英国食品基準庁(UK FSA)からのノロウイルス関連情報
http://www.food.gov.uk/


主任研究者の年次報告書2010/11
Chief Scientist's annual report published
13 September 2011
http://www.food.gov.uk/news/newsarchive/2011/sep/csr2011
http://www.food.gov.uk/multimedia/pdfs/publication/csr1011.pdf

(食品安全情報2011年20号(2011/10/05)収載)

 英国食品基準庁(UK FSA)は2011年9月13日に過去1年間の科学研究活動のレビューを発表した。

 主任研究者によるこの年次報告書(Annual Report of the Chief Scientist)は、英国内の食品由来疾患の被害を低減するために行われた以下の活動分野に焦点を当てている。

・ 2010〜2011年のFSAの主要な研究成果
・ 食品由来疾患低減のための取組みのレビュー
・ 食品安全上の新興リスクに関する研究の進展
・ FSAの活動へのサイエンスおよびエビデンスにもとづいた開放的なアプローチをサポートする科学技術ガバナンスの向上のための取組み

(報告書の食品安全およびリスクの項目から一部を紹介する。)

食品由来疾患
 食品由来疾患は英国民の主要な病気の1つとなっており、患者、医療サービスおよび経済に重大な被害をもたらしている。英国では食品由来疾患患者が毎年約100万人発生しており、このうち2万人が入院治療を受け、500人が死亡していると推定される。

 2000〜2005年に、食品由来疾患の患者数は著しく(19%)低下したが、その後この傾向は持続していない。サルモネラ患者数は減少傾向が続いているが、2005年以降、全体的な食品由来疾患の患者数は増加しており、英国のすべての地域で見られたカンピロバクター感染患者数の大幅な増加がこの主な原因となっている。

 フードチェーンの分析により、患者数が最多であるカンピロバクターと死亡率が最も高いリステリアが最大の疾患実被害をもたらし、これらの病原菌をコントロールすることにより公衆衛生上、最大の効果が得られることがわかった。

食品由来疾患の実被害推定
 検査機関で確定した報告患者数や食中毒でよく検出される病原体により発症した報告患者数は、食品由来疾患の時間的傾向をモニタリングする最も確実な方法であると考えられる。未報告患者が存在するため、検査機関で確定した食品由来疾患の患者数は実際の患者発生数より少ないことが分かっている。この未報告患者の問題と疾患の重症度を確認するために、食中毒患者の総数の推定値を算出した。未報告についての調整には、アウトブレイク調査や疫学調査(第1回目の感染性胃腸疾患(IID:Infectious Intestinal Disease)調査など)のデータを利用した。これまで、第1回目のIID調査で得られた係数が、英国全体の疾患実被害の推定に利用可能な最良の方法を提供してきた。

 図1は、2009年のイングランドおよびウェールズのコミュニティでの食品由来疾患について、FSAがモニターしている5つの主要な病原体(カンピロバクター、リステリア(Listeria monocytogenes)、ノロウイルス、大腸菌O157、サルモネラ)別に実被害推定を示したものである。

図1:FSAがモニターしている5つの主要な病原体による患者、入院患者および死亡者の推定数(イングランドおよびウェールズ、2009年)

 2009年のイングランドおよびウェールズで食品由来の疾患および入院の原因として最も多く報告されたのは、依然としてカンピロバクターであった。カンピロバクター感染による患者は371,300人、入院患者は17,500人、死亡者は90人と推定された。これに対し、リステリアによる食品由来疾患は死亡率が最も高く、食品由来疾患による死亡者(n=150)の約40%に関連したと推定されたが、推定患者数は420人と極めて少なかった。

 また、2009年のイングランドおよびウェールズでのノロウイルス患者は227,460人と推定された。しかし、利用可能なエビデンスが大幅に不足しているため、ノロウイルスによる疾患の実被害において食品が原因として寄与する割合を推定するのは困難であった。これに対処するため、ノロウイルス患者の感染源を究明するさらなる取組みが行われている。

