Eurosurveillanceからの大腸菌O104関連情報
http://www.eurosurveillance.org/Default.aspx


フランス南西部で発生した大腸菌O104:H4による溶血性尿毒症症候群および出血性下痢症のアウトブレイク(2011年6月)
OUTBREAK OF HAEMOLYTIC URAEMIC SYNDROME AND BLOODY DIARRHOEA DUE TO ESCHERICHIA COLI O104:H4, SOUTH-WEST FRANCE, JUNE 2011
Eurosurveillance, Volume 16, Issue 26, 30 June 2011
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19905

(食品安全情報2011年14号(2011/7/13)収載)

アウトブレイクの概要

 2011年6月22日、フランス国立衛生監視研究所(InVS:French Institute for Public Health Surveillance)のAquitaine地域事務所に、フランス南西部ボルドー(Bordeaux)のRobert Picqué病院から計8人の溶血性尿毒症症候群(HUS:haemolytic uraemic syndrome)または出血性下痢症患者が報告された。このうち6人はボルドーのBègles地区で互いに近接して居住していた。6人のうち4人が女性(41〜78歳)、2人が男性(34〜41歳)で、これらの患者の発症日は6月15〜20日であった。

 2011年6月28日12時までに新たに患者7人が追加確定され、調査中の出血性下痢症患者の合計数は、溶血性尿毒症症候群を発症した8人を含めて計15人となった。

疫学調査

 最初の患者8人に対し、標準化された準体系的な質問票(semi-structured questionnaire)を用いて発症前7日間の食品喫食歴、旅行歴および下痢症患者との接触歴に関する聞き取り調査を行った。この最初の調査では、食品、食料品店・レストラン・イベント、動物との接触、レジャー活動で共通した暴露は特定されなかった。スプラウトの喫食を報告した患者もいなかった。市営水道水を使用していたのは患者のうち3人だけであった。患者1人が発症前7日間にフランス国内を旅行しており、国外を旅行した者はいなかった。

 共通の暴露因子が特定されなかったこと、患者の大多数が成人女性であること、およびスプラウトに関連してドイツで大腸菌O104:H4による大規模アウトブレイクが最近発生したことから、発症前2週間以内の野菜の喫食に関する詳細な調査項目を含む2回目の聞き取り質問票を作成した。

 最初の患者8人および新規患者7人への詳細な聞き取りの結果、15人中11人が6月8日に児童コミュニティセンターの一般公開行事に参加していた。会場で参加者に供された冷たいビュッフェ料理には、生野菜のサラダ(crudité)、3種類のディップソース、工場で調製されたガスパッチョ(生野菜の冷たいスープ)、2種類の冷たいスープ(ニンジン、クミン、ズッキーニ)、殺菌済みフルーツジュース、および各種食品(白ブドウ、トマト、ゴマ種子、アサツキ、工場で加工されたソフトチーズ、新鮮果物)を盛りつけたプレートが含まれていた。スープはフェヌグリーク(fenugreek)のスプラウトとともに供され、フェヌグリークのスプラウトはcruditéにも少量添えられていた。cruditéにはまた、脱脂綿上で発芽途中であるマスタードとルッコラのスプラウトも添えられていた。11人の患者中の1人は、症状が悪化しているため十分な聞き取りが終了していないが、自分の孫を迎えにセンターに行ったことが明らかになっており、行事に参加していた可能性がある。残りの4人にはセンターとの明確な関連はなかった。

 センターと関連がある11人のうち、9人が6月8日の行事でのスプラウトの喫食を報告したが、2人についてはまだ十分な聞き取りができていない。11人中8人がHUSを、3人が出血性下痢症を発症している。7人が31〜64歳の女性、4人が34〜41歳の男性で、発症日は6月15〜20日である。発症日が明確に特定されている8人の潜伏期間は7〜12日(中央値9日)である。

微生物学調査

 コミュニティセンターの行事でスプラウトを喫食したHUS患者5人から、志賀毒素をコードするstx2遺伝子を有した大腸菌O104:H4株が分離された。この分離株は、インチミン(eae)、エンテロヘモリシン(hlyA)およびEAST1毒素(astA)をコードする遺伝子が陰性であり、凝集接着性線毛(aggregative adherence fimbriae)の発現を制御するaggR遺伝子が陽性であった。分離株の抗菌剤耐性パターンは、ドイツの大腸菌O104:H4アウトブレイク株で認められたパターンと類似していた(アンピシリン、セフォタキシム、セフタジジム、ストレプトマイシン、スルファメトキサゾール、トリメトプリム、コトリモキサゾール、テトラサイクリンおよびナリジクス酸に耐性、イミペネム、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコールおよびシプロフロキサシンに感受性)。PCR解析により、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)blaCTX-M-15(グループ1)遺伝子およびペニシリナーゼblaTEM遺伝子の存在が示された。

 2011年5〜6月のドイツの大腸菌O104:H4アウトブレイクと関連してフランスで発生した2人の国外旅行関連患者から分離された大腸菌O104:H4株と、ボルドーのアウトブレイクの患者3人から分離した大腸菌O104:H4株とを、Rep-PCR法(繰り返し配列にもとづいたPCR法)および制限酵素XbaIまたはNotIを使用したPFGE法により比較した。その結果、2つのアウトブレイク株の間に遺伝的関連性が示された。両アウトブレイク株のプロファイルは、2004年と2009年に分離された2例の大腸菌O104:H4 stx2株、大腸菌O104:H21株、およびO104:H12株のプロファイルとは異なっていた。

食品追跡調査

 6月24日に食品追跡調査を開始した。6月8日の行事で供されたスプラウトは、6月2〜5日にセンターでルッコラ、マスタードおよびフェヌグリークの種子から発芽させたものであった。フェヌグリーク種子は最初、水道水に24時間浸し、その後ガーゼを敷いたジャムのビンに入れ、水道水で1日に2〜3回すすいだ。マスタードおよびルッコラの種子は、水道水で湿らせた脱脂綿上で発芽させた。これらは6月8日に収穫され、ビュッフェに供された。種子は全国チェーンの園芸用品小売店の1店舗から購入したもので、この店舗への供給元は英国の卸売業者であった。コミュニティセンターから残りのマスタードとルッコラの種子、ガスパッチョおよび水道水の検体、また園芸用品小売店からルッコラ、マスタード、フェヌグリークおよびその他の種子の検体をそれぞれ採取し、これらについて現在微生物学検査を行っている。

結論

 予備的データから、大多数の患者が成人女性であること、アウトブレイク疑い患者でのHUS患者の割合が著しく高いこと、志賀毒素産生性大腸菌感染としては潜伏期間が予想以上に長いこと、およびCTX-M ESBLを産生する大腸菌O104:H4株が分離されることなど、本アウトブレイクがドイツの大腸菌O104:H4アウトブレイクと同じ新規の疫学的、臨床的および微生物学的特徴を持つことが示された。この2件のアウトブレイクは、原因食品が同一の可能性がある。コミュニティセンターでの行事への参加者に関するコホート研究、および詳細な疫学、微生物学、食品追跡の調査が現在実施されている。フランスまたはヨーロッパの他の地域において同様のアウトブレイクが今後発生する可能性を排除することはできない。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部