欧州疾病予防管理センター(ECDC)からのA型肝炎ウイルス(HAV)感染アウトブレイクに関する食品関連情報
http://www.ecdc.europa.eu/


イタリアの居住者およびイタリア旅行からの帰国者でのA型肝炎アウトブレイク
Joint ECDC-EFSA assessment: outbreak of hepatitis A virus infection in residents and travellers to Italy
29 May 2013
http://ecdc.europa.eu/en/press/news/Lists/News/ECDC_DispForm.aspx?List=32e43ee8%2De230%2D4424%2Da783%2D85742124029a&ID=928&RootFolder=%2Fen%2Fpress%2Fnews%2FLists%2FNews
(報告書PDF)
http://ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/hepatitis-A-outbreak-of-hepatitis-A-virus-infection-in-residents-and-travellers-to-Italy.pdf

(欧州食品安全機関(EFSA)のサイト)
http://www.efsa.europa.eu/en/supporting/pub/439e.htm
http://www.efsa.europa.eu/en/supporting/doc/439e.pdf(報告書PDF)

(ニュース記事)
Hepatitis A: EFSA and ECDC publish a joint rapid outbreak assessment
29 May 2013
http://www.efsa.europa.eu/en/press/news/130529a.htm

(食品安全情報(微生物)2013年12号(2013/06/12)収載)
概要

  •  2013年1月1日以降、ドイツ、オランダおよびポーランドで、ウイルスへの暴露が考えられる期間にイタリア北部のTrento自治県またはBolzano自治県に旅行していたA型肝炎ウイルス(HAV)感染の検査機関確定患者が計15人報告されている。また1月1日以降、イタリアのTrento自治県および全国でHAV感染患者数が増加している。これらのうちにはウイルスに暴露した可能性のある期間に欧州連合(EU)域外への旅行歴がある患者がいなかったことから、本事例は複数のEU加盟国にわたるアウトブレイクで、EU加盟1カ国で現在も暴露が続いている可能性が高いと考えられる。

  •  記述疫学的な調査の結果は、共通感染源による継続的な感染を示している。また、予備的な疫学調査および環境調査から、冷凍ミックスベリーが感染源である可能性が最も高い。

  •  多数の患者が発症前にベリー類を喫食したことを報告した。また、患者1人の家庭にあった冷凍ミックスベリーの1パックからHAVが検出された。ゲノムRNA塩基配列の決定および患者への聞き取り調査により、冷凍ミックスベリーが感染源であるという仮説を裏付ける追加的なエビデンスが得られると考えられる。ヒトおよび食品由来のHAVの塩基配列がイタリアで、またヒト由来のHAVの塩基配列がポーランドで決定される予定である。イタリアは現在、複数国にわたる症例対照研究を準備している。

  •  現時点での情報から判断すると、今後新たな患者が特定・報告される可能性が高い。欧州疾病予防管理センター(ECDC)は加盟国に対し、イタリア北部への旅行歴のあるHAV感染患者の増加に注意すること、本アウトブレイクの新たな患者全員を「食品および水由来疾患のための欧州疫学情報共有システム(EPIS-FWD)」に報告すること、患者への聞き取り調査の際は加盟国で共通の症例定義と質問票を使用すること、および、本アウトブレイクとの関連を確認するためHAV検体の一部について塩基配列を決定することを要請している。

  •  HAVアウトブレイクの発生が報告されている地域への旅行者には、旅行中のHAV感染リスクを低減させるためにワクチン接種が利用可能であることを伝えるべきである。各加盟国は自国のガイドラインにしたがい、二次感染を防ぐために、患者と密に接触する者の能動免疫または受動免疫を検討してもよい。

  •  現在、本アウトブレイクとは別に、北欧4カ国でのアウトブレイク、およびエジプト旅行からの帰国者に発生しているアウトブレイクの2件のHAVアウトブレイクについて調査が行われている。現時点ではこれら2件のアウトブレイクが相互に関連していることを示すエビデンスは得られていない。

疫学調査および微生物学調査の結果

 2013年5月8日、ドイツは、イタリア北部のTrento自治県およびBolzano自治県のスキーリゾートに旅行歴のあるHAV感染患者7人をEPIS-FWDおよびヨーロッパ早期警告・対応システム(EWRS)に報告した。

