Eurosurveillanceのノロウイルス関連情報
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ヨーロッパの食品由来ウイルスネットワークの報告:流行シーズン初期のサーベイランスにおいてノロウイルスGII.4 2006bが優勢
Food-borne viruses in Europe network report: the norovirus GII.4 2006b (for US named Minerva-like, for Japan Kobe034-like, for UK V6) variant now dominant in early seasonal surveillance
Eurosurveillance Monthly, Volume 13 issue 2, January 2008
http://www.eurosurveillance.org/edition/v13n02/080110_03.asp
http://www.eurosurveillance.org/images/dynamic/EE/V13N02/art8009.pdf(PDF)

(食品安全情報2008年2号(2010/01/16)収載)

 2006年のノロウイルス感染アウトブレイクの流行季には、欧州のウイルス性胃腸炎アウトブレイクの原因の大部分がGII.4の2種類の変異型であった。この変異型は、FBVEネットワーク(Foodborne Viruses in Europe network)でGII.4-2006aおよびGII.4-2006bと名付けられ、2006年冬、ほとんどの欧州諸国でほぼ同じ割合で検出された。すべての株について、A領域(ポリメラーゼ遺伝子)およびC領域(カプシド遺伝子)の各変異型または遺伝子型に属する配列から得られた共通塩基配列と背景情報が、以下のサイトから入手できる。

http://www.rivm.nl/bnwww

 この領域は、遺伝子タイピングに最もよく使用されているゲノムのターゲットである。共通塩基配列はウェブサイトで公開されている。

 2007年の夏と秋、GII.4-2006b(米国ではMinerva様、日本ではKobe034様、英国ではV6)は、GII.4-2006aより優勢となり、10月と11月に複数の国が多くのアウトブレイクを報告した。現在2種類とも蔓延しているが、ほとんどの欧州諸国ではGII.4-2006bの方が優勢である。オランダでは、2007年10月にアウトブレイク29件が報告された。このうち26件の遺伝子タイピングを行ったところ、GII.4-2006aが3件(11.5%)に対し、GII.4-2006b が12件(46%)であった。11月には46件が報告され、これまでに30件の遺伝子タイピングが行われており、GII.4-2006aが3件(10%)に対し、GII.4-2006b が22件(73%)であった。

 最近のGII.4-2006bの株にはA領域に2つの変異(T4387CおよびT4543C、Lordsdale X86557)、C領域には1つの変異(A68C)が認められ、以前のGII.4-2006bと識別できる。C領域の変異によりアミノ酸変異が起こっている(M23S)。

 図3は、国別、アウトブレイクの開始月別に見た新しい分離株の概略であり、右軸は変異が認められたGII.4株の割合である。

図3:各国における月毎のノロウイルスGII.4 2006bのアウトブレイク数およびその塩基配列の特定部位における遺伝子突然変異の割合(%)

 このようなアウトブレイクは、2006年12月にアイルランドで初めて報告され、2007年10月以降、他の欧州諸国で激増した。ほとんどの国で塩基配列が報告できるのはアウトブレイクの開始後1〜2カ月後であるため、2007年12月のアウトブレイク報告数は今後かなり増加すると予想される。状況は2004年と2006年秋に類似しており、ノロウイルスが冬季に流行することを示している。

 A領域に変異のある2株について、さらにゲノム配列を決定したところ、C領域のアミノ酸変異が唯一のアミノ酸変異であった。従って、新しく抗原性が変異したウイルスの侵入が2007年秋の患者発生増加の明らかな原因であるとはいえない。

 2006bの初期の株と最新株を識別する際の根拠であるA領域とC領域の変異は、優勢性の変化とは関係ないと考えられる。以前に観察された株の優勢性の変化は、通常はカプシドタンパクのP2ドメインにおけるアミノ酸変異を伴っていた。過去に蔓延したGII.4の他の全変異型と比較すると、2006bの初期の株にはP2ドメインにいくつか相違があった。しかし、2006bが初めて出現したとき、すでに蔓延していた2006aと置き換わらなかったことから、感染力と拡散力がまだ最適ではなかったと考えられた。今季の状況から、2006bは昨年中に適応性を獲得したと考えられた。

 ノロウイルスシーズンが始まると、ヨーロッパ中でアウトブレイクの発生が増加し、原因のほとんどがGII.4である。報告の増加が、サーベイランスによる人工的な結果であるのか、GII.4が変異に伴い、最近急速に進化したことを反映しているのかは不明である。一般集団のノロウイルス感染が増えると、医療施設への侵入が避けられない。患者が報告された際の迅速な対応と厳しい衛生対策により医療施設でのアウトブレイクを軽減することができると考えられる。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部