英国食品基準庁(UK FSA)からのノロウイルス関連情報
http://www.food.gov.uk/


主任研究者の年次報告書2012/13
Launch of Chief Scientist report on science and evidence
25 September 2013
http://www.food.gov.uk/news-updates/news/2013/sep/cst_report2013

Annual Report of the Chief Scientist 2012/13
https://acss.food.gov.uk/sites/default/files/multimedia/pdfs/publication/cstar_2013.pdf
http://www.food.gov.uk/about-us/publications/busreps/csreps/

(食品安全情報2013年22号(2013/10/30)収載)

 英国食品基準庁(UK FSA)は、主任研究者の第7回目の年次報告書を発表した。本報告書は、FSAが過去1年間に科学およびエビデンスをどのように駆使したかについて概説している。本報告書は、食品由来疾患の発生の動向、食品由来疾患が公衆衛生に及ぼす影響に対するFSAの最新の取組み、食品アレルギーと食品不耐性、公的食肉管理の近代化、馬肉混入事件の調査などの話題について記載しており、以下にその一部を紹介する。

○食品由来疾患:課題と対策

 食品安全はFSAにとって最も重要な課題であり、食品由来疾患事例の減少は食品安全を達成するための最も重要な目標の一つである。英国では食品由来疾患患者が毎年約100万人発生し、このうち約2万人が入院、約500人が死亡すると推定されている。これらの推定に使用されているモデルは、コミュニティにおける感染性胃腸疾患(IID: Infectious Intestinal Disease)に関する第2回調査(IID2調査)の延長の結果の発表を待って、2013年中に見直しが行われる予定である。この延長調査は、各種疾患における食品由来の割合に関係している。

疾患実被害

 図1は、FSAがモニターしている5種類の主要な病原体(カンピロバクター、リステリア(Listeria monocytogenes )、ノロウイルス、大腸菌O157、サルモネラ)により2011年にイングランドおよびウェールズのコミュニティで発生した食品由来疾患の推定実被害を示したものである。

 これら5種類の病原体のうち、患者が最も多いのは依然としてカンピロバクターで(60%)、入院患者でも最も大きな割合を占めている(92%)。L. monocytogenes による食品由来疾患患者は比較的まれであるが(1%未満)、死亡者は最も多い(30%)。

 IID2調査は英国全体で発生した疾患が対象で、2011年にその結果が発表された。この調査の目的は、英国におけるIIDの発生状況や原因微生物を把握し、第1回IID調査以降に状況が変化したかどうかを明らかにすることであった。もう一つの目的は、公的な全国サーベイランスのデータをコミュニティでのIIDの真の発生件数と比較することであった。IID2調査によるとIIDが公衆衛生に及ぼす影響は依然として大きい。毎年、英国の全人口の約25%(1,700万人)がIIDに罹患すると推定されている。

図1:5種類の主要な病原体による食品由来疾患推定実被害(患者数、入院患者数および死亡者数)の相対的割合(イングランドおよびウェールズ、2011年)

発生の動向

 FSA は、5種類の主要な病原体による食品由来疾患について、その発生の複数年にわたる動向を把握するために、検査機関確定患者の報告数を利用している。これらの病原体は英国の食品由来疾患の主要な原因であり、患者数および重症度の点で最も実被害が大きいものである。

 図2は、2000年からモニターされている4種類の主要な病原体(カンピロバクター、サルモネラ、大腸菌O157、L. monocytogenes )による英国内の検査機関確定患者の毎年の全報告数を2000年のベースライン値と比較した際のパーセント変化である。

図2:カンピロバクター、サルモネラ、大腸菌O157およびL. monocytogenes の検査機関確定患者の毎年の全報告数を2000年の値と比較した時のパーセント変化

 ノロウイルスについては、FSAは2005年から英国内の検査機関確定患者のモニターを行っている。データによると、ノロウイルスの2012年の全確定患者数は2005年のベースライン値から212%増加した(図6)。確定患者数が増加した一因として、ノロウイルス検出法の向上と、サーベイランスにその方法を使用する検査機関が増えたことが考えられる。また、全国サーベイランスで報告される患者の多くが、感染拡大を促進する半閉鎖的な環境(医療関連施設、学校、クルーズ船など)で発生し、食品由来の可能性が低いと考えられるアウトブレイクに関連していることに注意すべきである。

図6:英国におけるノロウイルス感染確定患者数(2005〜2012年)

【編者注:そのほか、5種類の主要な病原体(カンピロバクター、L. monocytogenes 、ノロウイルス、大腸菌O157、サルモネラ)のそれぞれについて個別に課題と対策が記載されている。】

○ 主な外部委託研究の成果の紹介:ノロウイルスに関する研究

 英国内で発生するノロウイルス感染のうち、どの程度の割合が食品の喫食に由来するかについてはよくわかっていない。2012年7月に、FSAからの資金援助を受けてこの点の解明を目指した文献調査研究の結果が発表された。

感染性ノロウイルス粒子と非感染性ノロウイルス粒子を識別する方法に関する文献調査研究

 本調査研究では、食品・環境・臨床検体中のノロウイルスの検出に使用される方法が特定され、これらの方法の感染性粒子と非感染性粒子の識別に関する能力の評価が行われた。

 また本調査研究では、カプシドやゲノムRNAの状態がヒト感染能を有するノロウイルスの指標として使用可能かどうかを評価できる方法に特に重点が置かれた。

 主な結果は以下の通りである。

  • 感染性ウイルスの定義は複雑で、何をもってヒト感染性ノロウイルスであるとするかについての基準はない。しかし、現在のRT-qPCR(定量的逆転写PCR)法のみでは感染性ウイルス粒子と非感染性ウイルス粒子とを識別できないことは明らかである。

  • ヒト感染性ノロウイルスの検出に現在使用されているRT-qPCR法は、蛍光シグナルの生成とその検出にもとづいており、PCR産物の追加的な同定・確認は行われない。直接シークエンシングまたは電気泳動によるRT-qPCR産物の詳細な性状解析が行われれば、現在の検査結果の有効性に対する信頼性が高まると考えられる。

  • ヒト感染性ノロウイルスは活性が強く、環境中で感染力を長期間保持することが知られている。また、損傷を受けたウイルス粒子の産物であるウイルスRNAおよびリボ核タンパク質複合体(RNPs)も環境中で長期間存在でき、ヒト感染性ノロウイルスの検査で偽陽性を生じる可能性がある。しかし、環境中でのRNPsの存在については、これまでに調査が行われていない。

  • RT-qPCRシグナルは、無傷のウイルス粒子からだけでなく、損傷を受けたウイルス粒子の産物であるRNAおよびRNPsからも得られる。サンプルの前処理により、このようなRT-qPCRシグナルの識別が可能である。感染性粒子に関連するRT-qPCRシグナルの確実な識別の問題や、食品・環境中のノロウイルスの検出に使用される欧州標準化委員会(CEN:European Standardisation Organisation)の暫定方法としてRT-qPCR法が適用できるかどうかの判断には、さらなる研究が必要である。

【そのほか、ウシからの大腸菌O157排出を減少させる方法の英国への導入の実現可能性に関する調査研究についても解説されている。】


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部