平成8年9月
厚生省生活衛生局企画課
生活化学安全対策室


平成7年度家庭用品に係る健康被害病院モニター報告

はじめに

 家庭用品に係る健康被害病院モニター報告制度は、日常生活において使用している衣料品、身の回り品、家庭用化学製品等による皮膚傷害ならびに小児による誤飲事故等の健康被害について、専門家の診療を通じて収集し、健康被害の実態を把握するとともに、早急な安全対策に資すること及びその情報を広く公開することを目的として、昭和54年5月から実施しているものである。平成7年度までの17年間に11, 207件の健康被害事例が報告され、その結果は、家庭用品の安全対策に反映されている。

本制度の実施に当たっては、モニター病院として皮膚科領域(慶應義塾大学医学部附属病院、堺市立堺病院、信州大学医学部附属病院、東京医科大学附属病院、東京慈恵会医科大学附属病院、東邦大学医学部附属大森病院、名古屋大学医学部附属病院分院及び日本赤十字社医療センター)と小児科領域(伊丹市立伊丹病院、川崎市立川崎病院、医療法人財団薫仙会恵寿総合病院、社会保険埼玉中央病院、東京医科大学附属病院、東京都立墨東病院、東邦大学医学部附属大森病院及び名古屋第一赤十字病院)の各8病院の協力を得ている。

今般、平成7年度の報告を家庭用品専門家会議(危害情報部門)(座長:新村 眞人 東京慈恵会医科大学皮膚科教授)において検討し、その結果を以下のとおりとりまとめた。

報告結果

 平成7年度の報告件数は1, 045件であり、そのうち皮膚科領域の報告は242件、小児科領域の報告は803件であった。前年度は皮膚科283件、小児科671件であり、皮膚科領域の報告件数は減少し、小児科領域の報告件数は増加した。
また、皮膚科領域においては、複数の家庭用品が原因と考えられた報告が含まれており、家庭用品の種類別の集計では、おのおの別個に計上しているため、のべ報告件数は274件となった。
なお、これらの健康被害は、患者主訴、症状、その経過及び発現部位等により家庭用品によるものであると推定されたものであるが、因果関係が明白でないものも含まれている。

1. 皮膚科

(1)平成7年度の動向

@ 原因と推定された家庭用品をカテゴリー別に見ると、前年度同様、装飾品等の「身の回り品」の報告件数が最も多く101件であり、次いで、スポーツ用品等の「その他」が76件であった。全報告件数に対する各カテゴリー別の割合は、「家庭用化学製品」が前年度より約9%減少している(表1)

 なお、「衣料品」の割合は、昭和62年度から平成元年度にかけて18%〜20%で推移していたが、その当時に比べると、近年はその割合が低下している。

A 家庭用品の種類別では「装飾品」が56件(20%)で最も多く、次いで「洗剤」が48件(18%)、「時計バンド」が27件(9.9%)、「ゴム手袋・ビニール手袋」が25件(9.1%)、「スポーツ用品」が18件(6.6%)の順であった(表3)。

B 平成7年度の報告件数上位10品目については、[装飾品」、「時計バンド」、「ゴム手袋・ビニール手袋」、「スポーツ用品」等に関する報告が、前年度より全報告件数に占める割合が増加している。一方、「洗剤*」、「ナイロンタオル」、「めがね」及び「洗浄剤**」に関する報告は、その割合が減少している。

C 上位10品目の全報告件数に占める割合について、長期的な傾向をみると、「洗剤」の割合が減少傾向にある一方、「装飾品」の割合が増加傾向を示している(図1)。

(2)要因別の解析

@ 患者の性別では女性が182件(75%)と大半を占め、特に20代の女性が68件と全体の28%を占めた。これは例年と同様の傾向である。

A 障害の種類としては、「アレルギー性接触皮膚炎」が138件(57%)と最も多く、次いで「湿潤型の手の湿疹」33件(14%)、「刺激性皮膚炎」32件(13%)、「KTPP*型の  手の湿疹」23件(9.5%)の順であった。

B 症状の転帰については、「全治」と「軽快」を合計すると154件(64%)であった。なお、「不明」が68件(28%)あったが、このように「不明」が多い理由としては、症状が軽快した場合、患者自身の判断で受診を打ち切り、途中から受診しなくなることがあるためと考えられる。

