平成8年9月
照会先 厚生省生活衛生局企画課 生活化学安全対策室
電話 3503-1711
(内2423,2426)
直通 3595-2298
家庭用品に係る健康被害病院モニター報告(平成7年度)
(要旨)
1.経緯
標記病院モニター報告制度は、各種家庭用品に係る消費者の健康被害事例を継続的かつ広範に収集し、健康被害の実態を把握するとともに、家庭用品の安全対策を一層推進することを目的として、昭和54年より慶應大学病院等の協力を得て実施しているものである。今般、平成7年度の報告を家庭用品専門家会議(危害情報部門)(座長:新村眞人 東京慈恵会医科大学皮膚科教授)において検討し、その結果を以下のとおりとりまとめた。
2.概要
本制度は、モニター病院(皮膚科、小児科各8施設)の医師が家庭用品による健康被害と思われる事例について、厚生省に報告する方法により行っているものである。
平成7年度の報告件数は、皮膚科242件、小児科803件で合計1,045件であった。なお、死亡事例は報告されていない。
(1)皮膚科
@健康被害の概要
- 原因家庭用品上位5品目は、装飾品が56件、洗剤が48件、時計バンドが27件、ゴム手袋・ビニール手袋が25件、スポーツ用品が18件であり、スポーツ用品による健康被害が増加傾向にある。
- 患者の性別では、女性が182件(75%)と大半を占め、特に20代の女性が68件と全体の28%を占めた。これは例年と同様の傾向である。
- 障害の種類としては、「アレルギー性接触皮膚炎」がもっとも多く、次いで「湿潤型の手の湿疹」、「刺激性皮膚炎」等がみられた。
A原因製品別考察
(装飾品)
- 装飾品に関する報告件数は56件であり、前年度第2位であったものが、平成7年度は第1位となった。
- 製品別の内訳は、ネックレスが15件、ピアス、イヤリングが12件、指輪が2件、これらの複数が原因と考えられるものが13件であり、その他の製品は2件であった。
- 障害の種類は、アレルギー性接触皮膚炎がその大半を占めた(95%)。
- 金属が原因とされるもののうち、パッチテストを行っているものが30件報告されており、その中では、ニッケルが原因と強く疑われるものが最も多かった。
- 防止策としては、汗を大量にかくような運動をする際には装飾品類をはずすことが望ましい。また、症状が発現した場合には、専門医の診療を受けるとともに、原因製品の装着を避けることや別の素材のものに変更することが必要である。
(洗剤)
- 洗剤に関する報告件数は48件であり、前年度第1位であったものが、平成7年度は第2位となった。
- 製品の内訳は、洗濯用洗剤が20件、台所用洗剤が16件であった。
- 障害の種類は、湿潤型手の湿疹が31%、刺激性皮膚炎及びKTPP型手の湿疹がそれぞれ27%を占めた。
- 防止策としては、使用上の注意・表示をよく読み、希釈倍率に注意する等正しい使用方法を守ることが必要である。また、使用に際しては、保護手袋を装着することや、使用後保護クリームを塗ることなどの工夫も必要と思われる。
(時計バンド)
- 時計バンドに関する報告件数は27件であり、前年度第4位であったものが、平成7年度は第3位となった。
- 素材別の内訳は、金属バンドが14件、革バンドが8件、ゴムバンドが2件、革及び金属バンドが1件であった。
- 障害の種類は、アレルギー性接触皮膚炎が26件とその大半を占めた。
- 金属バンドが原因とされる症例では、8件についてパッチテストが行われ、その中では、ニッケルが原因と強く疑われるものが最も多かった。
- 防止策としては、別の素材のものに変更することが必要である。
(スポーツ用品)
- スポーツ用品に関する報告件数は18件であり、前年度より増加している。
- 障害の種類は、11件がアレルギー性接触皮膚炎であり、ゴム(合成ゴムを含む)による健康被害と考えられるものが大半であった。
- スポーツ用品は運動による発汗時の使用を前提としている製品であることから、製造業者においては、製品開発時に特に厳格な安全性の確認が必要である。また、健康被害が発現した場合は、専門医の診療を受け、指示に従うことが必要である。
B全般的な留意事項
家庭用品を主な原因とする皮膚障害は、原因家庭用品との接触によって発生する場合がほとんどであり、家庭用品を使用することにより接触部位に痒み、湿疹等の症状が発現した場合には、原因と考えられる家庭用品の使用を極力避け、様子をみることが必要である。再度使用して同様の症状が発現する場合には、同一の素材のものの使用は避けることが賢明であり、症状が改善しない場合には、専門医の診療をうけるこ とが必要である。
