米国疾病予防管理センター(US CDC)からのインフルエンザA(H1N1)関連情報


商業用養豚場におけるパンデミック(H1N1)2009ウイルス感染(タイ)
Pandemic (H1N1) 2009 Virus on Commercial Swine Farm, Thailand
Emerging Infectious Diseases, Volume 16, Number 10- October 2010
(食品安全情報2010年22号(2010/10/20)収載)

要旨
 タイの商業用養豚場において豚インフルエンザのアウトブレイクが2009年11月から2010年3月にわたって発生した。調査により、ブタ群はパンデミック(H1N1)2009ウイルスおよび季節性豚インフルエンザ(H1N1)ウイルスの両者に感染したことが判明した。今回のアウトブレイクにおいて、パンデミック(H1N1)2009ウイルスの遺伝子再集合やブタからヒトへの感染のエビデンスは見つからなかった。

背景
 パンデミック(H1N1)2009ウイルスとして現在知られているブタ由来新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスが、2009年4月にメキシコおよび米国のヒトに出現し、全世界に蔓延した。2009年5月には、メキシコへの旅行歴のある2人のタイ人でパンデミック(H1N1)2009ウイルスが確認された。このウイルスのヒトでの出現直後に、アルゼンチンおよびカナダの養豚場で、このウイルスのヒトからブタへの感染が報告された。

調査および結果
 2009年11月初旬に、タイ中央部の小規模な商業用養豚場が、幼ブタ(nursery pigs)に呼吸器系の問題が発生したことを報告した(罹患率50%、死亡率10%)。当該養豚場は3,235頭のブタ(雌ブタ700頭、雄ブタ35頭、子ブタ(piglets)1,000頭、幼ブタ(nursery pigs、離乳後)1,000頭、肥育ブタ500頭)を、両側から空気が自然流出入する一般的な開放系豚舎で飼育していた。この養豚場では、養豚場内の他の豚舎から常時幼ブタが搬入され、種々の週齢のブタを同じ豚舎で飼育していた。病気のブタは感染症関連の各種臨床症状(発熱、咳、鼻汁、眼瞼浮腫、結膜炎)を呈した。
 20頭の幼ブタ(4-9週齢)の鼻腔スワブをRT-PCRにより検査したところ、すべての検体から豚サーコウイルス(porcine circovirus)2型および豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV: Porcine Reproductive and Respiratory Syndrome Virus)が、2検体からインフルエンザAウイルス(後にパンデミック(H1N1)2009ウイルスと判明)が検出された。
 2009年12月末にかけて、さらに種々の発症ブタの鼻腔スワブが検査され、その結果、幼ブタの2検体がインフルエンザウイルスA (H1N1)陽性であった。スワブよりウイルスを分離し、ゲノムを解析したところ、1株は豚インフルエンザウイルス(SIV: swine influenza virus)、1株はパンデミック(H1N1)2009ウイルスであった。
 その後、2010年3月上旬までに得られた鼻腔スワブ175検体の検査で、発症した幼ブタ由来の15検体がインフルエンザウイルスA (H1N1)陽性であった。これらよりウイルス8株を分離し、ゲノム解析を行った。H1N1以外のサブタイプのウイルスは検出されなかった。3月9日(ブタの取り扱い方法の変更後約1ヶ月)には、呼吸器症状を呈したブタは見られなくなり、鼻腔スワブ34検体のすべてがインフルエンザウイルス陰性であった。
 分離されたウイルスの全ゲノム解析により、幼ブタ群でSIV(H1N1)およびパンデミック(H1N1)2009ウイルスが同時に蔓延していることが明らかとなった。この調査の期間中に両ウイルスの間で遺伝子再集合が起きたことを示すエビデンスは得られなかった。
 パンデミック(H1N1)2009ウイルスの種間感染の有無を検証するため、2010年1月17日にブタ40頭(8グループから5頭ずつ)、養豚場作業員15人、および養豚場内ペット動物4匹(3匹の犬および1匹の猫)から血清サンプルを採取した。サンプルについてSIV(H1N1)およびパンデミック(H1N1)2009ウイルス抗原に関するヘマグルチニン阻害抗体検査を実施した。幼ブタ由来の21血清検体のうち、パンデミック(H1N1)2009ウイルスに対して抗体陽性の検体は2検体(9.5%)のみであり、SIV(H1N1)に対して抗体陽性の検体は8検体(38%)であった。他の種々の週齢のブタ由来の血清検体(20検体)において抗体陽性であったのは、パンデミック(H1N1)2009ウイルスに対しては11検体(55%)、SIV(H1N1)に対しては14検体(70%)であった。養豚場作業員へのこれらのウイルス感染は観察されず、パンデミック(H1N1)2009ウイルスのブタからヒトもしくは養豚場内ペット動物への種間感染は確認されなかった。

結論
 以前の報告と合致して、幼ブタはパンデミック(H1N1)2009ウイルス感染に感受性があることが明らかとなった。今後のインフルエンザパンデミックに備えるため、SIVのモニタリングおよび特性解析、ブタの血清学的サーベイランスを継続して実施することが必要である。

http://www.cdc.gov/eid/content/16/10/1587.htm


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部