英国食品基準庁(UK FSA)からのノロウイルス関連情報
http://www.food.gov.uk/


英国食品基準庁(UK FSA)が2013〜2014年の年次科学報告書を発行
FSA annual science report published
17 September 2014
http://www.food.gov.uk/sites/default/files/annual-science-report-13-14.pdf (報告書全文PDF)
http://www.food.gov.uk/news-updates/news/2014/13066/fsa-annual-science-report-published

(食品安全情報2014年24号(2014/11/26)収載)


 英国食品基準庁(UK FSA)は、FSAが2013〜2014年に実施した研究、調査および分析の結果を報告する年次科学報告書(Annual Science Report)を発行した。
 本報告書に取り上げられたトピックスには以下のものが含まれている。

  • 食品由来疾患を低減させるためのFSAの取組み
  • 食物アレルギーおよび不耐症に関するFSAの活動
  • 馬肉混入インシデントへのFSAの対応
  • 食品放射能モニタリングプログラムの総括の結果
 科学はFSAの活動の核心部分である。本報告書は、過去12カ月間にわたるFSAの活動を取り上げ、食品に係る消費者の利益を守るためにFSAが実施した重要な取組みの幅広さを明らかにしている。
 報告書の食品由来疾患に関する部分の一部を以下に紹介する。


疾患実被害

 食品由来疾患は毎年何十万もの人々に被害をもたらしている。食品由来疾患患者はしばしば一般診療医(GP)やその他の臨床医を受診しないことがあるため、検査機関による報告患者数が正確な健康被害を反映しているわけではない。また患者が医療機関を受診した際に、検査用の検体が採取されないことも多い。さらに、検査機関による報告には、食品由来のみでなくすべての感染源による疾患の患者が含まれている。

○実被害の推定

 FSAは、検査機関での確定患者数にもとづき食品由来疾患の実被害の推定およびモニタリングを行うため、感染性胃腸疾患(IID:Infectious Intestinal Disease)に関する第1回調査(IID 1調査)およびイングランド公衆衛生局(UK PHE、前身は英国健康保護庁(HPA))による関連調査の結果を長年にわたり利用してきた。このIID 1調査は、イングランドのみを対象地域として1990年代半ばに実施された。FSAは、本調査の更新および対象地域の拡大の必要性を認識し、2008〜2009年に英国全域を対象としてコミュニティにおける感染性胃腸疾患の第2回調査(IID 2調査)を実施した。2011年に発表された調査結果は、IID2調査では、全国サーベイランスへの感染性胃腸疾患の報告数にIID 1調査の結果と比べていくつかの有意な変化が見られることを明らかにした。また、IID 1調査以降に疾患の重症度と疫学的特徴が変化したことも浮き彫りになった。IID 2調査では、食品を含むすべての感染源に由来する感染性胃腸疾患が対象とされた。しかし、この調査により、食品由来疾患の実被害の算出のためにFSAが用いているモデルには改訂が必要であることが明らかになった。

 そこでFSAは、英国における食品由来疾患の実被害推定の精度向上と、最も多い病原体と原因食品の特定のために、IID2延長調査を実施した。

 IID 2延長調査から、英国で2009年に13種類の病原体のいずれかが原因で発症し、かつ疾患が食品由来であることが特定可能な患者は50万人余りで、GP受診者はこのうちの7万人であったと推定された。これらの推定値にはその他の病原体による患者や病因物質不明の患者は含まれておらず、それらの患者を加えた場合には食品由来疾患患者数は倍増する可能性があることに注意しなければならない。

 図2は、FSAが追跡する5種類の主要な病原体(カンピロバクター、リステリア(Listeria monocytogenes)、大腸菌O157、サルモネラ、ノロウイルス)による疾患の実被害について、IID 2延長調査から推定された病原体別の内訳である。


図2:5種類の主要な病原体による推定疾患実被害(患者数、GP受診者数)への各病原体の寄与割合(2009年、英国)



食品由来疾患の原因食品

 IID2延長調査により、2009年に英国で最も多くの食品由来疾患の原因となった食品は家禽肉で、244,000人(推定)の患者に関連していたことが判明した。その他の重要な原因食品は農産物、牛肉、ラム肉、魚介類、卵などであった。


確定患者報告数の動向

○カンピロバクター

 カンピロバクター症では、感染源のかなりの割合を家禽肉が占めている。2007〜2008年にFSAが実施した調査では、英国の小売用鶏肉の65%がカンピロバクターに汚染されていた。欧州食品安全機関(EFSA)が2008年に欧州全域で実施した調査によると、英国の鶏とたいのカンピロバクター汚染率(86.3%)は欧州で6番目に高かった。

