米国疾病予防管理センター(US CDC)からのノロウイルス関連情報
http://www.cdc.gov/


2000年近傍と2010年近傍のオーストラリアでの食品由来疾患
Foodborne Illness, Australia, Circa 2000 and Circa 2010
Emerging Infectious Diseases
Volume 20, Number 11―November 2014, 1857-1864
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/20/11/pdfs/13-1315.pdf
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/20/11/13-1315_article

(食品安全情報2015年3号(2015/02/04)収載)


要旨

 食品由来疾患は世界的に重要視されている公衆衛生上の主要な課題の一つである。オーストラリアでの食品由来疾患の推移を調べるため、2010年近傍の状況について汚染食品に起因する罹患者数、入院患者数、および死亡者数を推定し、2000年近傍の状況について再推定を行った。全胃腸炎患者の約25%が汚染食品を原因として発症していた。不確実性の程度を示すためにシミュレーション法を用いて90%信用区間(CrI:credible interval)を推定した。食品由来胃腸炎患者は、2010年近傍には410万人、2000年近傍には430万人が1年間に発生したと推定された。2010年近傍については、汚染食品を原因として1年間に発生したのは、胃腸炎関連では入院患者30,840人および死亡者76人、非胃腸性疾患では患者5,140人と推定された。2010年近傍のサルモネラ症およびカンピロバクター症患者数はどちらも2000年近傍に比べて増加しており、また、これら2疾患は胃腸炎関連入院の主たる原因となっていた。食品由来疾患関連の死亡の主な原因は、リステリア(Listeria monocytogenes)および非チフス性サルモネラ属菌感染であった。オーストラリアでは食品由来疾患の罹患者数は全体的に徐々に減少しているが、食品由来胃腸炎患者は依然として頻繁に発生している。


背景

 オーストラリアでは2000年に食品由来疾患の罹患者数、入院患者数、および死亡者数が推定され、これらの被害は年間12.5億オーストラリアドルに相当すると見積もられた。しかし2000年以降、サーベイランスが大幅に改善され、より多くのデータが入手可能となり、また、分析手法がより洗練されたものになっている。オーストラリアでの現在の公衆衛生上の決定や政策に役立てるため、本研究では2010年近傍(2006〜2010年)のオーストラリアの状況について、新しい方法論やデータを用い感染性胃腸炎の罹患者数、入院患者数、および死亡者数を推定した。さらに2つの異なる時期に関する推定結果の間の直接比較を可能にするために、この新しい方法論を2000年近傍(1996〜2000年)に関するデータに適用した。


結果

罹患者数

○2010年近傍の食品由来胃腸炎

 2010年近傍について推定した結果、オーストラリアでは食品由来胃腸炎の国内感染患者が年間410万人(90% CrI [230〜640])発生していた。この年間罹患者数のうち、胃腸炎の病因物質として既知の18種類の病原体のいずれかが原因で発生した患者は80万人で、残りの330万人は病因物質が不明の患者であった(表1)。病原性大腸菌、ノロウイルス、カンピロバクター属菌および非チフス性サルモネラ属菌が食品由来胃腸炎の原因として最も高頻度に寄与した病原体で、それらを合計すると、病原体が明らかになった食品由来胃腸炎の93%の原因となった。

○2010年近傍の食品由来非胃腸性疾患

 2010年近傍のオーストラリアで、汚染食品は、食品由来胃腸炎に加え、推定で年間5,140人(90% CrI [3,530〜7,980])の非胃腸性疾患患者の原因になった(表2)。最も多かった食品由来非胃腸性疾患はトキソプラズマ症で、年間3,750人(90% CrI [1,400〜7,150])の患者が発生していた。非胃腸性の病因物質による疾患に食品由来が占める割合は、A型肝炎の12%からスコンブロトキシン中毒(scombrotoxicosis)およびシガテラ(ciguatera)中毒の100%までさまざまであった。

