米国疾病予防管理センター(US CDC)からのインフルエンザA(H1N1)関連情報


アルゼンチンの養豚場で発生したパンデミックインフルエンザ(H1N1)2009アウトブレイク
Pandemic (H1N1) 2009 Outbreak on Pig Farm, Argentina
Emerging Infectious Diseases, Volume 16, Number 2 - February 2010
(食品安全情報2010年22号(2010/10/20)収載)

要旨

 2009年6〜7月に、アルゼンチンの養豚場でパンデミック(H1N1)2009感染アウトブレイクが発生した。分子解析から、分離されたウイルスはパンデミック(H1N1)2009インフルエンザウイルスと遺伝的に関連していることが示された。このアウトブレイクはヒトからブタへの直接感染により発生したと推定された。

研究結果

 アウトブレイク
 当該養豚場は、ブエノスアイレス州にある1カ所で分娩段階から最終仕上げ段階までのブタの飼育を行っている完結型施設であり、雌ブタ(sow)519頭を飼育していた。出産時からとさつのための出荷時までのブタの死亡率は、今回のアウトブレイクの前後で変わらず9.5%であった。アウトブレイク発生の10日前に、養豚場経営者夫婦が自分たちのインフルエンザ罹患の徴候を報告していた。
 2009年6月15日に、40日齢以上の幼ブタ(nursery pigs)が、咳、呼吸困難、発熱、鼻汁、食欲不振などの臨床症状を呈した。幼ブタの30%が発症した。6月17日、成長用(growing)および肥育用(fattening)の合計8豚舎のブタにも類似症状が認められ、4,000頭(15%)が症状を呈した。臨床症状は1週間持続したが、6月22日には成長ブタ群および肥育ブタ群の咳指数(cough index)が2%未満となり、臨床症状の消失が明らかであった。

 病理所見
 アウトブレイクの発生に伴い、臨床症状が認められたブタ5頭が死後検査に供された。また、幼ブタ、成長ブタおよび肥育ブタから血清30検体を採取した。
 調べたすべての死後検査ブタの頭腹側肺に表面積の5〜60%にわたる硬化(cranioventral lung consolidation)が認められた。5頭のうち2頭の小葉には特徴的な暗赤色の散在性硬化病巣(チェス盤状)が見られた。3頭には、漿液線維素性多漿膜炎が認められた。
 4頭は重度の壊死性細気管支炎に罹患していた。中小の細気管支は好中球の細胞破片や滲出液で塞がれていた。気道病変部は剥皮するか扁平上皮で覆われていた。隣接する肺胞壁には、単核球による浸潤や小葉状の肥厚が生じていた。その他のブタでは、肺胞内腔がマクロファージ、好中球および線維素性滲出液で満たされていた。重度の炎症性の変性を示した細気管支上皮のみで、免疫組織化学的解析により、インフルエンザウイルスA型のNPタンパク質(ヌクレオプロテイン)が検出された。

 ウイルスの分子解析
 死後検査に供されたブタの気管支スワブおよび肺組織の各5検体に対し、rRT-PCR(real-time reverse transcription?PCR)、およびMDCK細胞を用いたウイルス分離を実施した。スワブ懸濁液および培養上清からウイルスRNAを抽出し、ウイルスcDNAを合成した。マトリックス蛋白質(M)遺伝子に対するrRT-PCR法によりインフルエンザA型のcDNAを検査し、米国疾病予防管理センター(US CDC)のプロトコル(2009年4月30日公開)を用いたrRT-PCR法によりパンデミック(H1N1)2009ウイルスを検査した。
 死後検査ブタ由来の検体は、どちらのrRT-PCRプロトコルでもすべてH1N1サブタイプ陽性であり、CDCのプロトコルを用いた場合のCt値(cycle threshold value)は16〜27サイクルの範囲であった。
 続いて、6月25日、7月2、10および31日に、3つのカテゴリーのブタ(幼ブタ、成長ブタ、肥育ブタ)から採取した鼻腔スワブ合計60検体の横断的調査を行った。これらの検体はrRT-PCR法ですべて陰性であった。
 また、6月30日、7月3および7日、臨床的に問題のないブタのとさつ時に気管支スワブ合計120検体を採取した。このうちの5%(6月30日の1検体、および7月3日の5検体)がどちらのrRT-PCRプロトコルでも陽性であった。
 肥育ブタ214頭に対し、6月30日以降、毎週、ELISA法(HerdChek Swine Influenza H1N1 Antibody Kit)による血清学的検査を実施した。アウトブレイクの発生時(6月15日)には、ブタの血清検体のすべてが抗豚インフルエンザH1N1ウイルス(SIV(H1N1))抗体陰性であった。しかし、15日後には、とさつ用のブタから採取した血清検体の98%が抗体陽性であった。
 ウイルス感染したMDCK細胞における細胞変性効果は一次継代培養開始72時間後に認められ、このウイルス検体について、すべての遺伝子分節をRT-PCR法で十分に増幅し、直接、塩基配列を決定した。HA、NP、NA、M1、およびNS遺伝子の全配列、PB2、PB1、およびPA遺伝子の部分配列が決定された。これらの配列とパンデミック分離株A/California/04/2009(H1N1)およびA/swine/Alberta/OTH-33-8/2009(H1N1)の配列との間に高い(>99.99%)相同性が認められた。

結論

 疫学的観点から考察すると、死亡例が少なく罹患率が25〜30%であることはSIV(H1N1)の臨床所見と一致し、カナダのアウトブレイクで確認された罹患率と類似していた。臨床症状の持続期間は1週間であった。しかし、アウトブレイク発生後15〜18日目にとさつブタから採取した気管支スワブ検体の5%がウイルスゲノム陽性であった。
 細気管支の全体的・部分的な閉塞を伴う上皮細胞壊死、剥離および好中球の浸潤は、SIV感染の顕著な特徴であり、インフルエンザA(H1N1)ウイルスを示唆するものであった。しかし、免疫組織化学でウイルス抗原が強陽性の結果を示したのは重度の細気管支炎を呈した細気管支のみであった。野外での観察から得られた今回の知見は、パンデミック(H1N1)2009ウイルスの実験感染から得られた知見を裏付けるものである。
 パンデミック(H1N1)2009ウイルスのヒトへの感染源についてはまだ確認されていない。本アウトブレイクは、インフルエンザウイルスがブタからヒトへ、およびその逆に種間伝播する可能性があるという考えを支持するものである。

http://www.cdc.gov/eid/content/16/2/304.htm


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部