EurosurveillanceからのA型肝炎ウイルス(HAV)感染アウトブレイクに関する食品関連情報
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2013年にイタリアで発生したA型肝炎アウトブレイク:マッチさせた症例対照研究
Hepatitis A Outbreak in Italy, 2013:a Matched Case-control Study
Eurosurveillance, Volume 19, Issue 37, 18 September 2014
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20906

(食品安全情報(微生物)2014年23号(2014/11/12)収載)

アウトブレイクの概要

 2013年にイタリアでA型肝炎アウトブレイクが発生し、現在も続いている。疫学データによると、2013年1月1日〜5月31日のA型肝炎患者数はそれ以前の3年間の同期間より明らかに増えている。患者数の増加が最も大きかったのはイタリア北部で、特にEmilia-Romagna州、Friuli-Venezia Giulia州、Lombardy州、Piedmont州、Trento自治県、Bolzano自治県、およびVeneto州においてである。南部のApulia州でも2013年に患者数が増加した。

 2013年5月、欧州連合(EU)の一部の加盟国(ドイツ、オランダ、ポーランド)がイタリア北部(Trento自治県、 Bolzano自治県)でのスキー休暇に関連したA型肝炎患者を報告した。これを受けて、両自治県で後ろ向きの疫学調査が開始され、地域の保健所に届け出があった患者の調査が行われた。両自治県(5人)、オランダ(1人)およびドイツ(2人)の患者由来のA型肝炎ウイルス(HAV)分離株のVP1-2A領域の塩基配列は相互に100%の相同性を示した。この塩基配列はアウトブレイク株に特徴的な配列としてGenBankに登録された(登録番号KF182323)。両自治県での予備的疫学調査の結果、患者が共通に喫食した食品はミックスベリーのみであった。その後、Veneto州の患者が喫食した冷凍ミックスベリーがHAV陽性であることがわかり、このベリー由来HAV株のVP1-2A領域の塩基配列は患者由来分離株と100%の相同性を示した。このため、イタリア全国から冷凍ミックスベリーの検体が追加採取され、これまでに同国内の冷凍ミックスベリーの計15検体がHAV陽性となっている(2013年10月現在)。

 アウトブレイクの検出後、イタリアの保健当局は直ちにHAVのサーベイランスと認識の強化、リスク因子に関する追加の疫学情報の収集などの様々な対策を講じた。さらに、イタリアでは通常の検査ではHAVの遺伝子型解析および塩基配列解析は行われないため、新規患者についてはすべてのHAV分離株の遺伝子型およびVP1-2A領域の塩基配列の決定を行うことによってウイルスRNAの性状を明らかにすることになった。

 汚染が確認されたバッチの冷凍ミックスベリーの自主回収が行われ、冷凍ミックスベリーの喫食に関する一般住民向けの推奨事項(冷凍ベリー類は喫食の前に2分間加熱する)がスーパーマーケットや小売店に表示された。また、イタリア保健省(MoH)およびイタリア国立衛生研究所(ISS)は、冷凍ベリー類の喫食に関する消費者向けのリスクコミュニケーション(2分間の加熱など)をそれぞれのウェブサイトに掲載した。

 2013年5月23日に、MoHはアウトブレイク対策のために様々な分野の専門家からなるタスクフォースを任命した。この枠組み下に、HAV感染患者数の増加が最も大きかったApulia州、Emilia-Romagna州、Friuli-Venezia Giulia州、およびTrentoと Bolzanoの両自治県を対象に分析疫学研究を実施することが計画された。

症例対照研究

○方法

 症例は、2013年1月1日〜5月31日に発症した(もしくは感染の検査が行われた)、上述の5地域に居住する抗HAV IgMが陽性の有症者と定義された。Apulia州はHAVが常在性の地域であり、患者由来のウイルス検体の分子生物学的タイピングが標準法として行われているため、同州の患者については、アウトブレイク株の塩基配列を示す遺伝子型1AのHAVに感染した患者のみが症例とされた。

 対照は、2013年1月1日〜5月31日にA型肝炎の症状を呈さなかった人がその候補者として5地域の一般住民より選ばれ、その後、年齢(年齢差3歳以内)および居住地について個々の症例とのマッチングが行われた。

 本研究では3通りの分析が行われた。1番目の分析では上述の定義を満たす全ての症例と対照が分析対象とされた。2番目の分析では、塩基配列決定によりアウトブレイク株の感染が確認された症例のみが対象とされ、3番目の分析では、アウトブレイク株の感染確認者で、Apulia州以外の当該地域に居住する症例が対象とされた。

○結果

 症例および対照からなる119組について、マッチさせた症例対照研究が行われた。聞き取り調査が行われたのは計588人(症例127人、対照461人)であった。図1の流行曲線が示すように患者数は徐々に増加し、第20週がピークであった。2013年6月時点でアウトブレイクはまだ継続中であった。マッチする適当な対照が期限内に見つからなかった症例2人と、感染源を共通にする家族患者クラスターの一員であった症例6人が分析対象から除外された。また、少なくとも1つの除外基準に該当した対照42人も除外された。

図1:イタリアの5地域での発症週別のA型肝炎患者数(2013年1月1日〜5月31日、n=127)


(患者は、届け出がなされた地域に応じて色分けされている。)

