平成9年12月17日
照会先 厚生省生活衛生局企画課 生活化学安全対策室
担当:内田、山本
(内2421,2423)
電話代表 3503-1711
直通 3595-2298
家庭用品に係る健康被害病院モニター報告(平成8年度)(要旨)
1.経緯
標記病院モニター報告制度は、各種家庭用品に係る消費者の健康被害事例を継続的かつ広範に収集し、健康被害の実態を把握するとともに、家庭用品の安全対策を一層推進することを目的として、昭和54年より慶應大学病院等の協力を得て実施しているものである。また、今回から(財)日本中毒情報センターが収集した吸入事故等の情報も加えることとした。今般、平成8年度の報告を家庭用品専門家会議(危害情報部門)(座長:新村眞人 東京慈恵会医科大学皮膚科教授)において検討し、その結果を以下のとおりとりまとめた。
2.概要
本制度は、モニター病院(皮膚科、小児科各8施設)の医師が家庭用品による健康被害と思われる事例及び(財)日本中毒情報センターが収集した家庭用品による吸入事故等と思われる事例について、厚生省に報告する方法により行っているものである。
平成8年度の報告件数は、皮膚科274件、小児科823件、吸入事故等374件で 合計1,471件であった。なお、死亡事例は報告されていない。
(1)皮膚科
@健康被害の概要
- 原因家庭用品上位5品目は、洗剤が65件、装飾品が56件、ゴム手袋・ビニール手袋が32件、洗浄剤が17件、めがねが14件であった。
- 患者の性別では、女性が212件(77%)と大半を占め、特に20代の女性が75件と全体の27%を占めた。これは例年と同様の傾向である。
- 障害の種類としては、「アレルギー性接触皮膚炎」がもっとも多く、次いで「刺激性皮膚炎」、「湿潤型の手の湿疹」等がみられた。
A原因製品別考察
(洗剤)
- 洗剤に関する報告件数は65件であり、前年度第2位であったものが、平成8年度は第1位となった。
- 製品の内訳は、台所用洗剤が22件、洗濯用洗剤が8件であった。
- 障害の種類は、KTPP型の手の湿疹が38%、湿潤型の手の湿疹が35%を占めた。
- 防止策としては、使用上の注意
- 表示をよく読み、希釈倍率に注意する等正しい使用方法を守ることが必要である。また、使用に際しては、保護手袋を装着することや、使用後保護クリームを塗ることなどの工夫も必要と思われる。
(装飾品)
- 装飾品に関する報告件数は56件であり、前年度第1位であったものが、平成8年度は第2位となった。
- 製品別の内訳は、ピアスが17件、イアリングが14件、ネックレスが13件、指輪が7件、これらの複数が原因と考えられるものが4件であり、不明が1件であった。
- 障害の種類は、アレルギー性接触皮膚炎がその大半を占めた(80%)。
- パッチテストを行っているものが25件報告されており、その中では、ニッケルが原因と疑われるものが最も多かった。
- 防止策としては、汗を大量にかくような運動をする際には装飾品類をはずすことが望ましい。また、症状が発現した場合には、専門医の診療を受けるとともに、原因製品の装着を避けることや別の素材のものに変更することが必要である。
(時計バンド)
- 時計バンドに関する報告件数は11件であり、前年度より減少している。
- 素材別の内訳は、金属バンドが7件、革バンドが1件、ビニールバンドが1件、材質不明が2件であった。
- 障害の種類は、全てアレルギー性接触皮膚炎であった。
- 防止策としては、別の素材のものに変更することが必要である。
(スポーツ用品)
- スポーツ用品に関する報告件数は5件であり、前年度より減少している。
- 障害の種類は、ゴム(合成ゴムを含む)による健康被害と考えられるものが大半であった。
- スポーツ用品は運動による発汗時の使用を前提としている製品であることから、製造業者においては、製品開発時に特に厳格な安全性の確認が必要である。また、健康被害が発現した場合は、専門医の診療を受け、指示に従うことが必要である。
B全般的な留意事項
家庭用品を主な原因とする皮膚障害は、原因家庭用品との接触によって発生する場合がほとんどであり、家庭用品を使用することにより接触部位に痒み、湿疹等の症状が発現した場合には、原因と考えられる家庭用品の使用を極力避け、様子をみることが必要である。再度使用して同様の症状が発現する場合には、同一の素材のものの使用は避けることが賢明であり、症状が改善しない場合には、専門医の診療をうけることが必要である。
また、使用前には必ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることや、自己の 体質について認識し、製品の素材について注意を払うことも大切である。
(2)小児科
@健康被害の概要
- 誤飲事故の原因製品上位5品目は、タバコが395件、医薬品
- 医薬部外品が120件、玩具が38件、電池が32件、化粧品が27件であった。
- 上位品目の全件数に占める割合の長期的傾向を見ると、変動はあるもののタバコの占める割合が依然として多い。
- 誤飲事故は、同様午後6時から午後9時の間に多く発生しており、全体の32%を占めている。
