欧州食品安全機関(EFSA)からのインフルエンザA(H1N1)関連情報


パンデミック(H1N1)2009インフルエンザおよびその動物の健康に及ぼす影響に関する科学的意見
Scientific Opinion on current pandemic (H1N1) 2009 influenza and its potential implications for animal health
Published: 4 October 2010, Adopted: 9 September 2010
http://www.efsa.europa.eu/en/scdocs/scdoc/1770.htm
(食品安全情報(微生物)2010年23号(2010/11/04)収載)

 欧州委員会(European Commission)からの要請にもとづき、欧州食品安全機関(EFSA)の動物健康パネル(Panel on Animal Health and Welfare)はパンデミック(H1N1)2009インフルエンザおよびその動物の健康に及ぼす影響に関して科学的意見を提出した。

  • パンデミック(H1N1)2009(pH1N1)ウイルスの解析から、このウイルスはブタ、トリ、ヒトのインフルエンザウイルスの遺伝子分節を今までに観察されたことのない組み合わせで持つことが明らかとなった。pH1N1ウイルスはブタ起源である可能性が高いが、ヒトに出現する以前にブタで検出されたことはない。
  • ヒト感染に加えて、主にブタ、また七面鳥、ネコなどその他の動物におけるpH1N1ウイルス感染が全世界で報告されている。
  • pH1N1ウイルスに感染したヒトに曝露することにより、ブタは時折、自然感染してきた。ブタ群間および群内でこのウイルスの拡散が観察されているが、包括的な疫学サーベイランスはノルウェー以外では実施されていないため、全世界のブタ集団におけるpH1N1の汚染率は未知である。
  • ブタの自然感染では臨床徴候を呈さないことが非常に多く、咳や発熱などの臨床徴候を呈した場合でも通常は重症ではなく、今まで発症率は低かった。死亡例は観察されていない。
  • ブタ間での伝播によるpH1N1ウイルスの継代が起きているが、豚インフルエンザウイルス(SIV: swine influenza virus)に未感作のブタ群においてもウイルスの病原性の増悪は観察されていない。
  • 現在、pH1N1ウイルスがEUのブタ集団の健康に及ぼす影響は総合的に最小限であると考えられ、世界の他の地域でもその状況が異なることは示されていない。
  • 実験感染させたブタにおけるpH1N1ウイルスの病原性は典型的な呼吸器系感染によるものであり、世界中のブタ集団に蔓延している地域性SIVの病原性に類似している。すなわち、実験感染ブタの臨床徴候は発熱、咳、食欲不振と多様であるが、いずれも比較的軽度である。
  • 家禽では、pH1N1アウトブレイクは七面鳥繁殖群においてのみ報告されている。七面鳥繁殖群でのアウトブレイクの原因はpH1N1ウイルスに感染した人工授精作業員からの感染であると考えられる。現時点では、pH1N1ウイルスの七面鳥群内水平伝播は確認されていない。七面鳥のpH1N1ウイルス感染の主な臨床徴候は、産卵数の減少および卵殻品質の低下である。
  • 七面鳥、鶏、アヒルは呼吸器を介したpH1N1ウイルスの実験感染に抵抗性であるが、七面鳥は子宮内もしくは排泄腔を介して実験感染させることが可能である。
  • 動物の健康の観点からは、pH1N1に対する特別な管理対策は必要ではないと考えられる。
  • 感染が発生した疫学単位において、ウイルス排出の終了を示すために臨床徴候を一時的な代替として用いることは、ブタもしくは家禽の場合ほとんど役に立たない。これらの動物種においては、ウイルス排出と臨床徴候は時系列にもとづいた疫学的な判断材料とするには、相互に関連していない。従って、感染性(ウイルス排出)の消失の推定のために、疫学単位のレベルで臨床徴候の終了および徴候終了後の期間の長さ(例えば7日間)を使用することは、科学的な妥当性に欠けている。
  • 欧州で市販されている既存のSIVワクチンの接種は、ブタにpH1N1インフルエンザウイルス感染に対してある程度の交差免疫をもたらすが、特異的pH1N1ワクチンの方がより効果的である。特異的ワクチンは、動物個体におけるpH1N1の増殖および疾病の発生を顕著に減少させ、場合によっては完全に防止するであろう。
  • 現在入手可能なデータによると、ブタのpH1N1の疫学状況はpH1N1ワクチンの接種を正当化するほどではない。自発的な接種によりブタを保護することは可能であろうが、十分な割合の養豚場がカバーされない限りは、ブタ集団におけるpH1N1ウイルスの拡散を阻止することはできないであろう。現段階では、家禽に対し使用可能なH1インフルエンザウイルスワクチンは存在しない。
  • イノシシはpH1N1に感受性を示す可能性があるが、たとえそうであっても、疫学上重要な役割を果たすとは考えられない。2004年の家禽でのH5N1の流行開始以降に継続的に実施されてきたインフルエンザウイルスに対する拡大サーベイランスプログラムの実施にもかかわらず、イノシシおよび野鳥のpH1N1ウイルス感染は未だ報告されていない。

