EurosurveillanceからのA型肝炎ウイルス(HAV)感染アウトブレイクに関する食品関連情報
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イタリアで発生しているA型肝炎アウトブレイク:2013年5月31日時点の暫定報告
Ongoing outbreak of hepatitis A in Italy: preliminary report as of 31 May 2013
Eurosurveillance, Volume 18, Issue 27, 04 July 2013
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20518

(食品安全情報(微生物)2013年19号(2013/09/18)収載)
 2013年1月1日〜5月31日にイタリアの全国サーベイランスシステムに報告されたA型肝炎の患者計352人は、2012年、2011年および2010年の同時期の届け出数と比較すると、それぞれ70%、54%、および34%の増加となっている。患者の疫学的特徴とアウトブレイク調査の概要は以下の通りである。

イタリアでのA型肝炎サーベイランス

 イタリアではA型肝炎は届け出義務疾患である。法律にもとづき、検査機関で確定したA型肝炎ウイルス(HAV)感染患者については、疫学調査を担当する地域の保健所(LHU:local health units)に医師が届け出る。その後、LHUは各州の保健当局(RHA:regional health authorities)に、そしてRHAはイタリア保健省(Ministry of Health)に届け出を転送する。しかし、この通常の届け出システムではA型肝炎に関連するリスク集団およびリスク因子に関する情報が収集されず、またデータの伝達に重大な遅延が生じる。このため1984年に、公式の届け出システムと並行し、急性ウイルス性肝炎に特化した定点サーベイランスシステム(SEIEVA)が立ち上げられた。SEIEVAが収集するデータは自主的に参加している各LHUが提供するものであり、リスク因子に関する情報も含んでいる。SEIEVAでは症例定義を「発熱、倦怠感、悪心、嘔吐、腹痛、暗色尿、黄疸などのA型肝炎に適合する臨床症状を呈し、抗HAV IgM抗体が陽性である急性疾患患者」としている。症例患者にはオンラインで標準質問票による聞き取り調査が実施され、社会人口学的データ、臨床データ、検査データ、さらに可能性のあるリスク因子(貝類の喫食、黄疸患者との接触、流行地域への旅行、保育所に通う小児の家庭内での存在、過去6カ月以内の静注薬物使用)に関するデータが収集される。北欧諸国からA型肝炎患者と冷凍ベリー製品との関連に関する警告が発せられた後、2013年4月末に、冷凍ミックスベリーの喫食がSEIEVAの質問票にリスク因子として追加された。

 2013年5月31日時点で、イタリアのLHUの76%(139/181)がSEIEVAに参加している。参加LHUはイタリア全域に分布しており、全体で人口の70%をカバーしている。

イタリアでのA型肝炎の疫学的状況

 ここ数十年間でイタリアのA型肝炎の疫学的状況は変化した。イタリアは現在、HAVの地域的流行が低/中レベルの国であると考えられている。保健・衛生状況の改善により小児での感染率が徐々に低下してリスク集団の実態が大きく変化し、今では発生率は若年成人で最も高くなっている。A型肝炎アウトブレイクは1996〜1997年および2004年に主にイタリア南部(Apulia州、Campania州)で報告されており、これらは汚染された生の貝類の喫食に関連していた。HAV感染の人口10万人あたりの発生率は1997年には19であったが、その後は低下傾向にあり、2010、2011および2012年にはそれぞれ1.1、0.7、および0.8であった。

イタリアでの2013年のA型肝炎アウトブレイク

 2013年1月1日〜5月31日にSEIEVAに報告されたA型肝炎の患者数は計352人で、2012年、2011年および2010年の同時期と比較すると、それぞれ70%、54%、および34%の増加であった(図1)。

図1:イタリアでのA型肝炎の発症月(1〜5月)別の患者数(2010〜2013年)

 患者数の増加の割合は、2013年1〜5月に報告された総患者数の55%(193/352)を占めるイタリア北部の7地域(Trento自治県、Bolzano自治県、Emilia-Romagna州、Lombardy州、Friuli Venezia Giulia州、Piedmont州、Veneto州)で最も高かった。これら7地域における当該5カ月間の累積発生率は、人口10万人あたり2.66であった。これとは別にイタリア南部のApulia州でも2013年に患者数が22%増加しており、全国の総患者数352人のうち77人はこの州から報告された。

 図2は2010〜2013年1〜5月にイタリア北部7地域から報告されたA型肝炎患者の年齢層別分布である。2013年の患者の平均年齢は35歳(年齢範囲は2〜63歳)、年齢中央値は39歳で、23人(12%)が14歳未満の小児であった。性別は55%が男性であった。合計159人が入院し、入院患者の大多数は35〜54歳のグループであった。2013年5月31日時点で急性肝不全患者および死亡者は発生していない。患者のうち4人がA型肝炎ワクチンの接種を受けていたが、いずれも発症前3週間以内の1回のみの接種であったために、このためこれらの症例はワクチン不全とは見なされなかった。

図2:2010〜2013年1〜5月にイタリア北部7地域から報告されたA型肝炎患者の年齢層別分布

 リスク因子については、質問票に回答した患者193人のうち、7人(3%)がエジプトへの旅行、33人(17%)が生の魚介類の喫食、37人(20%)がミックスベリーの喫食を発症前6週間以内に行ったと報告した。4月末日(冷凍ミックスベリーの喫食が質問票に追加された日)以降に調査票に回答した患者のリスク因子については、大多数(37/46)の患者が冷凍ミックスベリーを喫食したと報告した。

