英国環境・食糧・農村地域省(Defra)からのインフルエンザA(H1N1)関連情報


ヒトで世界的流行を起こしているインフルエンザA(H1N1)のブタへの感染・伝播実験:初期結果の要旨(Update 1、29/05/09)
Pig infection studies with influenza A (H1N1) associated with global epidemic in humans.
Preliminary Summary-Update 1, 29/05/09
(食品安全情報2009年13号(2009/6/17)収載)

4 June 2009 (Defra: Swine flu(Swine influenza) Latest situation)
http://www.defra.gov.uk/animalh/diseases/swine-flu/index.htm

 英国環境・食糧・農村地域省(Defra: Department for Environment, Food and Rural Affairs, UK)の英国獣医学研究所(VLA: Veterinary Laboratories Agency, UK)は、ヒトで世界的流行を起こしているインフルエンザA(H1N1)のブタへの感染・伝播実験の初期実験結果の要旨を発表した。

実験の目的:

     ヒトで世界的流行を起こしているインフルエンザA(H1N1)のブタにおける感染動態、臨床症状、発症機序、宿主感受性および伝播性を明らかにする。

実験の概要:

 グループA

    インフルエンザA(H1N1)ウイルスを鼻腔内へ経気接種したブタ11頭
 グループB
    ウイルスなしで経気接種操作を行った対照ブタ2頭、接種なしの対照ブタ1頭
 グループC-F
    接触伝播実験のために(モニタリングの期間をおいて)2頭ずつ順次、感染ブタへの接触曝露を受けた未感染ブタ8頭(以下参照)

    ・接触伝播実験としては、まず経気接種後(dpi)2日目に、直接感染ブタと同じ部屋に接触実験ブタ2頭を入れ接触伝播実験を行った。1回目の接触実験ブタ2頭は、どちらのブタからもウイルス排出が確認されるまで(約72時間)、接触を継続させた。この時点で1回目の接触実験ブタは別の部屋に移し、次の2頭の未感染の接触実験ブタをこの別の部屋に入れ、2回目の接触実験ブタ2頭からウイルス排出が確認されるまで接触を継続した。4回の伝播サイクルが完了するまでこの操作を繰り返した。

モニタリングおよび実験操作:
    ・体温および体重測定等、一連の臨床評価を毎日行った。

    ・サンプリング:口腔咽頭、鼻腔、眼、直腸から毎日拭き取り検体を採集した。-1〜4日目および7日目の各日に血液検体を採集し、ウイルス血症および急性期タンパク質合成を評価した。週に2回、液性抗体検査のための血液検体を採集した。

    ・剖検:グループA のブタについて死後検査(PME)を接種後1 日目に行い(1頭のみ)、以後2、3、4 および7日目には各2頭ずつ行った。これにより組織検体一式を採集した。

初期結果:
[注意:以下の結果は暫定的なものであり、十分な分析が終了した際に変更される可能性があるため、これらの結果は現時点では参考としてのみ利用すべきである。]

    ・臨床症状:鼻汁分泌、発熱(>39.5℃)、呼吸器症状(主に咳、一部で呼吸数上昇)、眼漏、嗜眠(lethargy)、食欲不振が見られた。疾病率は限定的であった(limited morbidity)。臨床症状スコアは接種後4〜6日目にピークを示し、7 日目以降に漸次的な回復が明らかに認められた(2頭で)。接触実験ブタにおいては、発熱は接触開始後(dpc)5〜9日目以降に確認された。接触実験ブタでは直接感染ブタと比較して臨床症状が軽かった。

    ・ウイルス排出:リアルタイムRT-PCRにより確認した。全ての経気接種ブタで感染が成立し、接種後1〜9日目以降に主に鼻-咽頭経路でウイルスを排出し、排出のピークは接種後3〜5日目であった。口腔および眼からの排出は断続的に見られたが、直腸からの排出は確認されなかった。排出は接種後10日目までには停止したと考えられた。接種後1〜7日目で採集した血漿検体からウイルスRNA は検出されなかった。

    ・肉眼病理所見:接種後2 日目の剖検では軽度から中程度のカタル性鼻炎が見られただけで肺疾患の肉眼病理所見は見られなかった。接種後3日目および4日目の死後検査においては(2頭ずつ)、鼻炎は確認されず、肺の病変も少なかった(孤立した硬化小葉がごく一部で確認されただけであった)。接種後7日目ではさらに広範囲の肺病変が確認され、急性気管支肺炎および気管支と咽頭後のリンパ節におけるリンパ節症の徴候が確認された。

    ・伝播:接触実験ブタは直接感染ブタと同様の症状を示し、特に1、2回目の伝播サイクルでは顕著であった(接触時間72時間)。リアルタイムRT-PCRによるウイルス排出の検出により、伝播の成立は直接感染ブタと1 回目の接触実験ブタ2 頭の間で確認され(伝播サイクル1)、その後の2頭ずつを用いた伝播サイクル(伝播サイクル2、3、4)でも確認された。ウイルス排出のピークは伝播サイクル1 では接触開始後3 日目、伝播サイクル2では接触開始後5〜6日目で、接触開始後6〜9日目までに排出が止まったと考えられた。伝播サイクル3および4では伝播の進行が明らかに遅れていた(サイクル3では4日以上の遅れ)。

結論の概要:

     今回の実験条件下において、ブタはインフルエンザA(H1N1)感染に感受性であり、検出可能な臨床症状、ウイルス排出および病理症状を呈する。重要なこととして、感染したブタは死亡せず、また感染ブタから未感染のブタへの接触により少なくとも3サイクルのウイルス伝播が可能であることから、ウイルスが感受性のブタ群内に定着する可能性があるとしている。

http://www.defra.gov.uk/vla/diseases/docs/dis_si_study.pdf


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部