パッチテストは実施していない)4)スポーツ用品治療・処置 ステロイド剤外用
平成8年度のスポーツ用品に関する報告件数は5件(1.6%)であり、前年度18件(6.6%)より減少している。
原因製品別の内訳は、水泳用またはスキー用ゴーグルが2件、ゴルフクラブが2件、トレーニングマシンのグリップが1件であった。
障害の種類は、アレルギー性接触皮膚炎が2件、湿潤型の手の湿疹が2件、KTPP型の手の湿疹が1件で、全て、ゴムが原因であると考えられるものであった。なお、スポーツ用品に使用されている接着剤が原因となる場合もあることから、注意が必要である。
スポーツ用品は、運動による発汗時の使用を前提としている製品であるので、製造業者においては、製品開発に当たって特に厳格な安全性の確認が望まれる。また、健康被害が発症した場合は、専門医の診療を受け、指示に従うことが必要である。
<報告事例>5)その他◎事例【原因製品:水泳用ゴーグル】 患者 29歳 女性 症状 受診の1ヶ月前から、両眼周囲に痒みのある紅斑が出現。 落屑あり 水泳時にゴーグルを使用している 障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎 推定原因物質 水泳用ゴーグル(パッチテストは行っていない) 治療・処置 抗アレルギー薬内服、ステロイド剤外用
今回、金属製眼鏡フレームが原因と考えられる症例が、多くみられたので1例を掲げる。
◎事例【原因製品:眼鏡のつる】患者 44歳 男性 症状 眼鏡のつるの触れる耳前部と眼周囲に皮疹が出現した。 障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎 推定原因物質 眼鏡のつる(パッチテストは行っていない) 治療・処置 ステロイド剤外用
家庭用品を主な原因とする皮膚障害は、原因家庭用品との接触によって発生する場合がほとんどであり、家庭用品を使用することによって接触部位に痒み、湿疹等の症状が発現した場合には、原 因と考えられる家庭用品の使用を極力避け、様子をみることが必要である。症状がおさまった後、再度使用して同様の症状が発現する場合には、同一の素材のものの使用は以後避けることが賢明であり、症状が改善しない場合には、専門医の診療をうけることが必要である。
また、日頃から使用前には必ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることや、自己の体質について認識し、使用する製品の素材について注意を払うことも大切である。
平成8年度の報告件数上位10品目までの原因製品のうち、上位2品目については、小児科のモニター報告が始まって以来変わっていない。
また、それ以外の原因製品においても、順位の変動はあるものの、第5位以下の6品目のなかに前年度と同じ品目が5品目含まれている。
A 上位品目の全報告件数に占める割合について、長期的な傾向をみると、変動はあるものの「タバコ」の割合が依然多い(図2)。
@ 発現症状については、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の「消化器症状」が認められたものが84件(10%)と最も多く、次いで咳、喘鳴等の「呼吸器症状」が認められたものが48件(5.8%)となっている。これらを含め、症状の発現がみられたものは全体で152件(18%)であった。事故後、摘出術等が必要であることから「入院」、「転科」及び「転院」となったものは25件であった。それ以外で、転帰が不明以外のものは全て「帰宅」していることから、重篤な事例は少なかった。
A 誤飲時の保護者の処置としては、吐かせる、水を飲ませる等の応急処置を行った事例が374件(45%)あったが、その中には、水または牛乳を飲ませてはいけないと考えられる事例(タバコの葉または吸殻の誤飲時)で、水または牛乳を飲ませたり、吐かせてはいけない事例(灯油の誤飲時)で吐かせたという不適切な処置もあった。
B 誤飲事故発生時刻については、午後6時〜9時までの発生件数が多く、この時間帯だけで239件(32%:発生時刻不明を除く報告件数に対する%)の発生があった。
また、誤飲事故発生曜日については、日曜日に発生する場合が若干多いが、特に曜日による差はなかった。