TrentoおよびBolzano自治県での2013年のA型肝炎アウトブレイク

 2013年5月、ドイツ、オランダおよびポーランドから、食品・水由来疾患のための欧州疫学情報共有システム(EPIS-FWD)およびヨーロッパ早期警告・対応システム(EWRS)を通じて、イタリア北部TrentoおよびBolzano自治県でのスキー休暇に関連したHAV感染患者15人が報告された。

 EPISおよびEWRSへの通知を受け、上記の両自治県において後ろ向き疫学調査が開始され、地域の届け出システムを通じて報告されたイタリアの患者に対し聞き取り調査が行われた。この疫学調査において確定患者は、TrentoまたはBolzano自治県の居住者で、A型肝炎に適合する臨床症状を呈し、2013年1月1日以降に抗HAV IgM抗体陽性が確認された急性疾患患者と定義された。

 Trento県では2013年1月1日〜5月31日にHAV感染患者31人が報告された(2012、2011および2010年の同時期に比べそれぞれ約13、19および6倍の増加)。初発患者の発症日は2月2日と報告され、直近の患者は5月31日に特定された。患者の多く(15人)は5月に発症していた。

 Bolzano県では同時期に7人のHAV感染患者が報告された。これら2県の確定患者計38人の流行曲線は、本アウトブレイクが共通の感染源によって発生し、徐々に拡大したことを示している(図3)。

図3:TrentoおよびBolzano自治県のA型肝炎の発症週別の患者数(イタリア、2013年1〜5月、n=38)

 これら2県の患者は平均年齢が36.3歳(年齢範囲は3〜63歳)、年齢中央値が38.5歳で、男性(24人)の方が女性(14人)より多かった。全部で31人が入院し、入院患者の多くは35〜54歳のグループであった。Trento県から報告された患者1人がワクチン接種を受けていたが、発症前3週間以内の1回のみの接種であったため、ワクチン不全とは見なされなかった。

 患者間に何も疫学的関連性が確認できなかったため、リスク因子および共通の暴露を特定するための予備的疫学調査では汚染食品の喫食に焦点が当てられた。すべての患者が共通に喫食した食品はミックスベリー(またはミックスベリー含有食品(ケーキ))のみであった。

 疾患の急性期に血清検体が採取されていたのは38人中5人で、すべてTrento県の患者であった。これらの血清検体から得られたHAV 1A 型のVP1/2A領域のヌクレオチド配列(GenBank登録番号KF182323)は、ドイツ(2人)およびオランダ(1人)の患者由来の分離株と100%の相同性を示した。

原因食品の調査

 TrentoおよびBolzano県での予備的疫学調査から、複数の患者が共通に喫食した食品はミックスベリー(またはミックスベリー含有食品(ケーキ))のみであることが示された。さらに、Veneto州の家族患者クラスターについて実施された疫学調査の結果がこの仮説の強い裏付けとなった。臨床症状の発症に適合する時期に喫食したとこれらの家族患者が報告したミックスベリー(レッドカラント、ブラックベリー、ラズベリー、ブルーベリー)は、まだ一部が入手可能であったため検体が採取された。このミックスベリー検体は、HAV検査の結果、陽性であった。この結果を受け、5月17日にイタリア保健省(食品安全を担当)は食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF)を介してこれらの知見を通知した。

 このように暫定的に陽性の結果が得られたことから、ミックスベリー製品のサーベイランスが強化された。ベリー類が潜在的なリスク因子として特定されたため、イタリア全域からさらに多くのベリー検体が採取され、その結果、Trento県で採取された2検体からHAVが検出された。イタリア産冷凍ミックスベリーから新たにHAVが検出されたことを知らせるため、イタリア保健省は5月30日にRASFF を介して新たに2件の通知を行った。冷凍ミックスベリー用の原材料供給業者の環境調査が6カ国で実施された。その際に採取された検体の検査結果は現時点ではまだ未発表である。

対策

 2013年5月23日、イタリア保健省は、HAVに対するサーベイランスおよび啓発の強化のため、RHAに対し、HAVの新規患者はすべて24時間以内に報告すること、リスク因子に関する疫学情報を追加収集すること、およびすべての新規患者に由来するウイルス分離株についてその遺伝子型と塩基配列を決定することを推奨する文書を送付した。また、ベリー類が感染源であるとの仮説の裏付け、新たな潜在的リスク因子の検出、および適切な対策の特定のため、2013年に患者が最も増加した地域での症例対照研究の実施が計画された。イタリア国立衛生研究所(ISS)がウイルス学的調査、疫学調査および症例対照研究の間の調整を担当している。

 さらに、イタリア国内の様々な地域で採取された冷凍ミックスベリー検体からHAVが検出されたことを受けて、イタリア保健省は当該食品の追跡調査を開始した。この追跡調査により、複数の国(ブルガリア、カナダ、ポーランドおよびセルビア)から原材料のベリー類を輸入した1流通業者が特定された。原材料の混合はイタリア国内で行われた。

 イタリア保健省によるRASFFへの通知を受け、各州はHAV陽性が確認されたロットの回収を開始し、保健省のウェブサイトを通じて消費者に家庭で保存されている冷凍ミックスベリーの使用について助言を行った。現在でも食品の追跡調査が新規患者の報告のたびに行われている。

 欧州疾病予防管理センター(ECDC)は迅速リスク評価を実施し、その結果を2013年4月16日に発表した。

(食品安全情報(微生物)2013年19号 FSAI、HPSC Ireland記事参照)


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部