米国疾病予防管理センター(US CDC)からのノロウイルス関連情報
http://www.cdc.gov/


未殺菌乳製品による疾患アウトブレイクと州の法律との関連(米国、1993〜2006年)
Nonpasteurized Dairy Products, Disease Outbreaks, and State Laws - United States, 1993-2006
Emerging Infectious Diseases, Volume 18, Number 3, 385-391(March 2012)
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/18/3/pdfs/11-1370.pdf
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/18/3/11-1370_article.htm

(食品安全情報2012年10号(2012/05/16)収載)

 乳製品に含まれる病原体は低温殺菌によって死滅し、未殺菌の乳製品が喫食・喫飲されることは稀であるにもかかわらず、依然として乳製品関連のアウトブレイクが発生している。1987年に、米国食品医薬品局(United States Food and Drug Administration)は、消費者への販売を目的とした未殺菌乳製品の州を越えての配送を禁止した。しかし、同一州内で製造された未殺菌乳製品の販売に関しては、その規制は州の管轄であり、販売が許可されている州がいくつか存在する。未殺菌乳製品によるアウトブレイクの発生と未殺菌乳製品の販売に関する州の法律との関連を明らかにするため、1993〜2006年に発生した乳製品関連のアウトブレイクのレビューを行った。

方法

 州内で製造された未殺菌乳製品の販売が1993〜2006年の各年に許可されていたかどうかを50州の保健・農務当局に問い合わせた。「違法州・年」は、ある州が全ての未殺菌乳製品の販売を禁止していた年、「合法州・年」は、州内で製造された未殺菌乳製品の販売を許可していた年と定義した。各州の各年の推定人口に関するデータは米国国勢調査局から入手した。アウトブレイクとその患者の発生率を違法州・年と合法州・年で比較するため、アウトブレイク発生州の発生時での違法・合法の状況によりアウトブレイクを層別化し、アウトブレイク(ポアソンモデル)とその患者(負の二項分布モデル)に関して発生率比(IDR:incidence density ratio)を算出した。

結果

 1993〜2006年には、汚染乳製品による食品由来疾患アウトブレイクが合計で30州から122件報告された。乳製品関連のアウトブレイクは1996年を除いて毎年発生し、未殺菌乳製品関連のアウトブレイクは1994年と1996年を除いて毎年発生した。食品由来疾患アウトブレイクに対するサーベイランスが1998年に強化された後、乳製品関連のアウトブレイクの報告数は増加している。

 乳製品関連のアウトブレイク122件のうち121件で乳製品の殺菌/未殺菌の状況が判明し、その結果、多く(73件[60%])が未殺菌乳製品によるアウトブレイクであった。この121件のアウトブレイクのうち、65件(54%)がチーズを、56件(46%)が飲料乳を原因食品とするものであった。チーズによる65件のアウトブレイクのうち27件(42%)が未殺菌乳から製造されたチーズを原因食品とし、飲料乳による56件のアウトブレイクでは46件(82%)のアウトブレイクが未殺菌乳を原因とするものであった。

 この121件のアウトブレイクでの報告患者数の合計は4,413人であった。このうち、未殺菌乳製品によるアウトブレイクでの患者数は合計1,571人(36%)、アウトブレイクあたりの患者数の中央値は11人(範囲は2〜202人)、入院患者数は202人であった(入院率13%)。一方、殺菌乳製品によるアウトブレイクでの入院患者数は37人であった(入院率1%)。死亡者数は、未殺菌乳製品によるアウトブレイクでは2人、殺菌乳製品では1人であった。

 未殺菌乳製品によるアウトブレイクの患者は、殺菌乳製品の患者より概して若かった。患者の年齢が報告されたアウトブレイクに限ると、未殺菌乳製品による60件では60%の患者が20歳未満であったが、殺菌乳製品による37件では23%の患者が20歳未満であった(p<0.001)。