C 平成8年度の報告では、食品の誤飲事故の報告が13件(2%)あったが、平成5年度に報告されたピーナッツの誤嚥事故のような死亡例はなかった。
また、酒類による誤飲事例は酒類をジュースと誤って飲ませたといったように、ほとんどが保護者の過失による事例であった。
平成8年度におけるタバコに関する報告件数は395件(48%)であり、前年度433件(54%)をやや下回ったものの、依然全報告の約半数を占めている(表4)。
タバコに関する報告の内訳は、タバコ*245件、タバコの吸殻**142件、タバコの溶液***8件であった。
年齢については、ハイハイやつかまり立ちをする6〜11ヶ月の乳児による事故が300件(76%)であり、12〜17ヶ月の幼児とあわせると94%を占めた。この中には、保護者が近くに居ながら発生した事例も多くみられた(図4)。
症状の認められた58件中、消化器症状が認められていたものが52件と最も多かったが、395件中特に重篤な事例はなく、ほとんどが受診後帰宅している。
応急処置を行った事例は、242件(61%)であり、何も飲ませずに「吐かせた」及び「吐かせようとした」事例が、あわせて119件と最も多かった。
タバコの誤飲事故の大半は、自分で動き回り始める1歳前後の乳幼児にみられることから、この年齢の子供をもつ保護者は、タバコ、灰皿及び灰皿に使用した飲料の空き缶等を、子供の手の届く床の上やテーブルの上等に放置しないことなど、その取り扱いや置き場所に細心の注意を払うことが必要である。
* :「タバコ」 :未服用のタバコ ** :「タバコの吸い殻」:服用したタバコ ***:「タバコの溶液」 :タバコの吸い殻が入った空缶、空瓶等にたまっている液 <報告事例> ◎事例1【原因製品:タバコ】 患者 1歳 男児 症状 なし 誤飲時の状況 居間で祖父のタバコを口にくわえているのを母親が発見した 来院前の処置 吐かせた 受診までの時間 1時間〜1時間30分未満 処置及び経過 胃洗浄 転帰 帰宅(経過観察) ◎事例2【原因製品:タバコ吸殻】 患者 11ヶ月 男児 症状 なし 誤飲時の状況 居間のテーブルの上にあった吸殻を食べているところを母親が発見した 来院前の処置 なし 受診までの時間 30分〜1時間未満 処置及び経過 胃洗浄 転帰 帰宅(経過観察) ◎事例3【原因製品:タバコを浸した溶液】 患者 1歳5ヶ月 男児 症状 特になし 誤飲時の状況 車内で、タバコの吸い殻(3本)入ったジュース缶を飲んだ 来院前の処置 なし 受診までの時間 1時間〜1時間30分未満 処置及び経過 胃洗浄 転帰 帰宅(経過観察)2)医薬品・医薬部外品
平成8年度における医薬品・医薬部外品に関する報告件数は120件(15%)であり、前年度92件(12%)を上回っていた(表4)。
症状の認められた32件中、10件について傾眠などの神経症状が認められている。入院を必要とした事例は、3件であったが、重症例はみられていない。
年齢については、前年度同様各年齢層においてみられているが、特に1〜2歳児にかけて多くみられている(73%)。
原因となった医薬品・医薬部外品の内訳は、解熱鎮痛薬が13件で最も多く、次いで一般感冒薬が12件、精神安定薬、外用消毒剤、ゴキブリ駆虫用ホウ酸ダンゴがそれぞれ10件、鎮咳薬、循環器用薬が7件となっており、一般の家庭に常備されている医薬品・医薬部外品だけではなく、保護者用の処方薬による事故も多く発生している。
医薬品・医薬部外品の誤飲事故の大半は、医薬品の保管を適切に行っていなかった場合や保護者が目を離したすきに発生していることから、家庭内での保管・管理には十分注意する必要がある。
また、ゴキブリ駆除用のホウ酸ダンゴを食べた事例も多く(10例)報告されている。自家製のホウ酸ダンゴは食品と間違えやすいことから、使用にあたっては、子供の目につかない場所や手の届かない場所に置くなどの配慮が必要である。