(3)原因製品別考察

1)装飾品

@主な報告事例

 ◎事例1【原因製品:イヤリング】

 ◎事例2【原因製品:イヤリングのゴム】

A考察

 平成7年度における装飾品に関する報告件数は56件(20%)であり、前年度64件(20%)と同様であった(表3)。

 性別・年齢別の報告件数では、20代女性が31件(55%)と最も多く、前年度(48%)と同様であったが、10代女性は5.3%であり、前年度(16%)より減少している。

 原因製品別の内訳は、ネックレスが15件、ピアスが12件、イヤリングが12件、指輪が2件、これらの複数が原因と考えられるものが13件であり、その他の製品は2件であった。

 障害の種類は、アレルギー性接触皮膚炎がその大半(95%)を占めた。

原因となった素材は、1例(イヤリングのクリップのゴム部)を除いてすべて金属であった。

 金属が原因とされるもののうち、パッチテストを行っているものが30件報告されており、その中では、前年度同様、ニッケルが原因と考えられるものが最も多かった(表2)。

 金属が汗に溶けて症状が発現すると考えられるので、防止策としては、汗を大量にかくような運動をする際には装飾品類をはずすことが望ましい。特に、ピアスは耳たぶ等に穴を開けて装着するなど、装着方法が他の製品と異なり、表皮より深部と接触する可能性が高いため、アレルギー症状の発現などに対して、より一層注意が必要である。また、症状が発現した場合には、専門医の診療を受けるとともに、原因製品の装着を避けることや、別の素材のものに変更することなどが必要である。

なお、パッチテストにおいて、チタンで陽性になった事例が1例あったが、この事例については被験物質中に含まれる他の物質に対する反応の可能性があることから、チタンとの因果関係は不明である。

2)洗剤

@主な報告事例

 ◎事例1【原因物質:洗濯用洗剤】

 ◎事例2【原因物質:台所用洗剤】

A考察

 平成7年度における洗剤に関する報告件数は48件(18%)であり、前年度75件(24%)より減少している(表3)。

 原因製品が判明しているもののうち、原因製品別の内訳は、洗濯用洗剤が20件(このうち内容成分が判明しているものは17件で、すべて合成洗剤)、台所用洗剤が16件(このうち内容成分が判明しているものは14件で、すべて合成洗剤)であった。

 障害の種類は、湿潤型の手の湿疹が31%、刺激性皮膚炎及びKTPP型の手の湿疹がそれぞれ27%を占めている。KTPP型手の湿疹は、前年度(51%)より減少している。

 症状の発現には、洗剤成分以外にも皮膚の状態、たわしの使用等による物理的刺激、洗剤の使用濃度、季節、水仕事の頻度等、様々な要因が複合的に関与しているものと考えられる。

 防止策としては、使用上の注意・表示をよく読み、希釈倍率に注意する等、正しい使用方法を守ることが必要である。また、使用に際しては、保護手袋を着用することや、使用後保護クリームを塗ることなどの工夫も必要と思われる。

3)時計バンド

@主な報告事例

 ◎事例1【原因製品:腕時計バンド(金属製)】

 ◎事例2【原因製品:腕時計バンド(革製)】
A考察

 平成7年度における時計バンドに関する報告件数は27件(9.9%)であり、前年度24件(7.6%)より増加している(表3)

 原因となった素材別の内訳は、金属バンド14件、革バンド8件、ゴムバンド2件、革及び金属バンド1件、不明2件であった。

 このうち、10件についてパッチテストを行っており、金属バンドが原因とされる症例では8件についてその結果が報告されている。その中では、ニッケルが原因の1つと考えられるものが最も多く、次いで、コバルト、クロムであった。

 障害の種類は、アレルギー性接触皮膚炎が26件(96%)と大半を占めた。

 防止策としては、症状が発現した場合には、別の素材のものに変更することなどが必要である。また、金属バンド等でアレルギー症状が発現した場合には、イヤリング、ピアス、ネックレス等の他の金属製品についても注意することが必要である。

4)スポーツ用品

@主な報告事例

 ◎事例1【原因製品:ゴルフクラブ】

 ◎事例2【原因製品:水泳用ゴーグル】

A考察

 平成7年度のスポーツ用品に関する報告件数は18件(6.6%)であり、前年度9件(2.8%)より増加している(表3)

 原因製品別の内訳は、水泳用またはスキー用ゴーグルが6件、ゴルフクラブが6件、ゴルフ用またはラケットボール用手袋が5件、リストバンドが1件であった。そのうち、水泳用ゴーグルに使用された曇り止めスプレーが原因の1つと考えられた事例が1件あった。

