アイルランド保健サーベイランスセンター(HPSC Ireland)からのA型肝炎ウイルス(HAV)感染アウトブレイクに関する食品関連情報
http://www.hpsc.ie/hpsc/


アイルランドで調査中のA型肝炎アウトブレイク
Outbreak of hepatitis A virus under investigation in Ireland
Epi-Insight, volume 14 issue 9, September 2013
http://ndsc.newsweaver.ie/epiinsight/1q1x6odkjmb?a=2&p=39829695&t=17517804

(食品安全情報(微生物)2013年19号(2013/09/18)収載)
背景

 アイルランドでA型肝炎ウイルス(HAV)遺伝子型IAのアウトブレイクが発生しており、2013年6月から調査が行われている。これまでに一次感染患者15人が確認されている。本アウトブレイク患者由来のHAV分離株は、本年イタリアで発生中の大規模HAV感染アウトブレイクで分離された株とゲノム塩基配列が同一である。イタリアのアウトブレイクは冷凍ミックスベリーの喫食に関連している。アイルランドのアウトブレイクではまだ感染源が特定されておらず、調査が続いている。

 アイルランドではHAV感染は比較的まれであり、2009〜2012年の年間患者数は19〜52人であった。

記述疫学

 現時点で、本アウトブレイクの確定患者は16人、疑い患者は3人である。確定患者の内訳は、一次感染患者15人および二次感染患者1人である。疑い患者3人のうち、年初に発症した2人については塩基配列を決定するための検体が存在せず、最近発症した二次感染患者1人については塩基配列の解析が進行中である。

○一次感染確定患者
 最初の4人の一次感染確定患者の発症日は2013年4月中で、その後の9人は発症日が6月17日〜7月16日であった(図)。直近の2人の患者はそれぞれ8月4日および9日に発症した。

図:A型肝炎アウトブレイクの流行曲線(2013年8月27日現在)

 一次感染確定患者15人のうち10人が入院した。患者のうち女性は9人、男性は6人で、年齢範囲は25〜58歳、年齢中央値は35歳であった。患者の居住地域は、アイルランドの東部(7人)、北東部(2)、南東部(1)、南部(4)および西部(1)で、ウイルス暴露期間におけるイタリアへの旅行歴がある患者は1人のみであった。

 患者の時間的・地理的分布が広範囲に及んでいることは、感染源が食品であることを強く示唆している。また、アイルランドの患者由来株と同一のHAV株によるイタリアの最近のアウトブレイクが冷凍ベリー製品の喫食と関連付けられたことから、本調査では輸入冷凍ベリー類が重要な調査対象である。喫食した食品の特定、患者間の関連の探索、および特定の食品の調査開始のために、一次感染確定患者に聞き取り調査を実施した。HAV感染の場合、潜伏期間(最長50日間)が長いことが、喫食歴を思い出すことを非常に困難なものにしている。

症例対照研究

 予防・管理対策を提案するため、原因食品の特定を目的としてマッチさせた症例対照研究が開始された。この研究では、HAV感染患者が、冷凍および生鮮ベリー類、または過去にHAV感染アウトブレイクの原因となったことがあるその他の特定の食品の喫食と関連しているとの仮説が検証される。

環境調査

○食品追跡調査の状況
 アイルランド食品安全局(FSAI)は、患者の食品喫食歴にもとづいた環境調査を担当しており、アイルランド健康福祉庁(HSE)の環境衛生監視員(EHO)およびアイルランド農業・食糧・水産省(DAFM)の担当職員と協力し、輸入業者、販売業者および製造業者数社について、後ろ向きおよび前向きの食品追跡調査を行っている。関連するイタリアのアウトブレイクでは、さまざまな国由来の冷凍ベリー(ラズベリー、レッドカラント、ブラックベリー、ブルーベリー)を含む冷凍ミックスベリー製品4検体からHAVが検出されたことから、本調査では主に輸入冷凍食品の供給チェーンに重点が置かれた。イタリア当局はまだ汚染源の特定には至っていない。

 アイルランドでは、複数の患者から、冷凍ベリー類を使用したスムージー、ジュース、デザート、ヨーグルト、チーズケーキなどの多様な食品の喫食が報告され、疑いのある食品バッチの特定の難しさが増している。輸入冷凍ベリーが国際的に流通する製品であるということは、その供給チェーンには様々な国の関連業者の大規模なネットワークが係っていることを意味する。本追跡調査の目的は、「アイルランドの患者が喫食した食品の供給チェーン」と「イタリアの調査で特定された供給チェーン」の重複部分を明らかにすることである。

○食品の微生物学検査
 さまざまな冷凍ベリー類およびベリー含有食品の検体が分析のためイタリア動物衛生研究所(Istituto Zooprofilattico Sperimentale)に送られた。しかし、食品における汚染は低レベルであると考えられるので、微生物学検査よりも追跡調査によって本アウトブレイクの感染源に関するエビデンスが示される可能性が高い。現時点では、9製品のHAV検査において陰性結果が出ている。

(関連記事)

アイルランドで発生しているA型肝炎アウトブレイクの調査
Outbreak of hepatitis A under investigation
9 September 2013
http://www.hpsc.ie/hpsc/News/MainBody,14278,en.html

(食品安全情報(微生物)2013年19号 FSAI、Eurosurveillance記事参照)


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部