米国疾病予防管理センター(US CDC)からのインフルエンザA(H1N1)関連情報


カナダのマニトバ州のブタ群におけるパンデミックインフルエンザA(H1N1)2009ウイルス感染
Pandemic (H1N1) 2009 Infection in Swine Herds, Manitoba, Canada
Emerging Infectious Diseases, Volume 16, Number 4- April 2010
(食品安全情報2010年9号(2010/04/21)収載)

 2009年4月21日、米国疾病予防管理センター(US CDC)は、カリフォルニア州南部の小児2人から新型インフルエンザウイルスA(H1N1)(以下パンデミック(H1N1)2009ウイルス)が検出されたことを発表した。その後、6月11日までにヒトにおいて感染が非常に急速かつ広範囲に拡大したため、6月12日に世界保健機関(WHO)がフェーズ6のパンデミックを宣言した。ヒトでの感染は発熱を伴う自己限定的呼吸器疾患で合併症はないが、重症例や死亡例も発生している。ヒトの臨床症状は一般に軽度であり、発熱、軽い咳、くしゃみ、鼻汁などである。症例の38%で嘔吐や下痢も報告されている。
 このパンデミック(H1N1)2009ウイルスはブタへの感染も確認されている。2009年5月2日、カナダのアルバータ州のブタ1群からウイルスが分離された。自然感染および実験感染でのブタの病態はどちらも軽度であり、臨床症状は発熱、軽い咳、くしゃみ、鼻汁などである。実験感染ブタには下痢もみられたが、これは二次的な症状である可能性がある。実験感染ブタの臨床症状は感染4〜5日後がピークであった。
 カナダのマニトバ州で2009年6月30日に初めて、ブタ1群からパンデミック(H1N1)2009ウイルスが検出された。同州では、その後も分娩ブタ、幼豚および仕上げ期のブタにアウトブレイクが発生した。
 本調査はパンデミック(H1N1)2009ウイルス感染アウトブレイクの発生後、ウイルスの排出期間を把握するためのものである。
 パンデミック(H1N1)2009ウイルスに感染していると診断されたブタ5群の検査を行った。生産、豚舎内で飼育している頭数、ワクチン接種状況、アウトブレイク前に従業員がインフルエンザ様症状を呈した日、発症日から算出したアウトブレイク発生日、検体採集日および陽性スワブ数に関する情報を収集した。各群で無作為抽出したブタから、診断後可能な限り早い時期に鼻腔スワブ32検体を採集し、全検体が陰性になるまで7日ごとにこれを繰り返した。鼻腔スワブはウイルス搬送用培地に保存し、冷蔵状態でマニトバ州の検査機関に提出された。インフルエンザA型ウイルスのゲノムRNAセグメント7(マトリックス遺伝子)に特異的な一般的リアルタイムPCR法と、豚インフルエンザH1型HA検出PCR法による検査を行った。
 検査を行った5群のうち、A群、B群およびD群は仕上げ期のブタ、C群は幼豚、E群は分娩ブタで、各群の頭数は850〜4,100頭であった。C群とD群では、アウトブレイクの16〜92日前にヒトの患者が報告された。A群とB群では、過去に感染が発生した群からブタが購入されていた。E群では接触した者の発症は報告されておらず、アウトブレイク前に過去に感染が発生した群からのブタの購入はなかった。E群のブタは、豚インフルエンザA/H1N1ウイルスとH3N2ウイルスの自家ワクチン(autogenous vaccine)接種を受けていた。
 ブタの臨床症状は軽度で死亡例もなかった。しかし、D群では、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、Mycoplasma hyopneumoniaeおよびブタシルコウイルスの同時感染があり、アウトブレイクに関連する死亡率1%が報告された。感染したいずれのブタにも嘔吐や下痢はみられなかった。
 臨床症状を呈してから10〜20日後の時点では、鼻腔スワブでパンデミック(H1N1)2009ウイルスは検出されなかった。また、とさつの前週(67日目)の検査では、ウイルス排出のエビデンスは認められなかった。
 パンデミック(H1N1)2009ウイルスに自然感染したブタにおけるウイルスの排出期間は、他の豚インフルエンザウイルス感染の場合と同様であった。また、症状は軽度であり、これも豚インフルエンザの典型的な臨床症状と同様であった。鼻腔スワブ検体の検査結果によるとパンデミック(H1N1)2009ウイルスは臨床症状を呈してから20日後まで排出されることがわかった。Langeらの研究(2009)によれば、この株に実験的に感染させたブタは感染後6〜11日間断続的にウイルスを排出し、11日目までにウイルス排出が停止したが、今回の結果はこれを支持している。別の報告では豚インフルエンザウイルスの流行株の鼻汁への排出は感染5〜7日後に停止するとされている。また流行している豚インフルエンザH1N1ウイルスから調製された自家ワクチン接種は、パンデミック(H1N1)2009ウイルス感染の予防にならない可能性がある。

http://www.cdc.gov/eid/content/16/4/706.htm


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部