 障害の種類は、18件中11件がアレルギー性接触皮膚炎であり、その大半はゴム(合成ゴムを含む)が原因であると考えられる。なお、スポーツ用品に使われている接着剤が原因となる場合もあることから、注意が必要である。

 スポーツ用品は、運動による発汗時の使用を前提としている製品であるので、製造業者においては、製品開発に当たって特に厳格な安全性の確認が望まれる。また、健康被害が発症した場合は、専門医の診療を受け、指示に従うことが必要である。

5)その他

その他、携帯用カセットプレーヤーのイヤホーンによる健康被害が報告されている。

 ◎事例1【原因製品:イヤホーン】

(4)全体について

 家庭用品を主な原因とする皮膚障害は、原因家庭用品との接触によって発生する場合がほとんどであり、家庭用品を使用することによって接触部位に痒み、湿疹等の症状が発現した場合には、原因と考えられる家庭用品の使用を極力避け、様子をみることが必要である。症状がおさまった後、再度使用して同様の症状が発現する場合には、同一の素材のものの使用は以後避けることが賢明であり、症状が改善しない場合には、専門医の診療をうけることが必要である。

また、使用前には必ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることや、自己の体質について認識し、製品の素材について注意を払うことも大切である。

2. 小児科

(1)平成7年度の動向

 @ 小児の誤飲事故の原因製品としては、「タバコ」が433件(54%)で最も多く、次いで「医薬品・医薬部外品」が92件(11%)、「玩具」が34件(4%)、「硬貨」が22件(3%)、「プラスチック・容器片」が19件(2%)であった(表4)

平成7年度の報告件数上位10品目までの原因製品のうち、上位4品目の順位は前年度までと同様であり、そのうち上位2品目については、小児科のモニター報告が始まって以来変わっていない。

また、それ以外の原因製品においても、順位の変動はあるものの、第5位以下の6品目のなかに前年度と同じ品目が4品目含まれている。

A 平成7年度の報告件数上位10品目については、「タバコ」、「玩具」、「プラスチック・容器片」、「体温計」及び「乾燥剤」に関する報告の全報告件数に占める割合が、前年度より増加している。一方、「医薬品・医薬部外品」、「硬貨」、「食品」、「化粧品」及び「電池」に関する報告は、その割合が減少している(表4)

 B 上位品目の全報告件数に占める割合について、長期的な傾向をみると、「タバコ」の割合が増加傾向にあり、その他はほぼ横ばいとなっている(図2)。

(2)要因別の解析

@ 発現症状については、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の「消化器症状」が認められたものが78件(10%)と最も多く、次いで咳、喘鳴等の「呼吸器症状」が認められたものが33件(4%)となっている。これらを含め、症状の発現がみられたものは全体で140件(17%)であった。事故後、摘出術等が必要であることから「入院」、「転科」及び「転院」となったものは24件であった。それ以外で、転帰が不明以外のものは全て「帰宅」していることから、重篤な事例は少なかった。

A 誤飲時の保護者の処置としては、吐かせる、水を飲ませる等の応急処置を行った事例が346件(43%)あったが、その中には、水または牛乳を飲ませてはいけないと考えられる事例(タバコの葉または吸殻の誤飲時)で、水または牛乳を飲ませたり、吐かせてはいけない事例(灯油の誤飲時)で吐かせたという不適切な処置もあった。

B 誤飲事故発生時刻については、435件(54%)が午後5時から午後11時の間に発生しており、さらに、このうち、357件(44%)が、夕食時をはさんだ団らんの時間帯である午後6時から午後10時の間に発生しており前年度と同様の結果であった。この中で、「タバコ」の誤飲事故については、小児が起きている時間帯(午前7時〜午後10時)でほぼ一定して発生している(図3)。

 また、タバコの誤飲事故発生曜日については、156件(36%)が、土曜日及び日曜日に発生しており、前年度と同様の結果であった。

C 平成7年度の報告では、食品の誤嚥事故の報告が17件(2%)あったが、平成5年度に報告されたピーナッツの誤嚥事故のような死亡例はなかった。

D 平成7年度の報告では、ミルクを日本酒に溶いて飲ませたり、漂白剤を含む水などに溶いて飲ませたといった保護者の過失による誤飲事故の報告がみられた。

(3)原因製品別考察

1)タバコ

@主な報告事例

 ◎事例1【原因製品:タバコ】

 ◎事例2【原因製品:タバコ吸殻】
 ◎事例3【原因製品:タバコを浸した溶液】

A考察

 平成7年度におけるタバコに関する報告件数は433件(54%)であり、前年度345件(51%)をやや上回り、全報告の半数以上を占めている(表4)