○2010年近傍と2000年近傍についての推定値の比較

 食品由来の罹患者数を求めるための、改定された乗数(25%)を含む新しい推定方法を2000年近傍のデータに適用して再推定を行った結果、2000年近傍の食品由来胃腸炎患者数は年間430万人(90% CrI [220〜730])と推定された。これを罹患率に換算すると人口100万人あたり224,000人(90% CrI [116,000〜374,000])となった。2010年近傍の罹患率(人口100万人あたり186,000人、90% CrI [105,000〜289,000])をこの値と比較すると、90%信用区間に1が含まれるものの、2000年近傍から2010年近傍の間に食品由来胃腸炎の罹患率が17%低下したことが示された(罹患率比(RR)= 0.83、90% CrI [0.4〜1.8])。極めて重要な胃腸病原体に関する2000年近傍の推定値について同様に再推定を行ったところ、食品由来サルモネラ症の年間罹患者数は28,000人(90% CrI [15,000〜50,000])、罹患率は人口100万人あたり1,500人(90% CrI [800〜2,700])で、食品由来カンピロバクター症の年間罹患者数は139,000人(90% CrI [82,500〜227,000])、罹患率は人口100万人あたり7,400人(90% CrI [4,500〜12,200])となった(表3)。2010年近傍の罹患率を2000年近傍の罹患率と比較すると、90%信用区間に1が含まれるものの、食品由来サルモネラ症では罹患率比が1.24(90% CrI [0.5〜2.8])で、食品由来カンピロバクター症では1.13(90% CrI [0.5〜2.3])であった。これらのCrIは罹患者数を推定するためのいくつかの乗数に由来する不確実性を含み、サーベイランスの生データ間の比の場合のCrIより大幅に広かった。

入院患者数

 2010年近傍について、食品由来胃腸炎での年間入院患者数は30,600人(90% CrI [28,000〜34,000])、食品由来非胃腸性疾患での年間入院患者数は240人(90% CrI [180〜350])と推定された(表4)。食品由来胃腸炎による入院患者のうち約5,900人について原因病原体が明らかになり、カンピロバクター属菌および非チフス性サルモネラ属菌が最多の原因病原体であった。また食品由来非胃腸性疾患による入院患者ではリステリアが第1位の原因病原体であった。食品由来胃腸炎による年間入院患者のうち残りの24,700人については病因物質が不明であった。

死亡者数

 2010年近傍について、食品由来胃腸炎での年間死亡者数は60人(90% CrI [53〜63])、食品由来非胃腸性疾患での年間死亡者数は16人(90% CrI [10〜21])と推定された(表4)。死亡に至った疾患の原因のうち最も多く特定されたのは非チフス性サルモネラ属菌およびリステリアで、両病原体が原因で発生した食品由来疾患関連の年間死亡者数はそれぞれ15人と推定された。病因物質が不明の食品由来胃腸炎が寄与因子となって発生した死亡者は年間39人に上ると推定された。


表1:国内感染胃腸炎の推定罹患者数(オーストラリア、2010年近傍)*
   *オンライン技術詳細4(Technical Appendix 4)を参照
   CrI:credible interval(信用区間)、STEC:志賀毒素産生性大腸菌


表2:国内曝露の食品由来急性非胃腸性疾患の推定罹患者数(オーストラリア、2010年近傍)*
   *オンライン技術詳細4(Technical Appendix 4)を参照


表3:食品由来胃腸炎と主要な食品由来病原体の推定年間罹患者数および推定罹患率-2000年近傍と2010年近傍の比較(オーストラリア)*
   *オンライン技術詳細4(Technical Appendix 4)を参照
   RR:rate ratio(率比)


表4:国内曝露の食品由来病原体、寄生生物および疾患による年間の入院患者および死亡者の推定数(オーストラリア、2010年近傍)
   *オンライン技術詳細3(Technical Appendix 3)を参照
   ICD-10-AM:国際疾病分類(ICD)第10版のオーストラリア版


(関連記事)

Australian Government, Department of Health
Foodborne illness in Australia: Annual incidence circa 2010
23 October 2014
http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/ohp-foodborne-illness-aust



国立医薬品食品衛生研究所安全情報部