また、使用前には必ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることや、自己の体質について認識し、製品の素材について注意を払うことも大切である。
(2)小児科
@健康被害の概要
- 誤飲事故の原因製品上位5品目は、タバコが433件、医薬品・医薬部外品が92件、 玩具が34件、硬貨が22件、プラスチック・容器片が19件であった。
- 上位品目の全件数に占める割合の長期的傾向を見るとタバコが増加傾向にあり、その他はほぼ横ばいとなっている。
- 誤飲事故は、例年同様午後5時から午後11時の間に多く発生しており全体の54%を占めている。
A原因製品別考察
(タバコ)
- タバコに関する報告件数は433件であり、前年度同様、小児科報告件数の半数以上を占めた。
- 6〜11カ月の乳児による事故が74%であり、12〜17カ月の幼児とあわせると96%を占めていた。
- 防止策としては、タバコ、灰皿及び灰皿に使用した飲料の空き缶等を乳幼児の手の届かないところに保管するなど、取り扱いや置き場所に注意を払うことが必要である。
(医薬品・医薬部外品)
- 医薬品・医薬部外品に関する報告は92件であり、前年度同様第2位であった。
- 誤飲事故は、各年齢層においてみられているが、特に1〜2歳児に多くみられている。
- 誤飲事故の大半は、医薬品等の保管を適切に行っていない場合や保護者が目を離したすきに発生していることから、保管・管理には十分留意する必要がある。
- ゴキブリ駆除用のほう酸ダンゴや衣類用防虫剤を誤って食べた例もみられていることから、子供の目の届かない場所に設置する等の配慮が必要である。
(玩具)
- 玩具に関する報告件数は34件であり、前年度に比べて増加している。
- 3〜5歳時が11件と最も多く、次いで2歳時が9件であった。
- 誤飲事故の大半は、遊んでいたものを口に入れてしまった場合に発生している。また、平成7年度報告では、重篤な症例はなかったものの、正常な使用時においても電池の蓋が開き、中の電池が簡単に取り出すことができたために起こっている事例もある。
- 近年、様々な誤飲防止対策を施した製品が販売されているが、子供が口に入るような大きさのもので遊んでいる時には、保護者は目を離さないよう注意する必要がある。
(プラスチックフィルム片)
- 製品の包装やプリンの蓋などのプラスチックフィルム片を誤飲した事例が報告されている。
- 誤飲した際に気道を閉塞することにより呼吸困難などの重篤な事故を引き起こす可能性があることから、これらの後始末には十分に注意する必要がある。
(酒・漂白剤)
- ミルクを調製する際に日本酒や漂白剤を薄めた溶液でミルクを溶かし、乳児に与えた事例が報告されている。
- 報告では重篤な症例はみられていないが、酒の誤飲事故では循環器症状を、漂白剤の誤飲事故では化学熱傷を起こすことなどが考えられることから、保護者は細心の注意をはらい確認ののち乳児に与えることなどが必要である。
B全般的な留意事項
乳幼児は、身の回りのあらゆるものを分別なく口に入れてしまうことから、保護者は子供の周囲の環境に気を付けなければならない。食品類であっても状況次第では危険なものになるということを認識する必要がある。
また、前年度同様、兄弟姉妹や患児自身に誤飲事故歴があるなど同一家庭内で繰り返し誤飲事故が発生している事例も見られることから、生活習慣の改善も必要と思われる。
3.おわりに
本モニター報告の報告件数において上位を占める家庭用品の種類は、ここ数年ほとんど変わっていない。そうした中でも、皮膚科領域における金属アレルギーやスポーツ用品による皮膚障害の増加など時代に応じた変化が現れている。
家庭用品に起因する健康被害を防止するためには、消費者が製品情報に注意すること及び事業者が製品の供給に先だって安全性の確認を十分に行い、安全な製品の供給に努めるとともに、販売時には製品の適切な使用方法について、確実に消費者に伝わるよう努力することが必要である。
また、最近では家庭用品の分野にも新しい製品が登場するようになり、使用の歴史が浅いものも数多く出回っていることから、その安全性については、引き続き注目していく必要がある。
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