年齢については、ハイハイやつかまり立ちをする6〜11ヶ月の乳児による事故が320件(74%)であり、12〜17ヶ月の幼児とあわせると93%を占めた。この中には、保護者が近くに居ながら発生した事例も多くみられた。

症状の認められた66件中、消化器症状が認められていたものが46件と最も多かったが、433件中特に重篤な事例はなく、ほとんどが受診後帰宅している。

応急処置を行った事例は、220件(51%)であり、何も飲ませずに「吐かせた」及び「吐かせようとした」事例が、あわせて121件と最も多かった。

 タバコの誤飲事故の大半は、自分で動き回り始める1歳前後の乳幼児にみられることから、この年齢の子供をもつ保護者は、タバコ、灰皿及び灰皿に使用した飲料の空き缶等を、子供の手の届く床の上やテーブルの上等に放置しないことなど、その取り扱いや置き場所に細心の注意を払うことが必要である。

2)医薬品・医薬部外品

@主な報告事例

 ◎事例1【原因製品:抗てんかん薬】

 ◎事例2【原因製品:外傷用殺菌消毒剤 】
A考察

 平成7年度における医薬品・医薬部外品に関する報告件数は92件(11%)であり、前年度86件(13%)とほぼ同様であった。

 症状の認められた13件中、6件について傾眠、意識障害などの神経症状が認められている。入院を必要とした事例は、7件であったが、重症例はみられていない。

 年齢については、前年度同様各年齢層においてみられているが、特に1〜2歳児にかけて多くみられている(76%)。

 原因となった医薬品・医薬部外品の内訳は、解熱鎮痛剤が12件で最も多く、次いで循環器用剤、一般風邪薬及び精神安定剤がそれぞれ8件、胃腸薬・下剤が7件となっており、一般の家庭に常備されている医薬品・医薬部外品による事故が多く発生している。

 医薬品・医薬部外品の誤飲事故の大半は、医薬品の保管を適切に行っていなかった場合や保護者が目を離したすきに発生していることから、家庭内での保管・管理には十分注意する必要がある。

 また、ゴキブリ駆除用のホウ酸ダンゴや、雛人形等の保管時に使用している防虫剤などを誤って食べた事例もみられていることから、これらについても子供の目につかない場所や手の届かない場所に保管するなどの配慮が必要である。

3)玩具

@主な報告事例

 ◎事例1【原因製品:ボタン型電池】

 ◎事例2【原因製品:プラスチック製の玩具】

A考察

 平成7年度における玩具に関する報告件数は34件(4.2%)であり、前年度25件(3.7%)より増加している。

 年齢については、3〜5歳児が11件(32%)で最も多く、次いで2歳児が9件であった。

 玩具の誤飲事故の大半は、遊んでいたものを口に入れてしまった場合に発生している。重篤な症状がみられた事例はなかったものの、玩具等に使用するボタン電池の誤飲事故にみられるように、正常な使用時においても、電池のフタが何らかの理由で開き、中の電池が簡単に取り出すことができたために起こっている事例もある。

 製造物責任法の施行に伴い、様々な誤飲防止対策を施した玩具が販売されているが、特に口に入る大きさのもので子供が遊んでいるときには、誤飲する可能性が考えられることから、保護者は目を離さないように注意する必要がある。

4)その他

@主な報告事例

 ◎事例1【原因製品:磁石】

 ◎事例2【原因製品:プラスチックフィルム片】

 ◎事例3【原因製品:こんにゃく】

 ◎事例4【原因製品:日本酒】

A考察

 平成7年度では、特に重篤な症例はみられなかった。しかし、ゴボウ、こんにゃく等の食品による誤嚥事故は発生しており、その大半において、食品が気道に詰まったなどの呼吸器症状(8件)、アルコール飲料等による循環器症状(3件)等、何らかの症状が認められた。

 食品類による誤嚥事故中、特に気道へ詰まらせた場合には、重篤な症状を引き起こすことがある。ピーナッツや枝豆は、気道に入りやすい大きさ、形状及び堅さを有しているので、特に2歳未満の乳幼児においては、誤嚥事故の原因となりやすい。しかもこのような食品は、気道に入った場合、摘出が困難であるため十分注意をする必要があり、乳幼児に食べさせること自体禁忌とされている。