5つの主要な病原体による疾患の傾向
 図2は、2000〜2010年に英国の検査機関で確定した5つの主要な病原体による報告患者の総数および病原体別の患者数を示している。これらの患者には国外への旅行に関連して感染した患者は含まれていない。2010年の報告データは暫定的なものである。

 暫定的ではあるが、英国での5つの主要な食品由来病原体の確定患者総数は、2010年には8万人を少し上回ったことが示された。これは、2009年と比べて国内感染患者が11%増加したことを意味している。

図2: 5つの主要な食品由来病原体への英国内での感染が検査機関で確定した患者(2000〜2010年)

・カンピロバクター
 過去10年間の前半では、検査機関で確定したカンピロバクターの報告患者数は減少傾向にあった。しかし、最近になって確定患者数は増加し始めた。英国全体のカンピロバクター報告患者数は、2000年は52,567人、2009年は52,617人であったのに対し、2010年には56,767人となった。これは、2000年および2009年の報告数に比べ2010年は約8%増加したことを示している。カンピロバクター患者数のこの増加傾向の理由は明らかではないが、発生率の実際の上昇、報告率の上昇、またはこれら2つの要因の組み合わせの結果であると考えられる。

・リステリア
 検査機関で確定したリステリア患者数は、2009年の234人から2010年は174人に減少した(26%の減少)。周産期および非周産期関連のいずれでも患者数の減少が見られたが、報告患者の大多数が60歳以上の年齢層であり、基礎疾患や年齢という点ではリスク集団に大きな変化は起きていないと考えられる。このリステリア症患者数の減少の理由は明らかではないが、報告率の変化の結果とは考えられない。最近のこのような減少にもかかわらず、それでもリステリア症の2010年の確定患者数は2000年(114人)と比較して53%も多かった。

・ノロウイルス
 データからは、検査機関で確定したノロウイルス患者は2005年以降増加しており、2010年の報告患者数は15,529人であったことが示されている。しかし、この増加は主に、ノロウイルスサーベイランスシステムの改善、診断方法の向上、およびこれらの方法を採用する検査機関の増加によるものである。また、全国サーベイランスで報告される患者の大多数は、コミュニティではなく医療施設でのアウトブレイクに関連する傾向があり、食品を感染源とする可能性は低い。

・大腸菌O157
 英国で報告された大腸菌O157確定患者は、2000年の1,036人、2009年の1,160人に対し、2010年は924人であった。これは、2000年および2009年の報告数に対し、それぞれ11%および20%の減少であることを意味している。しかし、2009年の大腸菌O157確定患者報告数は2000年以降で最多であり、これはサリー州のGodstone農場に関連した大規模アウトブレイク(報告患者数約100人)が一因となっている可能性がある。このアウトブレイクは農場での動物との接触を原因としたもので、食品由来アウトブレイクではなかった。

・サルモネラ
 英国全域でのサルモネラ確定患者数は、2000年の12,784人、2009年の7,677人に対して2010年は6,613人となり、特に大多数のヒト感染の原因となっている血清型(Salmonella Enteritidis およびS. Typhimurium)の患者の持続的な減少傾向が見られた。この傾向の原因は特定されていないが、卵および家禽におけるサルモネラ対策とフードチェーン全体での衛生の改善が大きく貢献した可能性が高い。

ノロウイルス感染の経路と対策
 ウイルスは感染性胃腸疾患の主要な原因の1つであり、食品による伝播はその重要な感染経路となっている。ノロウイルス単独で、イングランドおよびウェールズで毎年20万人以上の食品由来疾患患者の病因となっていることが推定されており、特にカキなどの貝類に関連したアウトブレイクの原因となることが多い。その他の食品由来感染の既知の媒体としては、生鮮農産物(主に果肉の柔らかい果物やサラダ用野菜)や感染した食品取扱者により汚染された食品などがある。

 2009年12月〜2010年3月にFSAに報告された生のカキの喫食に関連したノロウイルス感染の確定および疑い事例は約65件で、これには患者400人が含まれていた。FSAは2011年1月に声明を発表し、生カキの喫食によるノロウイルス感染のリスクに関する助言を消費者に再度通知した。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部