オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)からのノロウイルス関連情報
http://www.rivm.nl/


オランダでの各種感染症の発生状況(2013年)
State of infectious diseases in the Netherlands, 2013
2014-10-01
http://www.rivm.nl/bibliotheek/rapporten/150205001.pdf (報告書PDF)
http://www.rivm.nl/bibliotheek/rapporten/150205001.html

(食品安全情報2014年25号(2014/12/10)収載)


 オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)は、オランダでの2013年の感染症の発生状況に関する報告書「State of Infectious Diseases in the Netherlands, 2013」を発表した。

 本報告書では毎年1つのテーマが特集として取り上げられる。今回の特集テーマは疾患実被害の推定である。すなわち、感染症によりどの位の健康生活が失われているかという問題である。胃腸感染症などの感染症は住民に頻繁に発生するが、重症化するケースは少ない。一方、破傷風などのように発生は稀であっても死亡リスクの高い感染症もある。公衆衛生において、疾患による病的状態と疾患による早期死亡を統合して疾患ごとに単一の数値とした尺度が障害調整生存年(DALY:Disability Adjusted Life Year)である。本報告書では、32種類の感染症について、2007〜2011年のオランダにおける疾患実被害を推定した。


[以下に本報告書の第2、3章の一部を紹介する。]

第2章:2013年のオランダでの各種感染症の発生状況

 表2.1は、2006〜2013年の各年のオランダでの届出義務感染症の届出患者数を示している。


表2.1:オランダでの届出義務感染症の発症年別届出患者数(2006〜2013年)


* オランダでは、届出義務感染症は必要とする法的対策の違いによりグループ分けがなされている。
** 届出患者数ではなく、患者クラスター数である。
a:2008年12月1日までは届出義務がなかったため、2008年は1カ月分の数値である。
b:2013年7月3日までは届出義務がなかった。


○A型肝炎

 現在継続中のA型肝炎ウイルス(HAV)感染アウトブレイクに関連する可能性があるとして、欧州12カ国から2013年1月より1,444人の患者が報告されている。本アウトブレイクは当初はイタリア旅行に関連があるとされていたが、その後、欧州8カ国(フランス、ドイツ、アイルランド、ノルウェー、オランダ、スウェーデン、英国およびフィンランド)は発症前2か月間に国外旅行をしていない患者の発生を報告している。オランダではアウトブレイク株の感染者が15人報告されている。各国における疫学調査および追跡調査では明確な点感染源は特定されず、欧州に継続的に存在している共通の感染源として冷凍ベリー類が示唆された。しかし、食品生産環境での交差汚染や、アウトブレイク株が既に蔓延していたが検出されていなかったなどの他の仮説も否定できない。本アウトブレイクにより、欧州の複数国では感染患者を介した二次感染のリスクがある。


第3章:オランダでの感染症実被害

オランダでの推定年間実被害(2007〜2011年)

 表3.2は、32種類の届出義務感染症のそれぞれについて、各年の届出患者数、推定に使用された係数の種類と値、2007〜2011年の平均の推定年間患者数と推定年間死亡者数を示している。また表3.3は、32種類の感染症のそれぞれについて、オランダでの推定実被害をいくつかの指標(YLD(Years of Life with Disability:障害共存年数)/年、YLL(Years of Life Lost:損失生存年数)/年、DALYs/年、DALYs/新規患者100人)により包括的に示したものである。


表3.2: 2007〜2011年の各年の新規届出患者数、過小推定の補正のために使用された係数(multiplication factors)、および2007〜2011年の平均の推定年間新規患者数と推定年間死亡者数(疾患別)


UE:under-estimation(過小推定)、UA:under-ascertainment(過小把握)、UR:under-reporting(過少報告)



表3.3:各カテゴリーの届出義務感染症の新規患者に係わる2007〜2011年の平均の推定年間実被害(それぞれ平均値と95%信頼区間で表す)


○食品由来疾患

 図3.4は、11種類の食品由来疾患を対象とし、2007〜2011年の新規患者について当該期間の平均の推定年間実被害を示したものである。推定実被害が最も大きかったのはトキソプラズマ症(3,593 DALYs/年)で、以下、カンピロバクター症(3,314)、ノロウイルス感染症(1,647)、サルモネラ症(1,375)の順であった。多くの疾患においてYLLの占める割合は比較的低かった。

 図3.8.は個人レベルでの推定実被害と集団レベルでの推定実被害の関係を示したものである。食品由来疾患の場合、その多くは個人レベルでの疾患実被害が小さい。個人レベルでの疾患実被害が大きい疾患(変異型クロイツフェルトヤコブ病、トキソプラズマ症、リステリア症)では、集団レベルでの疾患実被害が比較的低レベルである(トキソプラズマ症を除いて)。


図3.4:各食品由来疾患の2007〜2011年の新規患者についての推定年間実被害(2007〜2011年の平均値をYLD、YLL別に表示)


図3.8:2007〜2011年における集団レベルでの推定実被害(DALYs/年)と個人レベルでの推定実被害(DALYs/新規患者100人)による各食品由来疾患のランク付け(各疾患のシンボルは、その面積が推定年間患者数に比例している。)


考察

○食品由来疾患

 食品由来疾患では、2007〜2011年の推定年間実被害が最も大きかったのは、トキソプラズマ症(3,593 DALYs/年)、カンピロバクター症(3,314)、ノロウイルス感染症(1,647)、およびサルモネラ症(1,375)であった。これらの疾患の集団レベルでの推定実被害(DALYs/年)が大きかったのは、推定患者数が多かったことが主な原因である。これら4種類の疾患の推定実被害は5年間(2007〜2011年)の平均推定年間患者数にもとづくものであるが、以前に発表された2009年のみを対象とした推定実被害の値(それぞれ順に3,620、3,250、1,480および1,270 DALYs/年)と同レベルであった。食品由来疾患の5年間の平均の個人レベルでの推定年間実被害は変異型クロイツフェルトヤコブ病、トキソプラズマ症およびリステリア症を除いて非常に小さかった(≦17 DALYs/新規患者100人)。

 Havelaarらによる実被害の推定方法(変異型クロイツフェルトヤコブ病と赤痢を除くすべての食品由来疾患に適用)では、一部の食品由来疾患の実被害の算出に疾患の重症化率が不可欠であった。その他の食品由来疾患の場合は、コミュニティでの患者、掛かり付け医を受診した患者、および入院患者について、それぞれの患者数が別個に推定された。後者の方法では、異なる疾患アウトカムについての全国コホート調査の結果(住民調査による患者数、掛かり付け医を受診した患者数、入院患者数)と、検査機関における便検体の検査による異なる病原体への帰属の結果を利用している。重症化率が後者の方法で使用されたのと同じ全国データにもとづく場合は、これら2つの方法は等価である。



国立医薬品食品衛生研究所安全情報部