 また、平成7年度の報告では、子供にミルクを与えるときに、日本酒または漂白剤を薄めた液で溶いて与えてしまった事例があった。アルコール飲料の誤飲事故では循環器症状がみられたり、漂白剤の誤飲事故では化学熱傷を起こすことがあることから、保護者自身が十分注意する必要があり、子供にミルクなどを与える前には親が確認することも必要と思われる。

 その他、重篤な症例ではないが、猫の糞や観葉植物などの誤飲事故が起こっていることなどから、家庭内外にあるものは、そのほとんどが子供の誤飲の対象物となる可能性があり、子供のいる家庭においては保護者の配慮が必要である。

 また、平成7年度の報告にはなかったが、こんにゃくゼリーの誤嚥による死亡事故が発生している。こんにゃくのようなものは、噛み切りにくく、いったん気道へ詰まってしまうと、重篤な呼吸器障害につながるおそれもある(事例3)。

 さらに、誤飲後、誤飲製品が胃内まで到達すれば、いずれ排泄されると考えられることから問題はないとする考え方もあるが、ボタン型電池が腸内壁に張り付き穿孔してしまったり、硬貨が胃内から排泄されない場合もあることから、確実に排泄されたことを確認することが必要である。

 その他、平成7年度の報告の中には、事例2のようにプラスチックフィルム片等の誤飲事故の報告も5件あった。プリン容器のフタやプラスチックフィルム片など、子供が口の中に入れて噛んでるうちに飲み込んでしまうことがあり、これらが気道を塞ぎ呼吸困難など重篤な結果をまねくおそれがあることから、子供がプラスチックフィルム片等を手にしないよう保護者は十分配慮することが必要である。

(4)全体について

 前年度同様、子供の誤飲事故は、午後5時から午後10時の間の家族の団らんの時間帯に頻発している。保護者が近くにいる・いないに関わらず、乳幼児は、身の回りのものを分別なく口に入れてしまうので、乳幼児のいる家庭では、乳幼児の手の届く範囲には極力物を置かないようにすることが必要である。特に、歩き始めた子供は行動範囲が広がることから注意を要する。また、食品類であっても、状況次第では非常に危険なものになるということを保護者は認識し、子供の周囲の環境に気を付けなければならない。

 さらに前年度同様、兄弟・姉妹に誤飲事故歴があったり、患児自身に誤飲事故歴があったりと、同一家庭内で繰り返し誤飲事故が発生している事例が多いことから、このような家庭では、保護者の認識や生活習慣にも問題があると思われるので、保護者は意識を向上させ、生活習慣の改善に努力することが必要である。

 誤飲時の応急処置は、症状の軽減や重篤な症状の発現の防止に役立つので重要な行為である。しかし、保護者が誤った処置をしている事例もみられていることから、応急処置に関して正しい知識を持つことが重要である。

 なお、平成8年度には、(財)日本中毒情報センターにより、小児の誤飲事故防止に係る啓発パンフレットが作成され、全国の保健所あて送付されている。

おわりに

 本モニター報告は平成7年度で17回目となったが、報告件数において上位を占める家庭用品の種類は、ここ数年ほとんど変動していない。しかし、そうした中でも、皮膚科領域における装飾品による金属アレルギーの増加やスポーツ用品による皮膚障害の増加など時代に応じた変化が現れている。

 現在のモニター報告は、治療を目的に来院する患者から原因と思われる家庭用品について情報を収集するシステムであるため、その家庭用品に含まれる化学物質を特定することは、必ずしも容易ではない。

 しかしながら、時代に応じて快適な生活を求める消費者ニーズに応えるため、新しい化学物質や素材が家庭用品に次々と使用されてきていることから、常にその情報を入手し、新たに生じる問題点を早急に発見することが必要である。また、最近では、抗菌剤を使用した家庭用品や、コンパクト洗剤などの新製品が数多く出回っていることから、その安全性については引き続き注目していく必要がある。

 家庭用品による健康被害を未然に防止するためには、消費者が使用上の注意をよく読み、製品情報に注意するとともに、自己の体質を認識したり、子供が誤飲しないように周囲の環境に配慮することが必要である。また、事業者は、製造物責任法の施行に伴い、製品の供給に先立って安全性の確認を行いより安全な製品の供給に努めるとともに、販売時には製品の適切な使用方法について、消費者に確実に伝えるよう努めることが必要である。


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