欧州疾病予防管理センター(ECDC)からのA型肝炎ウイルス(HAV)感染アウトブレイクに関する食品関連情報
http://www.ecdc.europa.eu/


北欧4カ国で発生中のA型肝炎アウトブレイク
Joint ECDC-EFSA Rapid Outbreak Assessment: Outbreak of hepatitis A virus infection in four Nordic countries
15 April 2013
http://ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/Forms/ECDC_DispForm.aspx?ID=1099

(報告書PDF)
http://ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/hepatitis-a-rapid-assessment-nordic-countries-april2013.pdf(迅速リスク評価)

(食品安全情報2013年9号(2013/05/01)収載)

 2012年10月1日〜2013年4月8日に北欧4カ国(デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン)で、遺伝子型がIBで ゲノムRNA塩基配列が同一のA型肝炎ウイルス(HAV)の感染確定患者16人が報告された。ウイルスに暴露した可能性のある期間に欧州連合(EU)域外への渡航歴がある患者はいなかったため、本事例は複数国にわたるアウトブレイクであり、EU域内で現在も暴露が続いていると考えられる。また、記述疫学調査の結果は、本事例はEU域内に持続的に存在する共通感染源による食品由来感染 であり、同じ塩基配列を有するウイルスに汚染された複数の媒介食品が存在する可能性を示している。

疫学調査および微生物学調査の結果

 2013年3月1日、デンマーク国立血清学研究所(SSI)は、「食品および水由来疾患のための欧州疫学情報共有システム(EPIS-FWD)」を介して、国外旅行と関連のないHAV患者の増加を報告した。この患者の増加は、遺伝子型がIBで同一の部分RNA塩基配列(以下「アウトブレイク配列」と呼ぶ)を持つHAVに関連していた。アウトブレイク配列は1,231ヌクレオチドの長さで、VP3/VP1およびVP1/2A連結領域と、カプシドタンパク質VP1遺伝子のコード域を含んでいる。

 北欧4カ国での後ろ向きおよび前向き調査により、アウトブレイク配列を持つHAVに感染し国外旅行に関連のない確定患者16人と、塩基配列が不明のHAVに感染し国外旅行に関連のない高度疑い患者40人が2012年10月1日〜2013年4月8日に発生したことが確認された(図)。最初の確定患者はデンマークから報告され、発症日は2012年10月1日で、直近の確定患者はフィンランドから報告され、発症日は2013年3月28日であった。

 図1:A型肝炎確定および高度疑い患者の発生国および届け出月ごとの数(2012年10月〜2013年4月8日、N=56)

 年齢中央値(年齢範囲)は、確定患者が26.5歳(5〜73歳)、高度疑い患者が30.5歳(4〜62歳)である。確定患者の12人(75%)、高度疑い患者の23人(58%)が女性である。

 患者発生国では、最近のHAV IB患者分離株の塩基配列決定が進行中である。

 デンマークでは、包括的質問票による聞き取り調査およびマッチさせた症例対照研究(症例25人、対照50人)などの疫学調査が行われた。大多数の患者が冷凍ベリー類を喫食しており、作りたての冷凍ベリー類のスムージーの喫食が疾患と関連していた(マッチさせたオッズ比(mOR):12.5、95%信頼区間(CI)[2.8〜54.8])。疾患と関連が最も強かった食品は冷凍イチゴであった(mOR:15.8、95% CI[3.6〜68.6])。同国では患者の買物歴にもとづいた調査が行われているが、具体的な原因食品、ブランド名、食品チェーンはまだ判明していない。

 フィンランドは、デンマークの包括的質問票を自国用に改変したものを用いて患者の聞き取り調査を行った。患者8人のうち6人が冷凍ベリー類、5人が冷凍イチゴを喫食していたが、他の複数のベリー類やミックスベリー製品の喫食も報告された。

 スウェーデンも、デンマークの包括的質問票を自国用に改変した質問票を用いて調査を行い、現在その回答を分析中である。

 ノルウェーは、デンマークの症例対照研究で使用された質問票の拡張版を用いて症例対照研究を行ったが、結論は出なかった。

 各患者発生国では、患者の自宅の冷凍庫から冷凍ベリー検体が採取され、検査機関で検査が行われている。現時点では食品検体からHAVは検出されていない。

 2013年3月1日にEPIS-FWDを介してデンマークの最初の緊急照会が行われた際、EU加盟の4カ国(エストニア、ドイツ、アイルランド、オランダ)は、アウトブレイク配列を持つHAVの感染患者の異常な増加はみられていないことを報告した。

 オランダが2012年の8月と11月にEPIS-FWDを介して報告したHAV患者はイチゴを喫食しており、分離されたHAVは相互に同じRNA塩基配列を有していたが、この配列は今回のアウトブレイク配列とは異なっている。

 今回のアウトブレイク配列と類似(99%および98.7%の相同性)の配列を持つHAVが、以前にカナダ、フランス、オランダでエジプトより帰国した旅行者から検出されている。また、今回の遺伝子型IBの株は、2010年にスペインから報告されたGenBankアクセス番号HQ401265と99%の相同性、2006年にハンガリーから報告されたEF190998と98%の相同性を有している。

その他の情報

 2012年11月、食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF)にイチゴに関する通知が2件あった。

  • ドイツからの通知(番号2012.1603):ドイツ産イチゴヨーグルトケーキのHAV

  • ベルギーからの通知(番号2012.1534):中国産冷凍角切りイチゴのHAV

 ベルギーの食品当局は、塩基配列解析のため、中国産の汚染疑い冷凍イチゴの検体をオランダの公衆衛生検査機関と共有した。しかし、ウイルスは分離されなかった。

 2013年3月16日、国際食品安全当局ネットワーク(INFOSAN)は、EU域外での患者を確認するため警告を発したが、現在までに関連する患者の報告はない。

公衆衛生対策

 疫学調査に続き、デンマーク(2013年3月14日)、フィンランド(同3月20日)およびスウェーデン(同4月11日)の各食品当局は、冷凍ベリー類および外国産のベリー類は喫食前にすべて煮沸することを推奨した。

 4月12日、ノルウェー食品安全庁(Norwegian Food Safety Authority)およびノルウェー国立公衆衛生研究所(Norwegian Institute of Public Health)は、輸入冷凍ベリー類によるHAV感染のリスクは喫食前に煮沸することで低減できるという消費者向けの情報を公式のWebサイトに発表した。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部