<報告事例> ◎事例1【原因製品:解熱薬】 患者 1歳11ヶ月 女児 症状 元気消失、体温低下 誤飲時の状況 保管してあった解熱薬1錠を飲んだ 来院前の処置 他院にて胃洗浄措置 受診までの時間 6時間〜12時間未満 処置及び経過 保温点滴処置 転帰 入院(2日) ◎事例2【原因製品:外傷用殺菌消毒剤 】 患者 2歳 男児 症状 なし。 誤飲時の状況 父親が自身の外傷処置後放置してあったものを約20ml飲んだ 来院前の処置 口内に指を入れて吐かせ、水を飲ませた 受診までの時間 30分未満 処置及び経過 胃洗浄、点滴処置 転帰 帰宅(経過観察) ◎事例3【原因製品:ゴキブリ駆虫用ホウ酸ダンゴ】 患者 11ヶ月 男児 症状 なし 誤飲時の状況 押入の中にあったホウ酸ダンゴをかじって飲み込んだ 来院前の処置 水を飲ませて吐かそうとしたが効果なし 受診までの時間 30分未満 処置及び経過 胃洗浄 転帰 帰宅(経過観察)3)電池
平成8年度における電池に関する報告件数は32件(3.9%)であり、前年度14件(1.7%)より激増している(表4)。
年齢については、6〜11ヶ月の幼児による事例が11件(34%)で最も多く、次いで12〜17ヶ月の幼児による事例が10件であった。
誤飲した電池の大半は、ボタン電池であるが(30件)、乾電池を誤飲した事例も2件報告されている。誤飲事故は、玩具で遊んでいるうちに電池を口に入れてしまい発生した場合が多い。また、正常な使用時においても、電池のフタが何らかの理由で開き、中の電池が簡単に取り出すことができたために起こっている事例もある。
最近、幼児が遊ぶ玩具でもボタン電池等を使用したものが多くあることから、保護者は、それらで遊戯中の子供には十分注意する必要がある。また、未使用及び使用済みの電池等は子供の目につかない場所や手の届かない場所に保管するなどの配慮が必要である。
製造物責任法の施行に伴い、様々な誤飲防止対策を施した玩具が販売されているが、電池に限らず口に入る大きさの玩具で子供が遊んでいるときには、そのものを誤飲する可能性が考えられることから、保護者は目を離さないように注意する必要がある。
<報告事例> ◎事例【原因製品:ボタン型電池】 患者 1歳1ヶ月 男児 症状 なし 誤飲時の状況 ゲームで遊戯中、ボタン型電池がなくなっているのに気付いた 来院前の処置 他院にてX線検査実施 受診までの時間 12時間以上 処置及び経過 X線検査で異物確認、摘出術実施 転帰 帰宅(経過観察)4)その他
平成8年度では、特に重篤な症例はみられなかった。
食品類に関する報告では、酒類による誤飲が13件中4件で、子供に飲料を与える際に、誤って酒類を与えてしまった事例があった。アルコール飲料の誤飲事故では循環器症状がみられることもあることから、保護者自身が十分注意する必要があり、子供に飲料を与える前には親が確認することも必要である。平成8年度報告にはなかったが、食品類による誤嚥事故では、特に気道へ詰まらせて、重篤な症状を引き起こすことがある。ピーナッツや枝豆は、気道に入りやすい大きさ、形状及び堅さを有しているので、特に2歳未満の乳幼児においては、誤嚥事故の原因となりやすい。しかもこのような食品は、気道に入った場合、摘出が困難であるため十分注意をする必要があり、乳幼児に食べさせること自体禁忌とされている。
モニター報告ではないが、過去にこんにゃくゼリーの誤嚥による死亡事故が発生しているように、こんにゃくのようなものは、噛み切りにくく、いったん気道へ詰まってしまうと、重篤な呼吸器障害につながるおそれもある。食品とはいえ、乳幼児等に与える際には、保護者は十分に注意を払う必要がある。
代表的な事例だけではなく、家庭内外にあるものは、そのほとんどが子供の誤飲の対象物となる可能性があり、子供のいる家庭においては保護者の配慮が必要である。
また、誤飲後、誤飲製品が胃内まで到達すれば、いずれ排泄されると考えられることから問題はないとする考え方もあるが、ボタン型電池が腸内壁に張り付き穿孔してしまったり、硬貨が胃内から排泄されない場合もあることから、確実に排泄されたことを確認することが必要である。