 未殺菌乳製品によるアウトブレイクでは73件全てで病因物質が特定され、それらはすべて細菌であった。1件ではカンピロバクター属菌および志賀毒素産生性大腸菌の両方が原因であった。残りの72件では、カンピロバクター属菌(39件、54%)、サルモネラ属菌(16件、22%)、志賀毒素産生性大腸菌(9件、13%)、ブルセラ属菌(3件、4%)、リステリア属菌(3件、4%)、および赤痢菌(2件、3%)が病因物質であった。殺菌乳製品によるアウトブレイクでは48件中30件で病因物質が特定され、ノロウイルス(13件、病因物質特定事例中44%)、サルモネラ属菌(6件、同20%)、カンピロバクター属菌(4件、同13%)、黄色ブドウ球菌(3件、同10%)、ウェルシュ菌、セレウス菌、リステリア属菌および赤痢菌(各1件、各同3%)が病因物質であった。

 殺菌乳製品によるアウトブレイクは合計48件が報告された。このうち7件で汚染源が特定され、少なくとも4件では感染した食品取扱者によって乳製品が殺菌後に汚染され、残りの3件では消費者が適切な温度で乳製品を保存しなかったことが汚染の原因と考えられた。不適切な温度で保存すると、殺菌後に生残したり侵入した少数の菌が疾患を引き起こすレベルまで増殖する。

 調査対象期間中に、43州(86%)は州内で製造された未殺菌乳製品の販売に関する法律を改正しなかった。この43州のうち21州(49%)がこのような製品の販売を合法としていた。当該の法律を改正した7州のうち3州が合法から違法に、3州が違法から合法に、1州が合法から違法に改正した後に再び合法に改正していた。

 今回の解析の対象とした700州・年(14年×50州)のうち、州内で製造された未殺菌乳製品の販売は342州・年で合法、358州・年で違法であった。規制の状況の異なる複数州にわたって発生した2件を除く残りの71件の未殺菌乳製品関連アウトブレイクのうち、55件(77%)が合法州・年で発生していた。この71件のアウトブレイクでは1,526人の患者が発生し、このうち1,112人(73%)が合法州・年で発生していた。一方、この71件のアウトブレイクのうち15件が違法州・年で発生していた。このうち9件で未殺菌乳製品の入手先が特定され、7件(78%)では生産酪農場からの直接入手であった。

 合法州・年または違法州・年に発生した未殺菌乳製品関連アウトブレイクとその患者についての発生率比(IDR)は乳製品の種類(飲料乳またはチーズ)によって異なっていた。未殺菌飲料乳については、アウトブレイクの発生率が合法州・年で違法州・年の値の2倍以上であった(IDR 2.20: 95%信頼区間(CI)[1.14〜4.25])。アウトブレイク患者の発生率は合法州・年の方が違法州・年より15%高かったが、これは統計学的に有意ではなかった(IDR 1.15: 95%CI[0.24〜5.54])。未殺菌乳から製造されたチーズについては、アウトブレイクおよびアウトブレイク患者の発生率が合法州・年では違法州・年のほぼ6倍(それぞれIDR 5.70: 95%CI[1.71〜19.05]、IDR 5.77: 95%CI[0.59〜56.31])であったが、アウトブレイク患者についてのIDR値は統計学的に有意ではなかった。

考察

 米国での未殺菌乳製品の消費量は殺菌乳製品の1%未満であると推定され、それにもとづいて乳製品消費量あたりのアウトブレイク件数を比較すると、未殺菌乳製品の喫食・喫飲によるアウトブレイク件数は、殺菌乳製品の場合の約150倍と算出された。

 本研究により、未殺菌乳製品の州内での合法的な販売は、乳製品関連アウトブレイクの発生のリスク上昇に関連していることが明らかになり、未殺菌乳製品の販売の制限は乳製品関連アウトブレイクの発生のリスクを低減することが示唆された。低温殺菌は乳製品を安全に喫食・喫飲する際に、実行可能で最も信頼が置ける方法である。未殺菌乳製品の喫食・喫飲はいかなる状況下においても安全とは言い難い。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部