 したがって、症例119人(22%)および対照419人(78%)の計538人が分析対象となった。年齢中央値は症例群が37.0歳(範囲:3〜70歳)で、対照群が38.0歳(範囲:1〜72歳)であった(p=0.6384)。両群とも男性が過半数を占め、両群の性別構成に有意差は認められなかった。結果として、症例1人あたりの対照の人数の中央値は3.5人であった。

 分析対象となった症例119人のうち68人(57%)がEmilia Romagna州の症例であった(図2)。

図2:イタリアでのA型肝炎アウトブレイクにおいて症例対照研究の対象となった地域(2013年1月1日〜5月31日、n=5地域)


(本研究で対象となった5つの地域の名前と、それに続いて、本研究に参加した症例の人数および対照の人数が示されている。FVG: Friuli-Venezia Giulia、Puglia: Apulia)

○単変量および多変量解析

 単変量解析において対照群(419人)と比較して症例群でより高頻度に見られたのは、ベリー類の喫食(オッズ比(OR):4.42;95%信頼区間(CI)[2.70〜7.27])、生の魚介類の喫食(OR:4.65;95%CI[2.70〜8.00])、および旅行(OR:2.34;95%CI[1.45〜3.77])であった(表1)。多変量解析では、疾患との関連はベリー類の喫食が最も強かった(調整オッズ比(ORadj):4.2;95%CI[2.54〜7.02])。

表1:単変量および多変量解析においてA型肝炎と正の関連が示されたリスク因子(イタリア、2013年1月1日〜5月31日)

 ベリー類の喫食を報告した症例および対照の大部分は家庭(70%、169/240)またはレストラン(15%、36/240)で喫食していた。喫食されたベリー含有食品としては、ヨーグルト(36%、86/240)、ケーキ(28%、67/240)、アイスクリーム(21%、51/240)、パンナコッタ(8%、19/240)、チーズケーキ(5%、13/240)、コーンフレーク(5%、11/240)およびフルーツジュース(1%、2/240)が挙げられた。その他にベリー類単独でも喫食されていた(5%、12/240)。喫食されたベリーの種類は、ブルーベリー(7%、16/240)、ストロベリー(3%、7/240)、ラズベリー(3%、6/240)、ブラックベリー(3%、6/240)、レッドカラント(2%、4/240)およびミックスベリー(82%、197/240)であった。

 多変量解析でHAV感染との有意な関連が2番目に高かったのは生の魚介類の喫食(ORadj:3.83;95%CI[2.16〜6.79] )で、3番目は旅行歴(ORadj:1.98;95%CI[1.15〜3.40])であった【編者注:原文中では数値が一部異なっているが、ここではTable 1の数値を紹介する】。発症前の旅行を報告した症例の過半数(60%)が行先としてイタリア国内(北部61%、中央部21%、南部17%)を挙げていた。30%は欧州外、残り10%はイタリア以外の欧州諸国への国外旅行であった。

 ベリー類の喫食と生の魚介類の喫食のA型肝炎発症に対する人口寄与割合(PAF)は同じ26%で、両リスク因子の寄与は同等と考えられたが、旅行歴のPAF値はこれらより低い16%であった。

 本症例対照研究の実施中に、症例119人のうち24人については、それぞれが感染したウイルスの塩基配列の情報が得られた。これらの配列は、VP1-2A重複領域の440ヌクレオチドにおいて、アウトブレイク株(HAV遺伝子型1A)と同一か、または高い相同性を有していた(ヌクレオチド同一性は99.8〜100%)。

 上述の分析疫学の結果を確認するため、これらの症例24人およびそれに対応する対照82人に絞って2番目の分析が行われた。症例24人のうち12人がTrento自治県、7人がApulia州、4人がEmilia Romagna州および1人がBolzano自治県の居住者であった。症例24人のうち17人(71%)がベリー類を、10人(42%)が生の魚介類を喫食していた。症例群と対照群とで性別構成に有意差はなかった。

 分析結果(表2)は、疾患発生との関連が最も強いリスク因子はベリー類の喫食(ORadj:4.99;95%CI[1.32〜18.92])で、次いで生の魚介類の喫食(ORadj:4.46;95%CI[1.10〜18.04])であることを示している。

表2:アウトブレイク株感染確定患者24人を症例とした単変量および多変量解析においてA型肝炎と正の関連が示されたリスク因子(イタリア、2013年1月1日〜5月31日)

 Apulia州の症例全員が生の魚介類の喫食を報告していたため、この州の症例を除外して3番目の分析を行ったところ、疾患に関連するリスク因子はベリー類の喫食のみとなった(OR:7.29;95%CI[1.56〜34.02])。

○考察

 ベリー類や野菜のうち、ラズベリーやパセリのように表面が滑らかではないものほど、表面にウイルスを保持する可能性が高いことが示されている。ラズベリーの果実には表面に割れ目や毛様の突起があり、このため洗浄してもウイルスを取り去ることが困難である。

 2013年には北欧諸国(デンマーク、フィンランド、ノルウエー、スウェーデン)および米国において、ベリー類の喫食に関連したA型肝炎アウトブレイクが発生した。北欧諸国のアウトブレイクは冷凍イチゴの喫食に、また米国のアウトブレイクはザクロ種子を含む冷凍ベリーミックスの喫食にそれぞれ関連していた。今回のイタリアのアウトブレイクに関連したHAVの遺伝子型は1Aであったが、北欧諸国や米国のアウトブレイクには遺伝子型1Bが関連していた。

(食品安全情報(微生物)No.19 / 2014 (2014.09.17) EFSA記事参照)


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部