<報告事例> ◎事例1【原因製品:磁石】 患者 11ヶ月 男児 症状 なし 誤飲時の状況 磁石を口に入れて遊んでいた。突然泣きだしたので よく見ると、磁石がなくなっていた 来院前の処置 なし 受診までの時間 1時間30分〜2時間未満 処置及び経過 X線検査にて胃内に異物確認、摘出術実施。 転帰 帰宅(観察不要) ◎事例2【原因製品:絵の具】 患者 1歳2ヶ月 女児 症状 なし 誤飲時の状況 目を離した隙にテーブル上の絵の具をなめていた 来院前の処置 なし 受診までの時間 30分〜1時間未満 処置及び経過 胃洗浄にで大量の絵の具排出 転帰 帰宅(経過観察) ◎事例3【原因製品:化粧品(除光液)】 患者 1歳3ヶ月 女児 症状 なし 誤飲時の状況 除光液を約5mlほど飲んだ 来院前の処置 なし 受診までの時間 30分〜1時間未満 処置及び経過 胃洗浄 転帰 入院(2日) ◎事例4【原因製品:シール(糊付コーティング紙)】 患者 4ヶ月 女児 症状 咳、嘔吐 誤飲時の状況 目を離した隙に、シールを飲んだ様子。 喉の奧に異物が見える 来院前の処置 なし 受診までの時間 30分未満 処置及び経過 舌圧子で嘔吐誘発し、除去。 転帰 帰宅(経過観察) ◎事例5【原因製品:灯油】 患者 1歳6ヶ月 女児 症状 咳 誤飲時の状況 作業用にコップに入れておいた灯油を飲んだ 来院前の処置 逆さにして吐かせた 受診までの時間 1時間〜1時間30分未満 処置及び経過 X線検査するも所見なし 転帰 入院(2日) ◎事例6【原因製品:カビ取り剤】 患者 1歳11ヶ月 男児 症状 嘔吐 誤飲時の状況 台所においてあったカビ取り剤を飲んでいる ところを発見した 来院前の処置 なし 受診までの時間 30分未満 処置及び経過 血液検査、胃洗浄、点滴・経口投薬処置 転帰 帰宅(経過観察) ◎事例7【原因製品:防虫剤(ナフタリン)】 患者 1歳4ヶ月 女児 症状 なし 誤飲時の状況 落ちていたナフタリンが、口内で粉々になっていた 来院前の処置 口内の残物をかき出した 受診までの時間 30分未満 処置及び経過 胃洗浄(洗浄液:ナフタリン臭あり) 転帰 帰宅(経過観察) ◎事例8【原因製品:日本酒】 患者 1歳6ヶ月 男児 症状 顔面紅色様 誤飲時の状況 目を離した隙に、飲みかけの日本酒を飲んだ 来院前の処置 なし 受診までの時間 30分未満 処置及び経過 胃洗浄、点滴処置 転帰 帰宅(経過観察)
保護者が近くにいる・いないに関わらず、乳幼児は、身の回りのものを分別なく口に入れてしまうので、乳幼児のいる家庭では、乳幼児の手の届く範囲には極力物を置かないようにすることが必要である。特に、歩き始めた子供は行動範囲が広がることから注意を要する。また、食品類であっても、状況次第では非常に危険なものになるということを保護者は認識し、子供の周囲の環境に気を付けなければならない。
さらに、兄弟・姉妹に誤飲事故歴があったり、患児自身に誤飲事故歴があったりと、同一家庭内で繰り返し誤飲事故が発生している事例が多い。このような家庭では、保護者の認識や生活習慣にも問題があると思われるので、保護者は子供の誤飲事故に対する認識や生活習慣を改善することが必要である。
誤飲時の応急処置は、症状の軽減や重篤な症状の発現の防止に役立つので重要な行為である。しかし、保護者が誤った処置をしている事例もみられていることから、応急処置に関して正しい知識を持つことが重要である。
なお、平成8年度には、(財)日本中毒情報センターにより、小児の誤飲事故防止に係る啓発パンフレットが作成され、全国の保健所あて送付されている。
A 家庭用品の種類別では、「洗浄剤」79件(21%)、「殺虫剤(医療部外品も含む)」58件(16%)、 「消火器」38件(10%)、 「洗剤」36件(9.6%)、 「漂白剤」 33件(8.8%)の順であった(表5)。
B 製品の形態別の事例数では、「液状」145件、「噴霧式」141件、「粉末状」54件、「蒸散型」16件、「固形」12件で、不明が6件あった。
A 問い合わせ者の性別では、女性が220件(59%)、男性が118件(31%)、不明が36件(10%)であった。特に、30代の女性が66件と女性全体の30%を占めた。
B 発現症状では、悪心、嘔吐、腹痛等の「消化器症状」を呈したものが124件(33%)と最も多く、次いで、咳、喘鳴等の「呼吸器症状」を呈したものが104件(28%)となっている。これらを含め、症状の発現があったものは319件(85%)であった。
その後の転帰については、不明である。
1)洗浄剤
洗浄剤に関する事例は、79件であった。そのうち最も多かったのは、次亜塩素酸系の噴霧式の製品であった(27件)。
発生状況では、風呂場やトイレのような密室で十分な換気をせずに使用している事例が多くみられた。屋内で使用する際には、換気状況が良好であることを確認したうえで、適正量を使用する必要がある。