推奨事項:

  • 疾病への注意喚起のレベルアップや、動物集団内および集団間、ならびにヒト・動物間でのpH1N1拡散を阻止するバイオセキュリティー対策の確実な実施を促す情報を重要視する必要がある。
  • 人工授精時に七面鳥繁殖群へpH1N1ウイルスが感染するリスクに留意する必要がある。人工授精時のpH1N1感染リスクの低減のために特別のガイドラインを作成する必要がある。
  • pH1N1による臨床徴候は多様かつ非特異的であり、無症候の場合もあるため、臨床徴候は、感染群のpH1N1ウイルス感染の終了の判断材料としては、信頼性が低い。従って、農場や動物群からのpH1N1ウイルスの排出状況を確認する必要がある場合は、群内のpH1N1ウイルス推定汚染率に従った検体数の鼻腔/口腔咽頭スワブ(ブタ)、または口腔咽頭/排泄腔スワブ(家禽)をpH1N1特異的 PCR法を用いて検査することが推奨される。検査は確定診断の14日後に開始し、ウイルス排出が観察されなくなるまで2週間の間隔で継続する必要がある。ブタでは8〜12週齢の個体を主な対象とすべきである。
  • 届出義務のない型のインフルエンザAウイルスの検出時には、家禽でのH5/H7ウイルスを対象とした症候群サーベイランスにpH1N1ウイルスの検査手順を含めることを検討してもよいと考えられる。これにより、pH1N1ウイルスが家禽に対する指向性や病原性を変化させた場合に備え、その判定のためのベースラインデータが得られる。
  • pH1N1ウイルス対策としてのブタのワクチン接種には緊急性がないが、ブタ集団でのpH1N1ウイルスの疫学的状況が変化した場合を考えると、pH1N1ウイルスにもとづいた特異的ワクチンを保有することは有用である可能性がある。
  • 現段階では、家禽に対してpH1N1ウイルスワクチンの接種は必要ではない。
  • 病原性等の変化を含めたpH1N1ウイルスの更なる進化を検証する性状解析データを取得するため、ブタおよび家禽集団で蔓延しているインフルエンザウイルスのモニタリングを推進すべきである。この情報は共有し、ヒト由来pH1N1ウイルスの類似情報と共に解析すべきである。

今後の研究に関する推奨事項:

  • 今回のパンデミック前の10年間に、各国で実施されたサーベイランスプログラムにより検出され、現在利用可能な状態で保存されている豚インフルエンザウイルスを可能な限りシークエンス解析し、pH1N1の出現に関連した要因の理解を促進する科学的データを収集すべきである。

http://www.efsa.europa.eu/en/scdocs/doc/1770.pdf(報告書)
http://www.efsa.europa.eu/en/scdocs/doc/s1770.pdf(Summary)


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部