米国農務省農業研究局(USDA ARS)からのインフルエンザA(H1N1)関連情報


(プロジェクト5)家禽の2009 新型H1N1インフルエンザA型ウイルスに対する感受性
Project 5: Susceptibility of poultry species to the 2009 novel H1N1 influenza A virus
Last Modified: 04/30/2010
(食品安全情報2010年12号(2010/06/02)収載)

 2009新型 H1N1パンデミックインフルエンザウイルス(pH1N1)には鳥および豚インフルエンザウイルスの遺伝子が存在することから(図参照)、pH1N1に感染したヒトまたはブタへの暴露による家禽のpH1N1感染の可能性に関して問題提起がなされている。特に七面鳥については、A型インフルエンザウイルスに感受性があること、およびヒト・ブタ・トリ由来の3種類のインフルエンザウイルスの遺伝子を混合して保有する再集合H3N2豚インフルエンザウイルスに感染した記録があることから、重要な問題となっている。米国農務省農業研究局(USDA ARS)の研究者は、家禽におけるpH1N1の伝播および感染の可能性を調査するため、七面鳥、ニワトリ、飼育アヒルおよび日本ウズラに対しpH1N1の鼻腔内接種を行った。その結果、これらの種のうち臨床症状を呈したものはなく、ウイルス複製はまれで、日本ウズラの口腔咽頭の拭き取りでのみ複製ウイルスが検出された。この日本ウズラの個体からこれら4種の個体への直接接触によるウイルス伝播はなかった。この最初の調査から、七面鳥、ニワトリおよび飼育アヒルではpH1N1の自然感染のリスクは低いが、日本ウズラでは感染の可能性があることが示唆された。pH1N1を想定される自然感染の経路にしたがって鼻腔内接種により投与した場合、七面鳥が感染に対し抵抗性を示すことはいくつかの他の研究によっても明らかにされている。しかし、米国のバージニアおよびカリフォルニアの両州、チリ、カナダならびにフランスの七面鳥繁殖農場においてpH1N1アウトブレイクが発生し、産卵率の低下をもたらしている。そこで引き続く調査では、産卵用七面鳥の鼻腔内、排泄腔内および子宮内にpH1N1ウイルスを接種した。その結果、七面鳥は排泄腔および子宮を介して感染し、鼻腔経路では感染しなかった。子宮内接種をした七面鳥では、生殖器官におけるウイルスの複製により産卵率が低下したが、被接種七面鳥自体は臨床症状を呈さなかった。近年の七面鳥生産においては雌の七面鳥に受精卵を産卵させるために子宮内(人工)受精法を行うことから、子宮を介したインフルエンザウイルスへの暴露は現実的な懸念である。七面鳥群におけるpH1N1アウトブレイクの発生はこのような機序によって説明できると考えられる。

図:インフルエンザA型ウイルス
 現在北米で流行している豚インフルエンザA型ウイルスの8本の遺伝子分節の状態、およびパンデミックH1N1ウイルス発生への関与が考えられる一連の遺伝子再集合を示す。3重再集合H3N2ウイルスが古典的H1N1(cH1N1)と再集合し、3重再集合粒子内部蛋白質遺伝子(triple reassortant internal gene: TRIG)カセットを有するrH1N1およびH1N2サブタイプウイルスが生じた。さらにユーラシアH1N1ウイルスとの遺伝子再集合により、ヒトパンデミックH1N1ウイルスが生じたと考えられる。これらの遺伝子再集合が起きた宿主および地域は不明である。TRIGカセットはグレーの四角形で示し、遺伝子分節(横棒)の色はそれぞれ、古典的豚ウイルス系統(ピンク)、ヒトウイルス系統(青)、鳥ウイルス系統(緑)を示している。cH1N1豚ウイルスは米国で1930年に初めて単離され、1918年のパンデミック時に鳥ウイルスから生じたものと考えられている。ユーラシアH1N1ウイルスはヨーロッパで1970年代に鳥ウイルスがブタに感染することにより生じたものである。


http://www.ars.usda.gov/2009H1N1/figure4.jpg

http://www.ars.usda.gov/2009H1N1/


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部