 その後、オランダおよびポーランドがTrento自治県の村やホテルに旅行歴のあるHAV感染患者をそれぞれ1人もしくは5人報告した。同様にイタリアは、2013年にTrento自治県でHAV感染患者が26人発生しており、このうち11人が5月に発生したことを報告した。Trento自治県では2011〜2012年の2年間に HAV感染患者が報告されたことはなかった。また、イタリアでは2013年3〜5月の全国のHAV感染届け出患者数が2012年の同期間に比べ70%増加していた。ドイツは5月21日および24日に新たに計2人の患者を報告した。2人ともBolzano自治県に旅行していた。

 ECDCは患者発生国と協力し、本アウトブレイクの症例定義を作成した(下記参照)。

 ドイツ、ポーランドおよびオランダの患者は2月下旬〜4月中旬にイタリアを訪れ、特に3月中旬に訪れた患者が多かった。これらの患者の発症日は3月下旬〜5月上旬であった。患者の滞在先としてはTrento自治県およびBolzano自治県の少なくとも6カ所の村が含まれていた。当該地方自治体当局は患者の宿泊先を訪れ、職員の聞き取り調査を行った。これらのホテルは現在オフシーズンであるため休業中である。ホテルに納品された食材に関して調査が行われている。

 一部のイタリアの患者を対象とした予備調査により、可能性のあるリスク要因として、Trento自治県またはBolzano自治県への旅行と冷凍ミックスベリーの喫食が明らかになった。イタリア北東部の患者4人が、家での夕食の際にベリー類を喫食したことを報告した。この夕食を調理した患者の家庭の冷凍庫にあったミックスベリーからHAVが検出された。

 現時点で遺伝子型および塩基配列が明らかにされているのはオランダの1人の患者に由来するHAVについてのみである。この患者由来のHAVは遺伝子型がIAで、塩基配列はEPIS-FWDまたはECDCから入手できる。この患者はイタリア滞在中にはベリー類を喫食しなかったと報告している。

 2013年5月24日時点で、Trento自治県およびBolzano自治県に関連する患者は41人が報告されている。国別の内訳はドイツが9人、ポーランドが5人、オランダが1人、イタリアがTrento自治県関連の26人である。

その他の情報

 現在、欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)加盟国では他に2件のHAV感染アウトブレイクが発生している。1件は北欧4カ国で発生中のアウトブレイクで、感染源として輸入冷凍イチゴが疑われている。もう1件は複数の欧州諸国でエジプト旅行からの帰国者に発生しているアウトブレイクで、食品由来の感染が疑われているが具体的な原因食品はまだ特定されていない。今のところ相互に関連のないこれらの2件のアウトブレイクは、それぞれが特定の別々のアウトブレイク株に関連していることがわかっている。現時点では、イタリア北部でのアウトブレイクでこれらに類似したウイルス株は検出されていない。

 2012年11月、食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF)にイチゴに関する通知が2件あった。

  • ドイツからの通知(番号2012.1603):ドイツ産イチゴヨーグルトケーキのHAV

  • ベルギーからの通知(番号2012.1534):中国産冷凍角切りイチゴのHAV

 オランダの公衆衛生検査機関は、塩基配列の決定のため汚染の疑いがある中国産の冷凍イチゴの検体をベルギーの食品規制当局から分与されたが、ウイルスは分離されなかった。

 2013年5月17日、イタリアの食品規制当局は、イタリア北東部でHAV汚染が確認された冷凍ミックスベリーに関してRASFFに通知した(番号2013.0694)。当該冷凍ミックスベリー製品はイタリアで製造され、ポーランド、ブルガリア、カナダおよびセルビア産の生のベリー類が使用されていた。

 RASFFへの通知が行われた後、当該冷凍ミックスベリーの販売業者は、当該製品の国内市場からの自主的な回収を開始した。現在、当該製品の追跡調査が行われている。

症例定義

 「HAV IgMが陽性の症候性患者」、「発症日(発症日が不明の場合は検査日)が2013年1月1日以降」、「イタリア北部への旅行歴がある」、および「イタリア北部への旅行以外にHAV暴露の可能性がない」のすべてに該当する患者。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部