米国疾病予防管理センター(US CDC)からのノロウイルス関連情報
http://www.cdc.gov/


アウトブレイク自動検出アルゴリズムと電子報告システムの比較
Automatic Outbreak Detection Algorithm versus Electronic Reporting System
Emerging Infectious Diseases, Volume 14, Number 10-October 2008
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/14/10/pdfs/07-1354.pdf(PDF)
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/14/10/07-1354_article.htm

(食品安全情報2008年21号(2008/10/08)収載)

 アウトブレイクの自動検出アルゴリズム(Automatic Outbreak Detection Algorithms: AODAs)の有効性を明らかにするため、AODAによるアウトブレイクのシグナル3,582件と、2005年〜2006年にドイツで報告されたカンピロバクターまたはノロウイルス感染アウトブレイク4,427件との比較を行った。感度(sensitivity)、陽性的中率(positive predictive value)とも地域保健所によるアウトブレイク報告の方がAODAより高かった。

 2001年、ロベルト・コッホ研究所は届出感染症サーベイランスに電子システム(SurvNet)を導入した。地域保健所は州保健局に確定患者情報を電子的に報告し、ロベルト・コッホ研究所にも転送される。個々の症例報告と、地域保健所からの標準様式化されたアウトブレイク報告(報告アウトブレイク)との関連を検出することがSurvNetの利用により可能となる。また、同システムにより、地域保健所の末端データベースの各症例報告が州保健局のデータベースへ、さらにロベルト・コッホ研究所へと送付される。AODAはこのデータを毎週解析し、1週間の患者数が設定された閾値を上回った場合、アウトブレイクのシグナルを出すように設定されている(シグナルアウトブレイク)。

 出されたシグナルについて追跡調査する必要があるかを判断するためには、AODAの陽性的中率を知る必要がある。必ずしも全てのシグナルに対して調査が必要なわけではなく、陽性的中率がわかれば地域保健所が必要以上の仕事を行うことを避けることができる。この研究の目的は、AODAによるシグナルが、地域保健所から報告される真のアウトブレイク(カンピロバクター感染またはノロウイルス感染)を反映する確率を評価することである。

 シグナルアウトブレイクが報告アウトブレイクと一致している条件は次のすべてを満たす場合であるとした。1) ある報告アウトブレイクの初発患者発生から最後の患者発生までと同じ期間内に1回以上のシグナルが発せられる、2) シグナルアウトブレイクと報告アウトブレイクとの市町村レベルでの地理的位置が一致する(430市町村のうちの1箇所で発生)、3) 病原体が同じであること(カンピロバクターまたはノロウイルス)とした。2007年6月1日時点で利用可能であったデータを用い、2005年第5週から2007年第4週までの報告アウトブレイク総数(本アルゴリズムは患者4人未満のアウトブレイクを検出できないため最少患者数は4人とした)について検討した。

 本研究の対象機関における患者4人以上の報告アウトブレイクは、カンピロバクター感染関連118件とノロウイルス感染関連4,309件であった。報告アウトブレイクのうちAODAによりシグナルが発せられていたのはカンピロバクター感染では118件中52件(44.1%)、ノロウイルス感染では4,309件中2,538件(58.9%)であった。シグナルアウトブレイクが報告アウトブレイクを反映している割合(AODAの陽性的中率)はノロウイルスよりカンピロバクターの方が低かった。カンピロバクターのシグナルアウトブレイク781件中50件(6.4%)、ノロウイルスのシグナルアウトブレイク2,801件中2,115件(75.5%)がそれぞれの報告アウトブレイクを反映していた。数週間継続して閾値以上が保たれたアウトブレイクの場合、AODAは複数回シグナルを発した可能性があり、カンピロバクターのアウトブレイク3件(6.0%)のそれぞれで2回のシグナルが出され、ノロウイルスの727件(28.6%)で各2〜20回のシグナルが出されていた。また、同じ地域、同じ期間に異なる複数のアウトブレイクが発生した場合、それらがシグナルアウトブレイク1件とされる場合もあり、カンピロバクターではシグナルアウトブレイク4件(8.0%)が複数の報告アウトブレイクに、ノロウイルスではシグナルアウトブレイク760件(35.9%)がそれぞれ報告アウトブレイク2〜26件に対応している可能性があった。

表:2005年1月31日〜2007年1月28日に検出アルゴリズムにより報告・確認されたアウトブレイク

 ドイツの感染症アウトブレイクの電子報告システムにより、AODAによるシグナルと地域保健所によるアウトブレイク報告との比較が可能であった。シグナルアウトブレイクが報告アウトブレイクと関連している割合はノロウイルス(75.5%)よりカンピロバクター(6.4%)の方がかなり低かった。また、全報告患者における報告アウトブレイク患者の割合はノロウイルス(71.4%)よりカンピロバクター(3.3%)の方が大幅に低かった(表)。カンピロバクター感染に散発発生が多く、ノロウイルス感染に集団発生が多い理由は伝播経路の違いによるものと思われ、その結果としてカンピロバクター感染アウトブレイクの頻度の方が低い可能性が考えられた。AODAは特定の期間に特定の地域で見つかった患者数が予想された数より多い場合にシグナルを発するが、このシグナルは散発性患者の増加を反映する可能性がある。ノロウイルス感染患者の増加の場合は、アウトブレイク発生状況をより反映している可能性が高い。また、地域保健所はカンピロバクター感染アウトブレイクよりノロウイルス感染アウトブレイクの確認、調査および報告の方により熱心である可能性もある。このような違いは、病原体別にAODAをデザインすることの重要性を示している。

 今回の結果では多数のシグナルが地域保健所からの電子的アウトブレイク報告によって確認されず、AODAの有効性には問題が指摘された。地域保健所の方がアウトブレイクの検出や調査が早いため、AODAは地域レベルでのアウトブレイクの検出には有効ではないことが考えられる。一方、今までに様々な食品由来アウトブレイクを検出していることから、個々の地域保健所では検出が困難な、複数の郡や州にまたがるアウトブレイクの検出にはAODAの方が有効であると考えられる。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部