Eurosurveillanceのノロウイルス関連情報
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英国、ノルウェー、フランス、スウェーデンおよびデンマークで発生したカキの喫食に関連するノロウイルスアウトブレイク(2010年)
Norovirus outbreaks linked to oyster consumption in the United Kingdom, Norway, France, Sweden and Denmark, 2010
Volume 15, Issue 12, 25 March 2010
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19524

(食品安全情報2010年8号(2010/04/07)収載)

 本論文は、生カキの喫食に関連した複数の同時発生ノロウイルス感染アウトブレイクについての報告である。2010年1月以降、英国、ノルウェー、フランス、スウェーデンおよびデンマークの欧州5カ国から、患者334人を含む65の患者集団(クラスター)が報告された。これらのアウトブレイクについて得られた疫学的および微生物学的エビデンスを記載する。

欧州連合(EU)で過去に報告されたノロウイルスアウトブレイク
 欧州では近年、カキの喫食に関連した数件のノロウイルスアウトブレイクが報告されている。2000〜2007年に国際機関に報告された食品由来ノロウイルスアウトブレイクのうち、17.5%(7/40)が二枚貝によるものであった。食品および飼料に関する緊急警告システム(RASFF:Rapid Alert System for Food and Feed)のデータベースを検索すると、カキからのノロウイルスの検出またはカキの喫食に関連したノロウイルス食中毒の発生に関する警報が、2006年3月〜2010年3月の間に19報通知されていたことが分かった。これらの警報はすべてEU域内で養殖および販売されたカキに関連したもので、このうち17件は1〜4月に通知されており、カキの品質が最も高いと考えられる期間を反映していた。

最近の状況(2010年1〜3月)
 2010年1〜3月、欧州疾病予防管理センター(ECDC:European Centre for Disease Prevention and Control)に、食品および水由来疾患と人獣共通感染症(FWD:Food- and Waterborne Diseases and Zoonoses)サーベイランスネットワークを通じ、英国、ノルウェー、フランス、スウェーデンおよびデンマークのEU/EEA加盟5カ国からカキの喫食に関連したノロウイルスアウトブレイク発生の通報があった。患者334人を含む65の小規模クラスターが報告された。大多数の患者はレストランでカキを喫食していた。ここでは、確定クラスター(verified cluster)を(i)患者が潜伏期間内にカキを喫食していたというエビデンスがあり(記述疫学)、(ii)患者が喫食したカキと同一のバッチまたは同一の採捕地域のカキからRT- PCR法でノロウイルスが検出された(微生物学的エビデンス)クラスターと定義した。この定義にもとづいて27のクラスターを確定クラスターとした(表)。

表:カキの喫食に関連したノロウイルス患者クラスター、英国、ノルウェー、フランス、スウェーデンおよびデンマーク、2010年1〜3月(n=65)

英国のアウトブレイク
 2010年1月、英国の複数の地方自治体から英国健康保護庁(HPA:Health Protection Agency)に、レストランでのカキの喫食に関連し食品由来の可能性がある胃腸炎の患者(22クラスターの120人以上)について報告がなされた。9クラスターの患者から採集した検便検体および3クラスターの患者に関連するカキの調査により、ノロウイルス遺伝子型グループI(GI)およびII(GII)が特定された。
 これらのクラスターには、イングランド、スコットランドおよびアイルランドで生産されたカキが関与していた。しかし、大部分のカキはアイルランドの1生産業者のものであった。アイルランド当局は、アイルランド産のカキにノロウイルスが検出されたことから、2月17日にRASFFに警報を通知した。アイルランドは、特定の採捕地域の閉鎖やこれらの地域で採捕された貝類の回収などの対策をとった。

ノルウェーのアウトブレイク
 ノルウェーでは、2010年1月22日〜2月6日に8クラスター39人の胃腸炎患者が報告された。患者は、1輸入業者によりオスロのレストラン6店に納品されたカキを喫食した後に発症していた。検便検体は採集されなかった。地域の食品当局が当該のカキを追跡調査し、フランスのブルターニュ地方の1生産業者が出荷元であったことがわかった。原因と考えられる3バッチのカキのうち2バッチが検査され、それらのRT-PCR結果は両者ともノロウイルスGIおよびGII陽性であった。2月11日にRASFFに警報が通知された。

フランスのアウトブレイク
 ノルウェーのクラスターの場合と同じブルターニュ地方の1地域から出荷されたカキの喫食に関連する食品由来胃腸炎が6クラスター報告された。フランスのクラスターは2010年の第2〜9週に発生し、患者22人を含んでいた。検便検体は得られなかった。当該地域産のカキが検査され、ノロウイルスが検出された。第4〜7週に、ブルターニュ地方の別の地域で採捕されたカキの喫食に関連した胃腸炎患者4クラスター(患者45人)が新たに発生した。患者および当該地域産のカキの検査を行い、ノロウイルスが確認された。患者の検便検体からはノロウイルスGIおよびGIIが検出されたが、カキ由来のノロウイルスの遺伝子型グループは現在確認中である。
 問題の両採捕地域は閉鎖され、それらの地域由来の貝類は市場から回収された。これらの対策は、第7〜9週に実施された。

スウェーデンのアウトブレイク
 15クラスター48人が、ストックホルムのレストラン1店でカキを喫食した後に急性胃腸炎を発症した。また、ストックホルムの別のレストランでカキを喫食した2人も急性胃腸炎を発症した。これらの患者がカキを喫食したのは2009年12月〜2010年3月上旬であった。前者のレストランはオランダ産とフランス産のカキを提供していた。これら50人の患者から検便検体は採集されなかった。

デンマークのアウトブレイク
 2010年1〜3月に、レストラン3店のいずれかでカキを喫食した6クラスター27人のノロウイルス患者が報告された。2人の患者の検便検体からノロウイルスGIおよびGIIが検出された。別の1人の患者の検便検体からはノロウイルスGIIが検出された。これらのレストランで提供されたカキは、フランスの4カ所の海岸地域で採捕されたものであった。これら4バッチすべてのカキがノロウイルスGIおよびGII陽性であったため、デンマークの市場から回収された。3月12日にRASFFに3報の警報が通知され、最近4報目が通知された。3クラスターが新たに発生し、合わせて9クラスターが現在調査中である。

図.ノルウェー、フランス、スウェーデンおよびデンマークの報告患者の発症週にもとづく流行曲線、2009年12月〜2010年3月(n=183)


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部