 過去数年の間、検査機関で確定したカンピロバクター症患者数は増加傾向にあった。しかし、2012年に72,629人であった確定患者数は2013年には66,574人(暫定値)とわずかに減少した(図3)。


図3:検査機関で確定したカンピロバクター症年間患者総数(英国、2000〜2013年)



○リステリア(L. monocytogenes

 検査機関で確定した英国のリステリア症患者数は、2000〜2009年の間に年間116人から234人へと倍増した。FSAはこの増加に対処するため、対食品由来疾患戦略(Foodborne Disease Strategy)の一環として2010〜2015年に向けてリステリアリスク管理プログラム(Listeria Risk Management Programme)を策定した。2009年以降、検査機関で確定したリステリア症患者数は全体として減少傾向にあり、2012年の184人が2013年には177人に減少した(図4)。


図4:検査機関で確定したリステリア(L. monocytogenes)症年間患者総数(英国、2000〜2013年)



○ノロウイルス

 2013年、検査機関で確定したノロウイルス感染患者数は減少し、2012年の14,546人から9,328人となった(図5)。この変化は2009年以降にみられた大幅な増減と同等規模で、各年に発生する大規模アウトブレイクの件数に関連している可能性が高く、特定の動向を示しているわけではない。

 全国サーベイランスシステムに報告されたノロウイルス患者の大多数は医療施設で発生したアウトブレイクに関連しており、市中感染によるものではなかった。これらの患者は食品由来感染の可能性が低いと考えられる。


図5:検査機関で確定したノロウイルス感染年間患者総数(英国、2005〜2013年)



○大腸菌O157

 検査機関で確定した大腸菌O157感染報告患者数は、2012年の1,253人から2013年は1,017人に減少した(図6)。


図6:検査機関で確定した大腸菌O157感染年間患者総数(英国、2000〜2013年)



○サルモネラ

 検査機関で確定したサルモネラ症患者数は、英国全体で2012年の9,307人から2013年は8,924人に減少した(図7)。


図7:検査機関で確定したサルモネラ症年間患者総数(英国、2000〜2013年)



とちく場でのブタおよびブタとたいの調査

 FSAおよび北アイルランド農業・地方開発局(DARD)は、英国内の14カ所のとちく場でブタとたい検体を無作為にサンプリングした。調査対象のとちく場14カ所で処理されるブタは、英国内でとさつされるすべてのブタの約80%を占めている。

 本調査から以下のような結果が得られた。

  • 全体的な傾向

     とたいは生きたブタより種々の微生物の汚染率が一貫して低かった。この傾向は、とちく場でのとたいの仕上げ工程が、とたいの汚染を抑え、消費者が有害微生物に曝露するリスクを低下させるために有効であることを示している。

  • サルモネラ

     調査対象のブタの30.5%が盲腸に保菌していたのに対し、とたいの汚染率は9.6%と低かった。2006〜2007年に実施された類似の調査では、生きたブタの盲腸での保菌率は今回より低く23%で、とたいの汚染率は逆に今回より高い15.1%であった。このことから、とさつ時の衛生状態の向上が消費者の曝露リスクを低減させたことが示唆される。2006〜2007年の調査では、英国のブタとたいのサルモネラ汚染率は欧州連合(EU)の平均(8.3%)の約2倍という結果であった。

  • エルシニア

     ブタの28.7%がエルシニア(Yersinia enterocolitica)を扁桃に保菌していたのに対し、とたいの汚染率は1.9%と低かった。

  • カンピロバクター(Campylobacter coli

     ブタ由来カンピロバクター(Campylobacter coli)の抗菌剤耐性率は、1999〜2000年および2003年に実施されたとちく場調査で得られた結果と同レベルで、また、全体的にEUの平均値とも同レベルであった。

  • トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii

     調査対象のブタの7.4%に感染の形跡が認められ、過去に英国の一部地域で実施された調査での結果と同レベルであった。

  • E型肝炎

     調査したブタの大部分(93%)が血清反応陽性で、E型肝炎ウイルス(HEV)に曝露した形跡が認められた。1.6%のブタが血液中にHEVを有しており、このためこれらのブタはとさつ時に感染源となった可能性がある。

  • 基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌

     調査対象のブタの23.4%が基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌を保菌しており、最も多くみられたESBLはCTX-M-1型であった。この型は、英国のヒト臨床分離株ではまれなものである。


(食品安全情報(微生物)No.14 / 2014 (2014.07.09)、No.22 / 2013 (2013.10.30) UK FSA記事参照)



国立医薬品食品衛生研究所安全情報部