2)漂白剤
漂白剤に関する事例は33件であった。次亜塩素酸系が最も多く25件と大半を占めた。
発生状況では、適用量以上に使用したもの12件、他の洗剤と混ぜて使用したもの10件と誤使用によるものが多く認められた。
特に、次亜塩素酸系の漂白剤の場合、酸性の洗剤や洗浄剤と併用、混合することによって、塩素ガスが発生し危険であるので、酸性の洗剤や洗浄剤との混合等は禁忌である。
3)防水スプレー
防水スプレーに関する事例は14件であった。過去に事故が頻発したころと比べると少ないが、依然として屋内で大量に使用したことによって事故が発生している。
必ず、屋外で風下に向かって使用すること、また、短時間に大量使用をしないこと等の使用上の注意が必要である。
今回から(財)日本中毒情報センターが収集した情報のうち、吸入事故を中心としたものを取りまとめた。これらは、受診した医療機関あるいは直接一般消費者からの電話によって聴取した情報であるため、より詳細な調査やその後の追跡調査が十分にできなかったものが大半であった。そのため、発生状況、原因と推定される製品と健康被害との因果関係等が明確でないものも多く含まれる。また、その後の健康状態等についても十分な調査が困難であった。しかしながら、このように一般消費者等から直接寄せられる情報は、各製品の安全性を再確認するために欠かせない重要な情報である。
製品形態別では、噴霧式の製品による事故が多く報告された。噴霧式の製品は、内容物が霧状となって空気中に拡散するため、吸入による健康被害が発生しやすい。
使用にあたっては、換気状況を確認する、一度に大量を使用しない等の注意が必要である。
主成分別では、次亜塩素酸系の洗浄剤等による健康被害が比較的多くみられた。次亜塩素酸系の成分は刺激性が強く、使用方法を誤ると事故が発生する可能性が高い製品となりうることから、事業者にあっては、より安全性の高い製品の開発に努めるとともに、消費者に製品の特性等について表示等により継続的な注意換気と適正な使用方法の推進を図る必要がある。
また、事故の発生状況をみると、使用方法や製品の特性について正確に把握していれば事故の発生を防ぐことができた事例も多数あったことから、消費者にあっては、日頃から使用前には必ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることが大切である。万一事故が発生した場合には、症状の有無にかかわらず、専門医の診療を受けることが必要である。
現在のモニター報告は、治療を目的に来院する患者から原因と思われる家庭用品について情報を収集するシステムであるため、その家庭用品に含まれる化学物質を特定することは、必ずしも容易ではない。また、(財)日本中毒情報センターに問い合わせのあった事例に関する情報は、主に電話によって収集されたものであり、プライバシー等の問題からより詳細な内容を把握したり、家庭用品との因果関係を明確にすることは困難である。
しかしながら、時代に応じて快適な生活を求める消費者ニーズに応えるため、新しい化学物質や素材が家庭用品に次々と使用されてきていることから、常にそれらの情報を入手し、新たに生じる問題点を早急に発見することが必要である。また、最近では、抗菌剤を使用した家庭用品や、コンパクト洗剤などが数多く出回っており、その安全性について引き続き注目していく必要がある。
家庭用品による健康被害を未然に防止するためには、消費者が使用上の注意をよく読み、製品情報に注意するとともに、自己の体質を認識したり、子供が誤飲しないように周囲の環境に配慮することが必要である。また、事業者は、製造物責任法の施行に伴い、製品の供給に先立って安全性の確認を行いより安全な製品の供給に努めるとともに、販売時には製品の適切な使用方法について、消費者に確実に伝えるよう努めることが必要である。
表1 皮膚科健康被害報告件数(年度別・家庭用品カテゴリー別)−:0 +?:1 +:2 ++:3 空欄:検査せず (判定は国際接触皮膚炎研究会の基準による) 表2 金属製品による健康被害におけるパッチテストの結果 図1 主要家庭用品報告件数比率の年度推移(皮膚科) 図2 主要家庭用品別報告件数比率の年度推移(小児科) 図3 時刻別誤飲事故発生報告件数 図4 年齢別誤飲事故発生報告件数