A原因製品別考察
(タバコ)
- タバコに関する報告件数は395件であり、前年度同様、小児科報告件数の多数を占めた。
- 6〜11カ月の乳児による事故が76%であり、12〜17カ月の幼児とあわせると94%を占めていた。
- 防止策としては、タバコ、灰皿及び灰皿に使用した飲料の空き缶等を乳幼児の手の届かないところに保管するなど、取り扱いや置き場所に注意を払うことが必要である。
(医薬品・医薬部外品)
- 医薬品・医薬部外品に関する報告は120件であった。
- 誤飲事故は、各年齢層においてみられているが、特に1〜2歳児に多くみられている。
- 誤飲事故の大半は、医薬品等の保管を適切に行っていない場合や保護者が目を離したすきに発生していることから、保管・管理には十分留意する必要がある。
- ゴキブリ駆除用のほう酸ダンゴや衣類用防虫剤を誤って食べた例も多くみられていることから、子供の目の届かない場所に設置する等の配慮が必要である。
(電池)
- 電池に関する報告件数は32件であり、前年度に比べて激増している。
- 6〜11ヶ月の乳児による事故が時が11件と最も多く、次いで12〜17ヶ月の幼児による事故が10件であった。
- 電池の種類では、ボタン電池が30件と大半であるが、乾電池による事故も2例発生している。
- 誤飲事故の大半は、玩具で遊んでいるうちに電池を口に入れてしまい発生している。また、正常な使用時においても電池の蓋が開き、中の電池が簡単に取り出すことができたために起こっている事例もある。
- 最近、幼児が遊ぶ玩具でもボタン電池等を使用したものが多くあることから、保護者はそれらで遊戯中の子供には十分注意する必要がある。また、未使用及び使用済の電池は子供の目につかない場所や手の届かない場所に保管する等の配慮が必要である。
B全般的な留意事項
乳幼児は、身の回りのあらゆるものを分別なく口に入れてしまうことから、保護者は子供の周囲の環境に気を付けなければならない。食品類であっても状況次第では危険なものになるということを認識する必要がある。
また、前年度同様、兄弟姉妹や患児自身に誤飲事故歴があるなど同一家庭内で繰り返し誤飲事故が発生している事例も見られることから、生活習慣の改善も必要と思われる。
(3)吸入事故等
@健康被害の概要
- 吸入事故等の原因製品上位5品目は、洗浄剤が79件、殺虫剤(医療部外品も含む)が58件、消火器が38件、洗剤が36件、漂白剤が33件であった。
- 製品形態別では、液状のものが145件と最も多く、次いで噴霧式のものが141件であった。
- 問い合わせ者の性別では女性が220件で半数以上を占め、とくに30代の女性からの問い合わせは、女性全体の30%を占めた。
A原因製品別考察
(洗浄剤)
- 洗浄剤に関する報告件数は79件であり、そのうち最も多かったのが、次亜塩素酸系の噴霧式の製品で27件であった。
- 発生状況では、風呂場やトイレのような密室で十分な換気をせずに使用している事例が多くみられた。
- 防止策としては、屋内で使用する際には、換気状況が良好であることを確認のうえ、適正量を使用する必要がある。
(漂白剤)
- 漂白剤に関する報告件数は33件であり、次亜塩素系の製品が最も多く25件であった。
- 発生状況では、適用量以上に使用した事例や他の酸性洗浄剤と混ぜて使用したために、塩素ガスが発生した事例が多くみられた。次亜塩素酸系の漂白剤と酸性洗浄剤との混合使用は非常に危険で、禁忌である。
(防水スプレー)
- 防水スプレーに関する事例は14件で、過去に事故が頻発したころと比べると減少しているが、依然として屋内で大量使用したことによる事故が発生している。
- 防止策としは、屋外で風下に向かって使用すること、一度に大量使用をしないこと等の注意が必要である。
B全般的な留意事項
今回から(財)日本中毒情報センターが収集した情報のうち吸入事故を中心としたものを取りまとめた。
事故の発生状況をみると、使用方法や製品の特性について正確に把握していれば事故の発生を防ぐことができた事例も多数あったことから、消費者も日頃から使用前には必ず注意書をよく読み、正しい使用方法を守ることが重要である。
また、事業者にあっても、より安全性の高い製品開発に努めるとともに、消費者に製品の特性等について表示等により継続的な注意喚起と適正使用方法の推進を図る必要がある。
3.おわりに
本モニター報告の報告件数において上位を占める家庭用品の種類は、ここ数年ほとんど変わっていない。
家庭用品に起因する健康被害を防止するためには、消費者が製品情報に注意すること及び事業者が製品の供給に先だって安全性の確認を十分に行い、安全な製品の供給に努めるとともに、販売時には製品の適切な使用方法について、確実に消費者に伝わるよう努力することが必要である。
また、最近では家庭用品の分野にも新しい製品が登場するようになり、使用の歴史が浅いものも数多く出回っていることから、その安全性については、引き続き注目していく必要がある。
前のページにもどる
NIHSホームページ
厚生省関連情報(NIHSホームページ)